日本IBM社長にはえぬきの社員が就任。日本の企業ITに「コグニティブ・エンタープライズ」を普及させるため「丁寧なコミュニケーション」と総力戦で挑むという。具体策はどうなっているか。
2019年5月1日、日本IBMに実に7年ぶりの日本人社長が誕生した。しかも日本IBMの「はえぬき」の社員からの抜てきだ。
新たに日本IBMの社長に就任した山口明夫氏は、1987年、大学卒業と同時に日本IBMに入社。以来、ソフトウェア部門のセールス、金融機関向けのシステム開発プロジェクトなどの指揮を執ってきた。米IBMのソフトウェア事業部や2007年GBS事業を担当するなど、日本企業だけでなく米IBMとのつながりも深い。日本IBMの執行役員を務める傍ら、2017年7月から米IBMの経営執行メンバーにも就く。「もともと20代のころはシステム解析のエンジニアとして、ストレージのダンプファイルを解析し、システムの高速化や最適化に腐心する日々を送ってきた」と振り返るように、根っからの技術者でもある。
さて、その山口氏が日本IBMグループのミッションとして掲げたスローガンは、「最先端のテクノロジーと創造性をもって、お客様とともに、仲間とともに、社会とともに、あらゆる枠を超えて、より良い未来作りに取り組む企業グループ」(引用ママ)だ。
山口氏は「コミュニケーションはもっと丁寧になるべきだったと感じている」と、直近の日本IBMの状況を振り返る。部門間の風通しが悪く硬直した組織になっていた――発言の裏側にはそうした反省も垣間見える。山口氏は社内、社外のいずれの「コミュニケーション」も改革する考えだ。
社内では部門の枠組みを超えて顧客価値を見直す組織作りを進める。その一環として早速、評価指標も変えつつあるという。「文化を変える目的で、他者への貢献を評価制度の中に含めるようにしていく。米本社の了承を得た組織改革の施策だ」(山口氏)
コミュニケーションの対象には社内だけでなく社外のあらゆるステークホルダーも視野に入れる。そこには「いまや1社で企業の価値創出を支援するのは不可能」との考えがある。ビジネスパートナーだけでなく、スタートアップや研究機関との連携はもちろん「経済界や各国政府機関との連携ももっと密に取っていきたい」と意気込む。
2019年2月に開催した米IBMの年次イベント「Think 2019」で、ジニー・ロメッティ会長兼社長兼CEOは「企業のデジタル・リインベンション(再発明)が第2章にさしかかろうとしている」とした。ここで、第1章は環境の変化を受け止める受動的な段階と定義されており、第2章は攻めの変革(デジタル化やデータ活用の本格化)などを指す。マルチクラウドや「企業内の使われてこなかったデータ」を生かしたAI(人工知能)による変革など、より能動的なデジタル変革を推進する段階と位置付けられる。第2章に到達した企業のIT環境をIBMは「コグニティブ・エンタープライズ」と表現する。
まず企業のデジタル変革を推進する目的で「コグニティブ・エンタープライズ」への道筋を、「現状」「新しい技術」「現状の施策」として整理し、顧客と認識を共有するための体系化を進める。
顧客システムの改革を提案する際にも「どの領域のどの部分の何の技術の話か、どの段階に進むステップか」についての認識を共有する仕組みだ。「『APIが』といったときにも『デジタル化のどの段階のどの文脈でいうAPIか』で、意味が全く異なる。顧客の多くは、どの段階の何かまでを体系立てて理解しているわけではない。この状況を整理して簡潔にし、会話ができる状況を用意する」(山口氏)
多くの企業がいまは第2章を目指して活動している状況だが「これは次のステップへの伏線でしかない」(山口氏)。自動運転やドローンによる輸送などテクノロジーが社会そのものを変革する未来において「企業とともに、より良い未来に取り組む」とは一体何か。
「実はこの中に5つのCPUが入っています」――山口氏はIBMが開発した世界最小のCPUを見せ、「こうした技術を広く社会をより良くするアイデアに生かす提案をしていく」と説明する。
IBMは米国の特許取得ランキングでほぼ毎年1位を維持してきた。このIBMが持つ知的財産や技術、研究開発のアセットを広く顧客に提供すべく、積極的な提案を展開する。汎用(はんよう)量子コンピュータのリソースをクラウドで利用するサービス「IBM Q」の研究期間への提供やブロックチェーンを使った産業界の変革もその1つだ。各業界と密につながり、総力戦で技術を駆使し、業界知識を最大限に生かした提案を、分かりやすく示すという基本に立ち返ることになるようだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。