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リソースの限界を打ち破ったRPAエンジニア派遣サービスの利活用。Tポイント・ジャパンにみる新RPA運用方法

» 2019年09月24日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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RPA BANK

RPAの完全内製を前提とした運用にチャレンジしているものの、壁に打ち当たり悩まれている担当者も少なくないのではないだろうか。

RPAの本格展開を図る企業を対象にRPA BANKが過去3回(2018年5月、同11月、2019年5月)行ったアンケート調査で、課題に挙がった最多回答は、いずれも「開発者・開発スキル不足」といった結果がでている(順に34%、28%、23%)。

RPAの完全内製を目指すものの「開発者・開発スキル不足」によって、RPAの壁に打ち当たり、克服した企業がある。

共通ポイントサービス「Tポイント」を運営する株式会社Tポイント・ジャパン(東京都渋谷区)だ。同社では2019年4月から、IT・エンジニア派遣サービスのパーソルテクノロジースタッフ株式会社が提供する、「RPAエンジニア派遣サービス」を採用。

Tポイント・ジャパンのRPA主担当とパーソルテクノロジースタッフ社からの派遣エンジニアがいずれも時短勤務という条件のもとでチームの役割分担を確立し、生産性向上の成果を重ねているという。

Tポイント・ジャパンがRPA導入を通じて突き当たった100%内製の壁と、その壁を超えるために見出した派遣サービス利用までの経緯、実際の運用とそこで得た知見などについて、チームのメンバーに聞いた。

■記事内目次

1.“ロボット完全内製”の挑戦で突き当たった「リソースの限界」

2.協業を通じた「再現性」あるRPA運用の確立

3.RPA定着普及に重要なのは「業務分析の粒度を揃える」と「賛同者を増やす」こと

4.ロボットをうまく使えば、時短勤務でも成果を出せる


(左から)株式会社Tポイント・ジャパン 業務支援統括 コンサルティングサポート 山本真澄氏、同社 業務支援統括 コンサルティングサポート 中嶌芳枝氏、パーソルテクノロジースタッフ株式会社 RPAエンジニア 金山恵子氏

“ロボット完全内製”の挑戦で突き当たった「リソースの限界」

──最初に、今回お集まりいただいた方々から自己紹介をお願いします。

山本真澄氏(株式会社Tポイント・ジャパン 業務支援統括 コンサルティングサポート): Tポイントの提携先企業に対する、営業社員のコンサルティング業務を支援する「コンサルティングサポート」という部署のユニットリーダーをしています。

具体的には、営業業務の方針決定や再定義を行う中で、業務プロセスを分析して効率化を図ったり、新しい営業支援ツールの検討などを実施しています。こうした活動の一環として、2018年12月からRPAツール「UiPath」を導入しています。

中嶌芳枝氏(同社 業務支援統括 コンサルティングサポート): コンサルティングサポートのチームで、RPA推進の主担当をしています。RPAのほか、提携先企業様のアプリ導入に伴った社内営業支援や運用課題の整理、方針検討なども兼務しています。

育児中のため時短勤務を選んでおり、限られた時間に最大の成果を出すことを意識しています。

金山恵子氏(パーソルテクノロジースタッフ株式会社 RPAエンジニア): パーソルテクノロジースタッフ株式会社の派遣エンジニアとして、2019年4月からRPAの実装と保守運用を担当しています。Tポイント・ジャパンのオフィスで現在、週2日の時短勤務をしています。

もともとプログラミング言語の「Java」を専門とするSEとして、フルタイムでのWebシステム開発に7年間携わっていました。出産後フルタイム勤務が難しくなり、週2〜3日での勤務を希望していたところ「Javaシステムエンジニアとしての経験を活かしつつ、週2日勤務という、育児・家庭とも両立できる条件が、RPAエンジニアにキャリアチェンジすることでかなう」と紹介を受け、UiPathの研修受講を経て、こちらのチームに加わりました。

