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20時以降の残業を1割以下に……社外用PCを使った遠州鉄道の秘策とは事例で学ぶ!業務改善のヒント

「営業スタッフの多くがリモートアクセスツールを嫌厭していました」――使い勝手の悪いツールによって生産性の向上を妨げられていた遠州鉄道は、ある取り組みによって20時以降の残業を大幅に減らした。その秘策は。

» 2018年10月12日 10時00分 公開
[白谷輝英]

 持ち出しPCを貸与しているのに、従業員が本社や拠点にわざわざ戻って作業する――こうした場面に疑問を感じたことはないだろうか。営業など外回りの仕事を担当する従業員のすきま時間を有効に使うため、ノートPCなどの端末を持たせている企業は少なくない。しかし、PCの持ち出しは情報漏えいなどの元凶となる可能性をはらんでいる。生産性を向上させたい一方で、リスクを減らすためにセキュリティを厳重にした結果、従業員の業務が制限されるというジレンマを抱える企業は多い。

 遠州鉄道もそうした企業の1社だった。外出や出張を多くこなさなければならない営業スタッフに持ち出し用PCを貸与していたが、起動時に何度もIDとパスワードの入力を必要とするリモートアクセスツールの煩雑さを嫌って、持ち出し用PCから社内に接続をする事を避けている従業員も多かったと担当者は語る。

 この課題を解決すべく利用したのが「データレスPC」だ。データレスPCの導入後、残業時間は縮小傾向にあり、20時以降に社内に残る従業員が減った。そればかりか、管理部門への持ち出しPCに関する問い合わせも減少したという。

 VDIよりも、安価で動作が軽快、シンクライアントよりも性能がよく、PC管理の負担も軽くするデータレスPCとは何なのか。また、IT環境の変化を苦手とする従業員を多く抱える同社が、無理なくデータレスPCを普及させるためにとった意外な戦略とは。

接続までに数分もかかる――嫌厭(けんえん)されていたリモートツール

 静岡県浜松市に本社を置く遠州鉄道は、鉄道やバス事業はもちろん、自動車整備、不動産、保険、介護といった事業を展開する。グループ内には百貨店、レジャーサービス会社、建設会社などもあり、静岡県を中心とする人々の暮らしを幅広く支える。同社の保険事業部門に所属する営業スタッフは1日に3〜4件のアポイントメントをこなすが、訪問の間に発生する「すきま時間」をどう有効活用するのか、以前から苦心してきたと保険営業部生命保険営業3課 課長の深谷和彦氏は振り返る。

遠州鉄道 深谷和彦氏 遠州鉄道 深谷和彦氏

 「営業スタッフは、早めに訪問先の近くまで行き、車の中などで待機するのが普通です。この時間を使ってお客さまの保障内容などの情報を確認したり、新たな提案の見積書を作ったりできれば、仕事の生産性ははるかに高まります。また、保険部門のお客さまの中には、旅行業でお付き合いがある各地の旅館、ホテルの従業員のお客さまも多くいらっしゃるため、担当の営業スタッフは3日から1週間程度の出張に出ることが多い。ノートPCで存分に仕事ができれば、出張先での業務効率アップにも役立つと期待していました。そこで、持ち出し用のノートPCを営業スタッフに貸与し、USB型のリモートツールを使って社外から社内PCにアクセスできる仕組みを構築していたのです」(深谷氏)

 保険部門では顧客の個人情報を扱う業務が多く、普段から情報漏えい対策には気を遣っていた。社外から社内PCに接続するためのリモートアクセスツールもその一環だ。ところがこのツールは使い勝手が悪かった。インターネットに接続してログインするまでに、何度もIDとパスワードの入力を要するため、立ち上げに数分以上もかかっていたのだ。当時、営業スタッフの多くがこのツールを嫌厭(けんえん)していたと、保険営業部生命保険営業3課で社内システムの構築に関わる山本知世氏は振り返る。

