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なぜSOMPOはグループを挙げて「AI工場」設立を急ぐか

SOMPOホールディングスが、グループ独自にAI工場を設立。グループ各社のシステムには「エッジコンピューティング」の仕組みも取り入れる。内製型でAI人材や技術獲得を急ぐ理由はどこにあるか。

» 2017年07月06日 10時00分 公開
[原田美穂キーマンズネット]

 いよいよ保険商品も超パーソナライズ化される時代に突入する機運が高まってきた。匿名加工情報を柔軟に流通できるようにした個人情報保護法の改正も、こうした動きを後押しする。将来的には「健康状態が良好で安全運転を心掛ける優良な顧客」のような属性であれば保険料が安くなるかもしれない。

エッジコンピューティング+AI工場

 SOMPOホールディングスとSOMPOシステムズは、グループ専用のAI工場「エッジAIセンター」を構築した。システム全体では、各業務拠点近くでAI処理を行うデータ処理サーバをNTT東日本のハウジングスペースに配置、処理済みデータをAmazon Web Services(AWS)に集約、その間を閉域ネットワーク網で接続する構成だ。これだけでは、データセンターとクラウドサービスを接続しただけに見えるが、狙いは、エッジコンピューティングとAI工場の設立にある(下図)。

ッジコンピューティング基盤のイメージ エッジコンピューティング基盤のイメージ(SOMPOホールディングス、SOMPOシステムズ、NTT東日本発表資料より)

 コールセンターや車両走行データの処理などは、それぞれ別の拠点で全く別のシステムが担っているが、これを「エッジコンピューティング」の考え方に即して、データの発生源の近くで一定の処理を行う。エッジで処理する情報としては、例えば画像データから特定のリスク要因となり得る情報の出現頻度だけを集計したり、コールセンターの音声データから感情に関わるスコアのみを抽出したりといったものが考えられるだろう。

 処理後のデータは、NTT東日本の閉域網接続サービス「クラウドゲートウェイ クロスコネクト」を通ってAWSに集める。こうすることで、データ処理を効率化し、総通信量を削減、データ蓄積に掛かるコストも削減できる。

 一方のAI工場では、処理済みデータや外部のデータソースを組み合わせて多数の分析モデルを検証する。グループ各社の事業領域に特化したデータセットを使った学習モデルを構築・蓄積していくことで競争力を高めていくという。

AI時代の企業競争力は学習工場への投資力がモノをいう

 AI工場というアイデアは、東京大学大学院特任准教授 松尾豊氏が提唱する「学習工場」に着想を得たものだ。

 松尾氏は企業がそれぞれ学習工場を持つことを提唱している*。ディープラーニングの技術が飛躍的に進展したことで、機械は目と耳、疑似的な感情を読み取る能力を得た。ディープラーニング技術はすぐにコモディティ化するため、ここで競争力となるのは、学習のためのデータと(計算処理のための)ハードウェアの性能、そしてそれらを駆使して分析モデルを構築、検証評価できる高度な人材だ。松尾氏は、企業はこれら人材に工場の設備投資同等の投資を行うべきだと提唱している。学習工場はこうした競争力の源泉となるリソースを集約し、学習済みモデルを製造して「出荷」する拠点として位置付けられている。

 一般に、データの準備や分析モデルの精度向上は、調整に必要な学習データ量と分析モデル評価と最適化に取り組む時間に依存するため、着手するならばできるだけ早く、多くのデータを対象とすることが望ましいとされる。SOMPOホールディングスでは、グループの事業に特化したエッジAIセンターを持つことで、他社との差別化を図り、市場競争力の向上を図るとしている。

 この取り組みの第一弾としてまずは「コールセンター業務の自動化やサービス品質の向上」を実現する予定。今後は「安全運転支援」「健康支援」「リスク予測」「介護見守り」などのサービスへの展開も目指すという。

 なお、エッジAIセンターではデータ分析専用機に「NVIDIA Tesla P100」を搭載した「IBM Power Systems S822LC for HPC(Minsky)」を採用する。GPU(Tesla)とPOWER8の組み合わせは、GoogleのAI基盤でも採用されていることが知られている。

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