──RPA導入後4カ月で「エンジニア派遣の週2日利用」が決まったとのことですが、そのいきさつをうかがえますか。

中嶌: RPA導入の当初は、ノウハウを自社に蓄えたいとの狙いから「ロボットの完全内製化」を目指していました。第1号のロボットは、ポイント提携先企業の競合調査などを想定したWeb巡回を自動化するもので、特別ITに詳しくない私が自作しました。

「エンジニアでなくても、実務に役立つロボットがつくれる」と確信を得たものの、この1体の実装には40時間かかりました。「他業務もある中で、100%自前を貫くのは現実的ではない」と判断し、そこからさまざまな支援サービスの比較を始めました。

リモートでアドバイスを受けるだけでは足りないと感じた一方、外部に運用を委ねたのでは「社内にノウハウを蓄える」という当初の目的が十分達成できません。最終的に「エンジニア派遣を受けるのがベスト」という結論になりました。

成果は着実に現れています。金山さんを迎えてからの4カ月間で、請求業務に5体のロボットを導入し、月あたり100時間の余力を創出しました。

これらの大半はコンサルティングサポートに移管されておらず、営業社員が処理していた業務なので、ロボット化を機に営業現場の負荷を直接軽減できたことになります。

──意義の大きい実績ですね。週2回のエンジニア派遣では足りないのではないですか。

中嶌: 多頻度であるほどよいというわけでもありません。というのは、業務プロセスの見直しでは「作業そのものをやめる」など、RPA以外の解決策もあり、その工程に時間をかける必要を感じています。

かりに週5回来ていただけても、コンスタントに実装をお願いできない可能性があり、業務プロセスの見直しと実装のバランスは、私たちの場合は週2日が「ちょうどいい」と思っています。

協業を通じた「再現性」あるRPA運用の確立

──RPAの活用では「ロボット化に適した作業を見つけ、作業手順を整えて実装する」という一連の流れがあります。これらを社内外でどう分担したのでしょうか。

山本: 「ロボット化の候補となった業務を精査し、ロボット化に適した作業を切り出すまでを社員のメンバーが行い、実装を金山さんにお願いする」という大枠の中で、実際の分担やスケジュール感は、作業を進めながらすり合わせていきました。

業務整理に必要な時間や、ロボットの実装にかかる時間が、初めからはっきり見通せていたわけではありません。定期的に進捗確認の機会を設けて、お互いの感覚をつかむ中で、共同作業の“型”が少しずつできてきたという流れです。

──さきほどお話があったとおり、外部のサポートを受ける際は、社内に運用のノウハウを残していくことが大切になります。この点で、何か工夫したことがありますか。

中嶌: 金山さんがどうやって実装しているか横でよく観察することと、蓄積していくノウハウを可視化し、誰でも扱えるかたちに整理することを心がけています。

金山さんには、ロボットそのものだけでなく、実装するときのルールや、誰が読んでも理解しやすい“設計図”のひな形をつくってもらいました。これらの成果物を通じて、背後にある合理的な考え方を多く学べたと思います。

金山: 将来の運用のことも考え、ロボットをつくるときには、人がPCを動かす手順を記録し、そのまま再現させる「レコーディング機能」を使っています。

これは、もっとも手軽にロボットを実装できる方法です。UiPathでは、プログラミング経験者が扱いやすい他のやり方も選べるのですが、今後ロボットをつくるときに多くの人が参考にしやすく、メンテナンスも楽な仕組みを選ぶようにしています。

RPA定着普及に重要なのは「業務分析の粒度を揃える」と「賛同者を増やす」こと

──「顧客対応に集中できるよう、営業職のルーチンワークを減らしたい」と考える企業は多いと思います。RPAで実現するために、どのような点を押さえればよいでしょうか。

中嶌: 大きく2つのポイントがあると思います。

1つは「粒度をそろえて業務分析すること」です。たとえば「請求書を送る」業務は「PDFの取得」「添付メールの発送」などに分かれ、さらに「メールソフトの送信ボタンを押す」といった個々の動作にまで分解できますが、こうしたレベルの違いが「粒度」です。

粒度を意識して整理すると、営業のように例外が多く複雑にみえる業務でも「よくあるパターン」は限られていることが分かります。RPAを効果的に使うには、レアケースを人間がカバーする前提で、よくあるパターンだけを押さえた、なるべく単純なロボットをつくることが大切だと考えています。

