持ち出しPCを貸与しているのに、従業員が本社や拠点にわざわざ戻って作業する――こうした場面に疑問を感じたことはないだろうか。営業など外回りの仕事を担当する従業員のすきま時間を有効に使うため、ノートPCなどの端末を持たせている企業は少なくない。しかし、PCの持ち出しは情報漏えいなどの元凶となる可能性をはらんでいる。生産性を向上させたい一方で、リスクを減らすためにセキュリティを厳重にした結果、従業員の業務が制限されるというジレンマを抱える企業は多い。
遠州鉄道もそうした企業の1社だった。外出や出張を多くこなさなければならない営業スタッフに持ち出し用PCを貸与していたが、起動時に何度もIDとパスワードの入力を必要とするリモートアクセスツールの煩雑さを嫌って、持ち出し用PCから社内に接続をする事を避けている従業員も多かったと担当者は語る。
この課題を解決すべく利用したのが「データレスPC」だ。データレスPCの導入後、残業時間は縮小傾向にあり、20時以降に社内に残る従業員が減った。そればかりか、管理部門への持ち出しPCに関する問い合わせも減少したという。
VDIよりも、安価で動作が軽快、シンクライアントよりも性能がよく、PC管理の負担も軽くするデータレスPCとは何なのか。また、IT環境の変化を苦手とする従業員を多く抱える同社が、無理なくデータレスPCを普及させるためにとった意外な戦略とは。
静岡県浜松市に本社を置く遠州鉄道は、鉄道やバス事業はもちろん、自動車整備、不動産、保険、介護といった事業を展開する。グループ内には百貨店、レジャーサービス会社、建設会社などもあり、静岡県を中心とする人々の暮らしを幅広く支える。同社の保険事業部門に所属する営業スタッフは1日に3〜4件のアポイントメントをこなすが、訪問の間に発生する「すきま時間」をどう有効活用するのか、以前から苦心してきたと保険営業部生命保険営業3課 課長の深谷和彦氏は振り返る。
「営業スタッフは、早めに訪問先の近くまで行き、車の中などで待機するのが普通です。この時間を使ってお客さまの保障内容などの情報を確認したり、新たな提案の見積書を作ったりできれば、仕事の生産性ははるかに高まります。また、保険部門のお客さまの中には、旅行業でお付き合いがある各地の旅館、ホテルの従業員のお客さまも多くいらっしゃるため、担当の営業スタッフは3日から1週間程度の出張に出ることが多い。ノートPCで存分に仕事ができれば、出張先での業務効率アップにも役立つと期待していました。そこで、持ち出し用のノートPCを営業スタッフに貸与し、USB型のリモートツールを使って社外から社内PCにアクセスできる仕組みを構築していたのです」(深谷氏)
保険部門では顧客の個人情報を扱う業務が多く、普段から情報漏えい対策には気を遣っていた。社外から社内PCに接続するためのリモートアクセスツールもその一環だ。ところがこのツールは使い勝手が悪かった。インターネットに接続してログインするまでに、何度もIDとパスワードの入力を要するため、立ち上げに数分以上もかかっていたのだ。当時、営業スタッフの多くがこのツールを嫌厭(けんえん)していたと、保険営業部生命保険営業3課で社内システムの構築に関わる山本知世氏は振り返る。
「営業スタッフの中には、ITリテラシーがそれほど高くない人もいます。IDやパスワードを何度も入れてログインするだけでもかなりの負担がかかっていました。接続エラーなどのトラブルも度々発生し、さらに、ようやく接続しても動作が遅く、事務作業に多くの時間を要していたのです。多くの人が『こんな環境で作業するくらいなら、会社に戻ってからやる方がましだ』と考えたのは、仕方のないことだったと思います」(山本氏)
従業員は、顧客訪問後にオフィスや近くの拠点に戻り、たまった作業を終わらせる他なく、休日出勤や残業の増加につながっていたという。
危機感を抱いた深谷氏と山本氏は、グループ会社である遠鉄システムサービスに、持ち出し用ノートPCの使い勝手を改善したいと相談した。遠鉄システムサービスの担当者が展示会で見つけたのが、横河レンタ・リースが提供する「データレスPC」ソリューションの「Flex Work Place Passage」(以下、Passage)だった。
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