遠州鉄道 山本知世氏 遠州鉄道 山本知世氏

 「営業スタッフの中には、ITリテラシーがそれほど高くない人もいます。IDやパスワードを何度も入れてログインするだけでもかなりの負担がかかっていました。接続エラーなどのトラブルも度々発生し、さらに、ようやく接続しても動作が遅く、事務作業に多くの時間を要していたのです。多くの人が『こんな環境で作業するくらいなら、会社に戻ってからやる方がましだ』と考えたのは、仕方のないことだったと思います」(山本氏)

 従業員は、顧客訪問後にオフィスや近くの拠点に戻り、たまった作業を終わらせる他なく、休日出勤や残業の増加につながっていたという。

VDIともシンクライアントとも違う……データレスPCとの出会い

 危機感を抱いた深谷氏と山本氏は、グループ会社である遠鉄システムサービスに、持ち出し用ノートPCの使い勝手を改善したいと相談した。遠鉄システムサービスの担当者が展示会で見つけたのが、横河レンタ・リースが提供する「データレスPC」ソリューションの「Flex Work Place Passage」(以下、Passage)だった。

遠鉄システムサービス 松浦鉄太郎氏 遠鉄システムサービス 松浦鉄太郎氏

 「Passageでは、ノートPCにOSやアプリケーションはインストールされていますが、データの書き込みは一切できません。データはRAMディスク上で処理された後、VPN経由で接続されたサーバに自動転送される仕組みです(図1)。電源を切ったりログオフしたりすればデータはRAMディスクから自動的に消えますから、万が一ノートPCを紛失しても情報漏えいの危険性がないのは大きな安心材料でした。またVDIとは異なり、アプリケーションはノートPC本体に入っていますので動作が軽快である点もメリットだと感じました」とグループ情報システム部ネットワーク開発課 主任の松浦鉄太郎氏は話す。

 遠鉄システムサービスは、社内にテスト環境を用意し、半年間にわたって検証を実施。VDIなど競合サービスとの比較も行った。最終的に、動作の安定性が高くコスト面でも有利だった点を評価し、Passageの導入を決定した。Windows 10への移行と並行して、リプレースした新しいPCに順次Passageをインストールし、データレスPCの運用にシフトすることとなったのだ。

 「新しいデータレスPCでは、指紋認証だけでログインできるようにしました。IDとパスワードを何度も入力してログインしていたころに比べると接続は各段に楽になります。また、起動や処理速度も速くなり、書類の確認や作成もスムーズに行えます。Passageに触れてすぐ、『これは行けそうだ』と直感しました」(山本氏)

遠州鉄道 保険グループ Flex Work Placeシステム構成図 図1 遠州鉄道 保険グループ Flex Work Placeシステム構成図

少人数の精鋭を“インフルエンサー”に

 データレスPCがもたらす多くのメリットにひかれてPassage導入に踏み切った同社だが、ツールの切り替えは従業員にも大きな影響を及ぼす。特に、ITリテラシーの高くない従業員が機器操作に迷ったりシステムトラブルにあったりした結果、契約を逃してしまっては意味がない。

 そこで、最初は限られたメンバーでスタートし、その感触をみて利用者数を拡大する方針をとり、Passageのノウハウを無理なく定着させることにした。その仕掛けづくりは非常に戦略的だ。遠州鉄道の保険部門のうち、持ち出し用PCの利用者は約140人。その内、2018年2月にPassageを使い始めたのは10人だけにとどめた。

 「最初は、(1)顧客先で突然の事態が起きたときにも対応できる、営業としての実力を持った人(2)トラブルが起きたとき、状況や原因について報告できるITリテラシーを持った人、という2つの条件に当てはまる人を選び、先行してPassageを使ってもらいました。また、グループウェア内に利用メンバーだけのチャットルームを設置(図2)し、トラブルが起きたら書き込み、従業員同士でアドバイスできる仕掛けも作りました」(山本氏)

 チャットルーム内では、指紋認証をよりスムーズにするためのおススメ情報といったTipsが共有された。こうして、大きなトラブルもなく、Passageを快適に活用するためのノウハウを蓄積する土壌ができた。