もう1つのポイントは「提携先企業を担当している営業の理解を得ること」です。たとえば、内容が同じでも企業間で異なる書式が使われている場合、これらを一本化できれば処理効率が上がり、ロボット化もしやすくなります。現状の書式やフローにこだわりがないことも多くあり、RPA化推進を機に提携先企業と営業が従来のやり方を見直すきっかけになっています。

もっとも提携先企業様にとって「事務作業のロボット化で余力が生まれ、コンサルティングの質が高まる」というメリットは、すぐ実感することが難しいものです。注目度の高いRPAの話題をきっかけに、私たちも引き続き工夫していきたいと考えています。

山本: 共通の内容を異なる様式で処理している営業関係の事務作業として、当社には「提携先企業が設定したキャンペーンポイントの登録作業」があります。多忙な営業社員による手入力でミスを起こしやすい項目も含まれており、早期のロボット化に向けた準備を進めているところです。

ロボットをうまく使えば、時短勤務でも成果を出せる

──国内でRPAが注目されるようになってまだ数年。技術的にも、手探りの部分がなお多いようです。ITエンジニアの経験が長い金山さんですが、実地で初めてRPAを扱った今回、戸惑いはなかったですか。

金山: 最初は多少の不安もありましたが、すぐ安心して取り組めるようになりました。ロボットの実装担当は私1人だけですが、社員の方々とコミュニケーションを密に取れて「みんなでロボットをつくる」という雰囲気があったからです。

また今回は「いつまでに、これだけの成果」という厳格な目標を最初にいただかないかたちで、過剰にプレッシャーを感じることなくスタートできたことにも感謝しています。

山本: RPAに限らず、さまざまな方法を模索しながら業務を見直しているため、私たちは「目標必達ではなく、もしダメなら他のやり方も試そう」と柔軟な姿勢を取ってきました。成果面でも、かえってそれがプラスに働いているかもしれません。

金山: 短期間に1人で実装を完結できるRPAは、システム開発に比べると家庭生活との両立に向いていると感じます。しかも、つくったロボットが実務で動く様子を目の当たりにでき、ものづくりが好きな私にとって充実感、達成感も大きいです。

日々の育児との兼ね合いもあり、将来的なキャリアはまだ見通せていませんが「限られた時間で未経験の技術を学び、実用化する」という新たな経験を大切にしていきたいです。

≪──RPA主担当の中嶌さん、実装を担う金山さんというロボット化の“要”が、そろって時短勤務している中でのチャレンジが続きます。

山本: はい。実は2人だけでなく、コンサルティングサポートのメンバー12人のうち4人が時短勤務を選んでいます。≫

ただ、「時短勤務だから」という理由で制約を感じたことはありません。これは、社内の生産性を高めるミッションの部署ということもあり「まず自分たちが高い密度で働く」という共通認識を持っていることが大きいと思います。

ポイントサービス以外にも、当社グループには事業分野別に複数の営業チームがあります。今後は、私たちがボトムアップ的に始めた動きに経営陣も巻き込みながら、部署を超えた知見の共有やロボットの横展開を進め、全社最適となるよう生産性向上のスケールを拡大していく計画です。

中嶌: 本来あまり得意ではないのですが「ロボットをうまく使えば、時短勤務でもしっかり成果を出せる」という実例を示すためなら、人前に出ていく覚悟もしています(笑)。RPAの活用を通じて私たちが得たノウハウを他部署に広める“旗振り役”として、これから積極的に活動していきたいと考えています。

──時間的な制約だけでなく、組織の壁も超えていく熱意に勇気づけられる読者も多いことでしょう。本日は貴重なお話をありがとうございました。

(左から)パーソルテクノロジースタッフ株式会社 営業担当 渡辺百香氏、同社 RPAエンジニア 金山恵子氏、株式会社Tポイント・ジャパン 業務支援統括 コンサルティングサポート 中嶌芳枝氏、同社 業務支援統括 コンサルティングサポート 山本真澄氏

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