規模や業種を問わず、多くの企業が注目する「リファラル採用」。採用決定率が高く、離職率は低いというメリットがある一方で、成功までにはいくつかの障壁がある。その打開策とは。
従業員の人脈を活用する「リファラル採用」に注目が集まっている。「採用コストが下がる」「社風にマッチした人を採用しやすい」といったメリットによって多くの企業が関心を寄せており、日本では2014年から2017年の3年間でリファラル採用の制度を設計、運用している企業が53%も増加した(※)。
しかし、導入企業は思わぬ落とし穴にはまるケースが多い。「人事の手間が増えた」「社員の紹介率が上がらない」といった声が上がる。本稿では、リファラル採用を実施する企業が失敗に陥りやすいポイントを挙げ、ツールと制度の両輪で解決する方法を紹介する。
リファラル採用とは従業員からの紹介や推薦による採用方法のことであり、「紹介採用」とも呼ばれる。手法自体は新しいものではないが、2014年ごろからフリマアプリを提供するメルカリなどの成長企業が「成長の秘訣(ひけつ)の一つが求める人材を通年採用できるリファラル採用である」と発言し、リファラル採用という用語に関心が集まった。このころ、リファラル採用を支援するツールも生まれる。2015年11月には人材紹介業者のパーソルキャリアが社内ベンチャー事業(2018年にMyReferとして独立)としてリファラル採用の重要性を提唱し、リファラル採用を支援する「MyRefer(マイリファー)」サービスの提供を始めた。また、2015年に事前予約を開始していたリフカムも、2016年7月にリファラル採用支援ツール「Refcome(リフカム)」の提供を開始した。この時期、各社からリファラル採用支援を行うクラウド型のサービスが登場している。
現在は、日立、富士通、日産、パナソニックなどの大企業をはじめ、企業規模、業種を問わず数多くの企業がリファラル採用を取り入れている。なぜ、関心が高まっているのだろうか。従来、企業はメジャーな採用手段として就職情報メディアや就職エージェントを活用してきたが、コストの高止まりや決定率の低さなどの問題があった。「採用戦略を変えなければいけない」という風潮の中、1つの打開策としてリファラル採用に関心が集まっている。まずは、そのメリットを紹介しよう。
リファラル採用でリクルーティングを行う従業員は、応募者のスキルや性格を理解した上で募集ポストの説明ができるため、応募者は自分が働くシーン、あるいはオンボーディング(受け入れから定着までのプロセス)についてもイメージしやすくなり、理解の食い違いが生じにくい。結果的に、採用決定率が高く、離職率は低くなる。ある飲食チェーン店の企業では、2017年4月から従業員およびアルバイトのリファラル採用をはじめ、応募者の9割弱が採用に至り、採用決定数が約6倍に増加したという。
人材採用コストは、担当者の人件費、交通費などに加え、各種求人媒体への求人広告費と、人材紹介エージェントやコンサルタントに支払う依頼費、会社説明会や各種関連イベントに伴う会場費、入社案内の制作費と郵送費、メールの通信費など、外部業者への支払いが多い。一方、従業員がリクルーターとなるリファラル採用は外部業者への支払いを削減できる上、前述したように採用決定率が高く、早期に辞める確率も低いためROIが高いといえる。
エンゲージメントとは従業員と企業が互いに信頼できる関係であるかを表す概念だ。知人に自社を紹介する際には、自社のことを言語化して伝える必要があるが、その過程で自社の魅力や福利厚生をはじめとするメリットが再確認できる。リファラル採用の促進を全社で行うことで、会社全体のエンゲージメントも高くなる。
縁故採用は自社や取引先の有力者が推薦した人を対象に、採用することを前提とした特殊な採用枠というイメージが強い。一方、リファラル採用は社員が紹介した応募者に対し、共通のルールの下で公平に選考を行う制度であり、採用を前提とした選考を行うものではない。
メリットの多いリファラル採用だが、制度の運用を成功させるためには、幾つかの課題を乗り越える必要がある。解決策として、各社がリファラル採用を運用する上で便利な機能を有したツールを提供している。以下ではリファラル採用で課題となりやすいポイントごとに、役立つツールの機能を紹介しよう。なお、本稿ではリファラル採用を支援するツールを便宜上「リファラル採用ツール」と称することにする。
