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経済産業省ではじまるRPA活用――スモールスタートから全省へ

» 2019年06月26日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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AI(人工知能)よりも即効的な働き方改革、生産性向上のツールとして急速に導入企業を増やしたRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は現在、中央省庁にも着実に浸透。具体的な活用段階に入っている。

民間企業のRPA導入が、自社の内部で完結させやすい経理・総務・人事などの部門から始まったのと同様、「霞が関」のロボット化も、やはりバックオフィスが先陣を切ることとなった。

経済産業省の人事事務を司る大臣官房秘書課は2018年7月、デスクトップ型のRPAツール「BizRobo!mini」を導入。プログラミング経験がない人事情報の登録作業担当者が自身の作業を一部委ねる形でロボットを実装し、作業時間を3分の1未満に短縮する見込みという。導入に携わったメンバーに狙いと現状、展望を取材した。

■記事内目次

<目次>

1. 単独部署からのスモールスタート。ミスが許されない人事事務をロボット化

2. ロボット化で処理時間は1/3、「手放し」の運用を目指す

3. 鮮明になった「霞が関」の業務でのポテンシャル。RPAを課内から全省へ


単独部署からのスモールスタート。ミスが許されない人事事務をロボット化

少子高齢化で生産年齢人口が減るなか、経済産業省は働き方改革を通じた生産性の向上を産業界に促す立場にある。「それにもかかわらず、私たち自身が旧態依然の働き方を続けていては矛盾が生じる」と話すのは、同省初のRPA導入部署となった大臣官房秘書課の課長補佐である中山陽輔氏だ。

ロボット化に取り組んだきっかけについて、中山氏は「限られた予算と人員を、政策立案などの創造的な業務に集中させていくために何ができるか考えた結果、PC1台単位でスモールスタートが切れるRPAを、まずは課の中で試そうということになりました」と振り返る。

省内の人事部門として職員の働き方改革も担う同課がRPAツールの具体的な検討を始めたのは2018年3月。行政手続と省内業務の双方で効率化やデータ利活用を進める新部署「デジタル・トランスフォーメーション室」が同7月に発足するなど、デジタルテクノロジー活用の機運が高まる中でのチャレンジだった。

多岐にわたる人事事務の中から、ロボット化で効果が見込める対象を精査した結果、最初のターゲットには経産省本省での人事異動や担当事務変更、昇給などの情報を人事院の「人事・給与(人給)システム」 へ登録する作業が選ばれた。

同課人事専門職の三浦洵一郎氏は「1年を通して発生し、毎年度およそ2,000件にのぼる単純作業を1件ごとに約10分、ピーク時は数人がかりで処理していたこと、またミスが決して許されないことから、ロボットでの代替が有効と判断しました」と説明する。小規模な試行で早期に一定の成果を得る狙いから、半数弱(900件前後)を占める管理職級関係分のロボット化を先行させることが決まった。

ロボット化で処理時間は1/3、「手放し」の運用を目指す

経産省では、確定した人事異動は「作業ビラ」と呼ばれるExcelファイル上で管理がなされる。「作業ビラ」の情報を、法令で定められた定員などと齟齬がないか確認した後、その内容を人給システムへ登録し、これをもとに本人へ交付される辞令を作成するといった業務の流れだ。

同課は、初期費用が比較的少ないデスクトップ型RPAツールの試用版を導入。通常業務のかたわら、作業ビラの内容を人給システムへ転記する作業の置き換えを複数のツールで試し、RPAの実用性の見極めと本格導入するツールの選定を進めた。

ロボット化の試行と検証を重ねた結果、手作業では1件あたり10分を要した登録が、3分にまで短縮。機械的な転記でミスの生じる余地がなくなり、辞令交付前の確認にかかる負担も大幅に軽減できる見通しが立った。

ただ、完全に登録作業を自動実行できるのは少し先だという。というのも、人手による登録作業が前提だった従来の作業ビラは記載事項の分類が大まかで、自由記述に近いデータや未記入欄も許容されていたことから、そのままでは機械的な処理がうまくできないためだ。

自身が担ってきた登録作業を引き継ぐ“後任”のロボットを作成した同課の村上雄一氏(制度四係長)は「ロボットそのものの実装に加え、作業ビラの様式も今回のロボット化をきっかけに、ロボットに適したものに見直しました。さらに従来のデータを形式面からチェックし、人給システムへの登録前に適宜修正しています」と話す。

こうした移行作業が一巡すれば、登録作業の完全自動化がいよいよ実現する。「早くロボットに“手放し”で任せ、他業務に専念できるようになりたい」。村上氏はそう意気込みを語る。

ツール選定の過程では、職員用PCとしてノート型とタブレット型を併用し、それぞれ机上の外部モニターと接続したデュアルディスプレイでも用いられる経産省の実情に即し「PC環境が変化する中での安定した挙動」が特に重視された。

画面サイズや解像度、表示方法が多岐にわたる環境でRPAツールを運用する場合、作業させたい内容を画面上の位置をもとに指定するタイプのツールは正しく動作しないことがある。

4ヶ月間にわたる比較検討の末、本格導入が決まった「BizRobo!mini」は、特定の作業対象を一義的に指定でき(オブジェクト認識型)、比較検討されたツールの中で最も安定して動作したことが評価されたという。

鮮明になった「霞が関」の業務でのポテンシャル。RPAを課内から全省へ

秘書課が今回ロボット化した人給システムへの登録作業は「経産省本省」の「管理職関係分」に限定したスモールスタートが奏功し、いち早く完全移行のめどを立てることができた。

同様の登録作業は経産省本省勤務の非管理職、さらに各地の経済産業局勤務の職員に関係した異動に際しても生じている。そのため秘書課では当面の活用拡大策として、これらの領域にロボットの横展開を進めていく方針。

他にも同課には、福利厚生関連などで人給システムの例に近い手入力の作業が残っており、ここまでで得た知見を応用した新たなロボット化も計画しているという。

霞が関の中央省庁全体では、RPAを活用する余地がどの程度ありそうか。そんな問いに三浦氏は「官公庁も企業と同様に『システム化できるほどの予算はないが、効率化は必要』という業務が職場の随所に潜んでいます。今回のように複数のアプリケーションやシステムをまたぐ定型作業では、RPAが生産性向上の有効な方策になりうるでしょう」とコメント。

さらに「制度の運用よりも政策立案のウエートが大きい中央省庁では相対的に小規模なデータを扱う場面が多く、小回りが利くRPAが特にフィットしそうな感触も持っています」と期待を込める。

普及にあたっての技術的なハードルも、さほど高くはなさそうだ。ロボットの実装を担う村上氏は、次のように語る。

「これまでRPAはもちろんプログラミングの経験もなく、しかも本業の合間での取り組みとあって、私も最初は不安でした。それでも、ITに詳しい同僚の知恵を借りながら着実に効率化が進んでおり、現場の担当者が自分の作業をロボットで効率化していくことは、多くの省庁で十分可能でしょう」

経産省では部署を超えた有志による勉強会が日常的に開かれており、秘書課が先鞭をつけたロボット化のノウハウも、いずれこのような機会などを通じて広く共有していく予定という。

「『現場で役立つ、決して難しくないツール』としてRPAを省内に浸透させたい。そのためにも、まずは課内の成果を着実に積み上げていくつもりです」と中山氏。控えめな言葉の中にも、霞が関にロボットがもたらす「革新」への「確信」が、はっきりとうかがえた。

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