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バッテリーレスの環境発電IoTデバイス「EnOcean」とは?5分で分かる最新キーワード解説(1/5 ページ)

IoTデバイスへの給電を不要にするバッテリーレスの「EnOcean」。数キロをカバーするエリアへと進化した新たなEnOceanの実力とは?

» 2018年03月20日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 今回のテーマは電池がいらないIoTデバイスとして注目される「EnOcean(エンオーシャン)」だ。環境エネルギーを効率よく電力に変える発電機構と超低電力の送信、送受信モジュールが合体したEnOceanデバイスは、ビルオートメーションなど室内用途に広く活用されるが、近年は見通し距離で最大8キロ圏内をカバー可能になり、LPWAセンサーデバイスとしても活用できる規格に進化した。

「EnOcean」って何?

 EnOceanとは、ドイツのシーメンス中央研究所のエネルギーハーベスティング研究開発部門のメンバーがスピンアウトして2001年に設立したEnOcean社が提供する、環境発電技術と超低電力無線通信技術を組み合わせたバッテリーレスソリューションのこと。

 環境発電技術と超低電力無線通信技術の組み合せは同社の特許技術であり、同社は環境発電機構搭載の無線通信モジュールを中心に、ケーブルやセンサーなどの要素部材を提供している。2008年にはEnOceanアライアンスが発足し、各社の対応製品はアライアンスの認証制度で認証され、認証製品には認証ラベルが付与される。そのラベルがあれば、どのメーカーの製品であっても相互運用性が保証されることになる。

スマートビルディングに普及する無線スイッチ

 EnOcean製品が最も普及しているのがビルオートメーション分野だ。中でもスイッチのボタンを押す物理的な力を電磁誘導によって電力に変える仕組みを搭載した無線スイッチは、日本を含め世界中の建物に普及している。照明器具のON/OFFや光量調整に利用されている無線スイッチの例を下に示す。

EnOceanモジュールを搭載した無線スイッチの例 図1 EnOceanモジュールを搭載した無線スイッチの例。左がスイッチの外観、中央はそのボタンカバーを外したところ、右がその中身の発電機構だ。右の写真の左側に見える板バネ(出っ張り部分)が押されると、電磁誘導の原理で電力が生まれる。バネの動きは1ミリだけで十分だ。写真では大きく見えるかもしれないが、中央のスイッチモジュールは縦横4センチ、厚さ1センチ程度である(出典:EnOcean)

 スイッチを押すとその力で発電して無線信号が飛び、受信装置を備えた照明器具が明かりのON/OFFを行うことができ、押し続けると何度も送信を続けるのでその回数に応じて調光が行える。室内の場合は30メートル以内(目安として。壁越しの通信も可能)にある受信装置との通信が可能だが、見通しのよい屋外では200メートル程度まで電波が到達する。基本的に室内用途で限定したエリアでの利用例がほとんどだ。

 フロアに数台のゲートウェイ(送受信機能を備えた制御装置)を設置し、無線スイッチの信号を近くのゲートウェイが検知して照明器具などに制御信号を送信する仕組みをとることが多い。環境に応じてゲートウェイは1台でもよいし、そう大きくない部屋ならスイッチと照明器具などが直接通信することもできる。ビルの複数フロアやたくさんの部屋を対象に集中管理したい場合はゲートウェイ同士をLANで接続することができる。電波が届きにくい特定箇所には適切な位置にリピーターを設置することで対応可能だ。

 スイッチを1回押すと350マイクロワット程度の電力が生まれ、その電力で信号の生成、エンコード、送信が可能になっている。同一信号の送信は必ず3回以上行われ、確実な電波到達が行える。2回目以降の信号を送るタイミングはデバイス個々に微妙な差があり、またデバイス個別のIDが用意されるため、複数のスイッチがまったく同時に押されたとしても、受信側のデバイスは適切に識別できる。

 このシステムの最も大きな利点は、フロアのレイアウト設計と変更が格段にシンプルになることである。有線でのスイッチ利用ではケーブル敷設設計と施工に大きなコストと時間が費やされる。無線スイッチを利用すれば、レイアウト変更があるたびに壁や天井に埋め込まれたケーブルを敷設し直すことがなくなり、時間的にもコスト的にも有利になる。

 もう1つは無線スイッチのメンテナンスが不要なことだ。赤外線などを利用するリモコンとは違い、電池交換や廃棄の手間やコストが生じない。メンテナンスレスで30年以上の継続使用も可能、電力ロスもないというランニングコスト面での優位性がある(初期投資は接点式スイッチよりも少々高額にはなる)。

 照明コントロールだけのために導入しても価値はあるものの、真価を発揮するのは各種センサーを利用する自動化システムへの応用シーンだろう。センサーを組み合わせることでビルオートメーションをはじめ、各種の自動化ソリューションがバッテリーレスで実現できるところに注目したい

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