採用チャネルが増えれば、人事部門の負荷も高まる。リファラル採用では、従業員に採用ポストを告知し、応募があれば推薦した従業員とやりとりしながら対応を行い、案件ごとに進捗を管理しなければならない。このフローをメールや掲示板、採用管理システム(ATS)といった異なるツールで実行していては、人事担当者の負荷も大きい。
リファラル採用ツールでは、従業員への告知から選考までのフローを一元管理する仕組みを提供する。図1がその概略だ。
人事担当者は、従業員にマイページを発行して採用ポストを告知する(行程1)。従業員はスマホで求人情報を確認して、知人にSNSで簡単に情報共有し、応募を促す(同、2)。人事担当者は紹介者の活動情報や応募情報をコンソール画面で管理し、選考のプロセスに入る(同、5)。ツールでは選考プロセスも管理でき、必要な連絡は一部定型メールなどを利用して効率化が可能だ。
必要なアクションをツールで一元的に実行可能にすることで、人事担当者や紹介を行う従業員の工数も削減される。
リファラル採用の主要ターゲットは潜在転職希望者であるため、興味を持った応募者がすぐに応じられるわけではない。半年から数年といった時間をかけて理解を進め、適切な時機に転職を薦めるという長期的な試みが必要だ。
リファラル採用ツールでは、この潜在層を見つけ出したり、アプローチしたりするための機能を有している。例えばRefcomeでは、採用ポストの紹介を受けた人物が、その企業や募集に興味を持っている場合に、ブックマークを付けられる機能がある。これによって、人事担当者は応募に至った人材以外にも、自社に興味を持っている潜在層がどのくらいの数いるのか、といったことを把握できる。また、MyReferは声掛けを受けた時点で応募に至らない人の情報を「タレントプール」と呼ばれるデータベースで管理し、自社に興味を持った潜在層に、情報提供などを通じて継続的に働きかけられる。新しいポストの求人が発生したときなどは、人事からのダイレクトリクルーティングを実行することも可能だ(図2)。こうした機能があれば、長期的な目線で人材確保のアプローチができる。
定年退職者以外の離職者を「アルムナイ」と呼ぶ。アルムナイは即戦力として活躍できる有力な採用候補者であり、また友人や顧客などを紹介するリクルーターとしての可能性を秘めている。リファラル採用ツールの中にはこうした可能性に注目し、退職者の採用と、その人脈を活用したリファラル活動を促進する機能を持つものもある。MyReferの「MyRefer Alumnai(マイリファー・アルムナイ)」という機能では、退職者ごとに適切なポストの求人告知や、応募前提ではないOBイベント参加の呼びかけが可能で、退職者の再採用を支援する。また、再応募や知人紹介などの活動データの分析もでき、結果によってさまざまなアプローチが可能だ。
リファラル採用では「従業員がどれだけ協力しているのか」「何人が応募に至ったのか」「内定率はどうだったか」といったデータを基に施策を打ち、PDCAを回していくことが成功のポイントだ。しかし、人事担当者がこの集計や分析ができない企業や、集計に時間を取られ戦略を立てられない企業も多い。
リファラル採用ツールは、ダッシュボードなどにより従業員の紹介率や参加率、応募率、決定率といったKPIを自動分析し、状況把握を容易にする。これにより採用戦略のPDCAを適切に実施して、より効果的な施策を立案できる可能性が広がる(図3)。
自社がリファラル採用を行っていることを知らないという従業員は意外に多く、制度の認知率を上げることはたやすくない。さらに、紹介の動機付けや促進の施策を継続して行わなければ制度は定着せず形骸化してしまう。
リファラル採用ツールでは、制度の認知から紹介の動機付け、促進まで各段階に必要な仕掛けができ、従業員の巻き込みを効果的に行える。
制度を認知させる際には、トップから「なぜリファラル採用をやるのか」「表彰やインセンティブを含めて、従業員にどのようなメリットがあるのか」をメッセージとして発信し、リファラル採用に対する“本気度”を見せることが重要だ。リファラル採用ツールでは、トップメッセージや成功事例、会社の魅力を示したコンテンツをマイページで発信する機能があり、制度の認知度を向上できる。
また、紹介の動機付けを行うには継続的に従業員のアクションを促す仕掛けが必要だ。リファラル採用ツールでは、マイページで応募ポストだけでなく、活動成果やイベントの案内、その他のテーマの情報を配信でき、情報の角度を変えて絶えず情報を発信し続けることで、制度を定着させ、従業員の行動を促進できる。例えば、MyReferの「ランキング機能」は従業員別に紹介数のランキングを公開し、ゲームの要素を入れることで参加を促す仕掛けの1つだ。