グループウェア上で交わされた、利用者同士のやりとり 図2 グループウェア上で交わされた、利用者同士のやりとり

 次に、利用者数を20人増やして30人とした。この段階でPassageを適用したのは、将来Passageが全面導入された際に指導役となるポジションの人たちだ。

 「彼らは幅広い営業メンバーと交流があるため、その視点で『この部分を直さないと、メンバーにとっては使いづらいよ』などの意見を多数挙げてくれました。集まった意見を遠鉄システムサービス側に伝え、さらなるブラッシュアップをお願いしたのです」(山本氏)

 ITに詳しい少人数でスタートし、次いでメンバーに活用法を指導できる“インフルエンサー”となりそうな人に適用するという遠州鉄道の戦略は、他社でも参考になるはずだ。

20時過ぎても作業をする人は1割以下に、営業の質も向上

 慎重に導入されたPassageは、早くも従業員の業務にプラスの効果をもたらした。山本氏によれば、外出先でのPC作業のハードルが下がり、資料確認や作成作業が促されることで、従業員の生産性は確実に向上したという。

 「資料作成のためだけに外出先から会社に戻ることも少なくなりました。移動時間も削減できた上に、夜に資料を作成するような状況も減っています。またPassageの導入を含め、さまざまな生産性向上の取り組みの成果として、従業員の残業時間も削減できました。以前は20時を過ぎても従業員の約半数は社内に残っていましたが、現在では1割以下になりました」(山本氏)

 同社の工夫も相まって、効果は確実に拡大した。深谷氏は、部門全体で「社外でも、社内と同じように作業ができる」という意識が高まり、生産性向上の動きが波及していると指摘する。以前は出張から戻ると、ほとんどの従業員は1〜2日を事務処理に費やしていたが、今では出張中に事務作業をこなす人が確実に増えたようだ。それだけでなく、早期に顧客データを蓄積できることで、営業の質を高めることにも貢献していると深谷氏は喜びを語った。

 「お客さまとの何気ないやりとりから、営業のきっかけがつかめるケースは多いものです。お客さまとの会話の履歴は、当社にとって大事な財産。しかし、以前は帰社してから情報を記録していたため、記憶が薄れてしまうケースが珍しくありませんでした。今は、訪問直後にデータレスPCを使って書き留められるようになったため、より詳細な内容を残すことも可能になりました。これは、営業施策を進める上で大きな利点です」(深谷氏)

管理するPCは半減、管理部門への問い合わせも激減

 管理部門としても、Passage導入によるメリットは大きかった。持ち出し用ノートPCを使って社内用デスクトップにリモートアクセスしていたころは、持ち出し用と社内用のPC2台を管理する必要があったが、Passageの導入によってPCが1台に絞られ、PC管理の手間が半減した。端末内にはデータが保存されないことから、端末交換もスムーズに済む。また、社内ログイン用のツールなどを使う必要がなくなった分、パスワード発行に関するトラブルも減ったと松浦氏は話す。

 「私たちの本来の役割は、保険事業部内のICT化を推し進めて生産効率を高めることです。以前は出先でのPCトラブルへの対処やパスワード回りのトラブル対処に忙しく、本来の仕事に時間を割けませんでした。Passageが導入されてからは、より本業に打ち込めるようになったと感じています。そして営業スタッフたちも事務作業にかかる時間が短くなった結果、お客さまと向き合う時間を増やせているのではないでしょうか」(山本氏)

 2018年9月時点で、遠州鉄道におけるPassageの利用者数は50人程度。10月には、これを部門の全従業員に拡大する予定だ。

 「トラブルなく導入が進むかドキドキしてはいますが、データレスPCの利用を拡大することで、さらなる業務効率化が図れることでしょう。創出した時間を、社内コミュニケーションや教育、お客さまとのやりとりにつなげられれば、顧客満足度アップを実現できると期待しています」(深谷氏)

(取材協力:横河レンタ・リース)

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