米国の裁判制度は日本のそれとは異なり、原告と被告が双方とも、事案に関する全ての資料を開示する義務を負う。いわゆる「Discover制度(e-Discovery)」だが、中でも電子データの資料を裁判所の求めに応じて素早く提示する「e-Discovery」への対応は、米国でビジネスを展開する企業にとっては、訴訟リスクを管理する上で不可欠の取り組みだといわれている。
具体的には、社内に存在する膨大な量のドキュメントファイルやメールデータの中から、特定の事案に関連するものを裁判所の求めに応じて素早く検索し、提出しなければならない。これを人手で行うとなると膨大な手間が掛かるため、専用のシステムを導入するのが一般的だ。
例えば、大量のデータにインデックスを付与し、迅速に検索できるようにするツールなどを活用することが多い。この機能を持つe-Discovery支援サービスを提供する企業の1社である豪Nuixが提供するツールは、「パナマ文書」として有名になった法律事務所の機密文書に対する調査でも採用されている。1970年代から2016年までの取引に関わる3テラバイト近い膨大な量のデータを探索するため、自動インデクシングや文字列検索などの機能を使った効率化や調査時間短縮を図るアプローチを採用している。
パワハラやセクハラ、長時間労働などに対して世間の厳しい目が向けられる中、企業は従業員がコンプライアンス上問題のある行動を起こしていないかを、過去にさかのぼってチェックしなければならないケースが増えてきた。
退職者が訴訟を起こしたとき、退職と同時に各種社内業務のアカウントやデータを抹消したり、業務用PC端末をフォーマットしたりしてしまえば、万一の際に自社を守る証拠が消えてしまう可能性がある。この用途のためにメールアーカイブ製品を導入する例が増えている。
導入と同時に実行したいのは、運用の周知だ。メールアーカイブを実施していることを従業員一般に周知し、万一の事態には全ての証拠をお企業側が保全していることを明確に示すことで、従業員にコンプライアンス意識を定着させ、抑止力とすることができる。
退職者による機密情報の不正持ち出しや、不正残業代申請といった労務系のトラブルや訴訟リスクに対応するには、まず不正の証拠となるデータを確実に保全しておく必要ある。特に個人による不正な端末操作やインターネットアクセス、ファイルアクセスの履歴が残るPCの環境を保全しておくことが重要になる。
しかし、企業では一般的にサーバやデータベースのバックアップはとるものの、PCのバックアップをきちんととっている例は少ない。特に、ITに多くの手間や予算を掛けられない中堅・中小企業ではなおさらである。
ただし近年では、クラウドストレージを使ったり、データ量を削減したりしながら安価かつ手軽にPCのバックアップを行える製品やサービスが増えてきたことから、万一のトラブルを未然に防ぐ意味でも、あらためて検討しておくことをお勧めする。
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