従業員の参加率に応じて個々にパーソナライズさせた情報を届けることも可能だ。人事担当者は、管理画面で「ログイン数が多い従業員」「紹介数が多い従業員」などの条件で従業員を検索し、コンテンツを指定配信できる。これによって、参加率の高い従業員にはニッチな応募ポストの採用情報を告知し、低い従業員には、参加を促すためにインセンティブの情報を配信するといった采配も可能だ。
リファラル採用ツールでは、従業員を巻き込む戦略を立て、そのストーリーに沿って継続的に施策を打つための仕組みを用意している。
従業員が自社に魅力を感じていない企業では、リファラル採用を運用することは難しい。「そもそも自社を紹介したいと思えない」という従業員が多ければ、紹介率も上がらないからだ。リファラル採用では、制度の促進とともに、企業に対する従業員の愛着を高める施策の両輪が必要になる。
リファラル採用ツールでは、従業員の“愛着”の度合いを可視化し、企業の強みや弱みを明らかにする機能を提供するものもある。「Refcome Engage」では、従業員への満足度アンケートを実施・分析し、企業への愛着度を「魅力的な仲間」「魅力的な仕事」「成長できる環境」「適切な評価と報酬」「働きやすい環境」などの項目で数値化して、「eNPS(Employee NPS)」と呼ばれる従業員ロイヤルティーの値を割り出せる。
各数値は企業全体だけでなく、部署を区切って分析でき、結果を基にリフカムのコンサルタントとともに、原因と解決策を探ることも可能だ。時系列で数値を追う機能もあるため、どのような施策が結果に結びついたのか、PDCAを回す際にも役立つ。
リファラル採用ツールでは、こうした機能やコンサルティングを通じて、リファラル採用を促進できる文化の土壌作りも支援する。
リファラル採用ツールを提供するベンダーは、ツールとともにコンサルティングサービスを提供し、制度設計のアドバイスを行うことが多い。コンサルティングの過程では、以下で挙げるような失敗を経験した企業を見てきたという。それぞれ、事例を交えて回避策を紹介する。
リファラル採用を促進する施策として、従業員にインセンティブを用意しているケースも多い。インセンティブは、紹介のモチベーションを高める仕掛けとなる一方で、インセンティブが高額すぎると紹介の質を下げるというリスクがあるため注意が必要だ。例えば、80万円のインセンティブを用意したというある企業では、会社にマッチしていない人の紹介が多くなり、リファラル採用本来の良さを発揮できなかった。インセンティブは高くしすぎず、数千円〜数万円のレンジで適切に設定する必要がある。
ちなみに、リファラル採用ツールの中には、知人を紹介する手前のアクションに対して、ポイントを付与できる仕組みを用意するものもある。例えばMyReferでは、マイページにログインするなどの行動に対し、「ソーシャルポイント」呼ばれるポイントを配布できる。報奨金を付与しなければならない人事側の負担を軽くするだけでなく、いずれは紹介につながるようなアクションを積み重ねる効果がある。
従業員が推薦した応募者が選考の結果で不採用となった場合に、紹介側の従業員が責任を感じたり、紹介された応募者と人間関係が悪くなったりする場合もある。こうした事態を防ぐために、応募者は必ず採用されるわけではないということを社内で周知させる必要がある。リファラル採用を実施する多くの企業では、応募者との面談は確約し、選考の上で不採用となる場合があることを明文化している。
従業員の紹介によって生まれるリファラル採用では、タイプの近い人が集まる傾向にある。企業文化にマッチした人物を獲得できる一方、似た人材が集まることで変化が生まれない“仲良しコミュニティー”が出来上がるというリスクは考慮しなければならない。リファラルで採用した人の配置部署をばらけさせるなどの工夫が必要だ。
本稿では、リファラル採用の注意点と、ツールおよび制度設計による問題の解決法を紹介した。なお、リファラル採用は中途採用だけでなく、新卒採用への適用も進んでいる。特に、2021年度には就職協定が廃止され、新卒者も含めた通年の人材獲得競争が激化する。インターンを介して学生へ制度を紹介し、新卒の採用に生かすと同時に、数年後の応募を見越したアプローチをとる企業も増えるだろう。今後、こうした動向も視野に入れて、リファラル採用ツールに関する最新情報もチェックしておきたい。
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