電話を使った特殊詐欺、いわゆるオレオレ詐欺は、電話機の向こうにいる「自分の息子」の声にだまされてしまうというのが定石だ。ここに、いよいよAIが参入してしまったという。
「身内の声なのに簡単にだまされるものか」と思わないでもないが、それでも被害が後を絶たない特殊詐欺、いわゆるオレオレ詐欺。電話越しだったり泣き声だったりして正確に声を認識できないこともあるのだろう。
ここに、いよいよAIが参入してしまった。しかも悪事の成果は上々だったようで、トンデモない被害額が生じたという。なぜAIが詐欺を働いているのか?
英国にあるエネルギー企業のCEOが、彼のボスに当たるドイツの親会社のCEOから電話を受けた。2019年3月のことだ。ちょっぴりドイツなまりのある英語で、いつもと同様に自分にファーストネームで話しかけ、「ハンガリーの取引先の会社の口座に22万ユーロ(約2600万円)を送金するように」との指示だった。
ほどなく支払いの詳細についてのメールが送られてきた。ハンガリーの系列会社の支払い遅延を解消するための緊急処置で「1時間以内に処理せよ」と書かれていた。英企業のCEOはすぐさま処理を進めた。
再びボスから「さっきの送金が何らかの理由で間違って取り消されてしまった」という電話がかかってきた。しばらくすると、三度目の電話で「もう一度送金せよ」という。だが、確認してみると最初の22万ユーロの処理は取り消されていない。
英企業のCEOは不審に思って3回目の指示には従わなかった。そしてボスの電話の発信元を確認すると、オーストリアからの発信であることに気付いた。これはおかしいとボスに電話をかけてみると「電話なんてしていない」という。
英企業が契約していた信用保険会社の調査によれば、親会社のCEOの声は合成されたもので、恐らく「Deepfake」技術が使われているという。AIを使って画像や動画といった既存のデータから合成によるニセモノを作成する技術だ。
親会社のCEOは、決算発表やメディアの取材などで露出することが多かった。YouTubeなどネット上でカンファレンスの様子などが公開されていた。犯人はその音声データからドイツなまりの英語を話すニセモノの音声を作り上げたのだろう。
今のところ詐欺犯が誰なのか分かっていない。最初に送金された22万ユーロはハンガリーからメキシコの銀行に送金され、さらに細かく分散送金されて、もはや追跡することもできないという。
上司X: AIがオレオレ詐欺の電話をかけてきて被害額が大変だという話だよ。
ブラックピット: 確かにAIが関わっているのでしょうけど……。
上司X: 何が言いたいのだい?
ブラックピット: AIは音声の合成を担当しただけで、上司の声を使って犯人がボイスチェンジャーのようなもので電話をかけたのではないかと思いまして……。
上司X: そうかもしれないけどさ、犯人がAIを活用したのは間違いないわけじゃないか。そういう意味でAIも犯人の一味だよ。
ブラックピット: AIに人格を求めがちなのは分からないでもないのですけど単なるツールですよ。「一味」って言い方もどうかと思いますけどね。
上司X: 悪いのはAIを活用した犯行グループであって決してAIではないということか。
ブラックピット: 「罪を憎んで人を憎まず」的な感じで、決してAIを悪者にすべきではないと思うわけです。まあ、Deepfake技術は悪い方面にしか使われない感じがビンビンしますけどね。
上司X: そういう先入観もいかがなものかと思うぞ。Deepfakeだって何かいい使い道があるはず。きっと明るい話題も出てくるさ。
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。