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Google vs. IBM、「量子超越性」で大混乱? 何が起きているのか:536th Lap

突然「量子コンピュータ」の話題でIT業界が持ち切りだ。その計算力は従来のコンピュータを「古典コンピュータ」と称してしまうほどだが、誰も真の実力は分からなかった。Googleが「実証した」と言い出すまでは……。

» 2019年11月01日 08時00分 公開
[キーマンズネット]

 「そもそも量子コンピュータとは何だ」という話を始めると、ページがどんなにあっても足りないだろう。本題はそこではないので、本稿はざっくり割愛させていただく。ともかく、これまでわれわれが使ってきたコンピュータと一線を画した原理で動くもので、その計算力は比べものにならないといわれてきた。そう、理論上では……。

 2019年10月23日、英科学誌『Nature(電子版)』がGoogleによる論文を掲載した。同社が開発した量子コンピュータによって「量子超越性(Quantum Supremacy)を実証した」というものだ。

 この「偉業」に対して、IT業界の巨人が異を唱えたものだから、業界は上を下への大騒ぎだ。ところで「量子超越性」って何なんだ?

 Googleが大々的に発表した量子超越性をざっくり言えば「量子コンピュータが従来のコンピュータを上回る計算を達成した」ということ。従来のコンピュータが0と1の「ビット(bit)」を基に計算するのに対して、量子を重ね合わせた「量子ビット(qubit)」を使って計算するのが量子コンピュータだ。

 Googleは「Sycamore」と名付けた量子コンピュータのプロセッサーを独自に開発している。Sycamoreは53基の量子ビットを搭載し、従来のコンピュータにはない手法で演算できるから高速なのだ──という理論なのだが、これを明示するのが大きな課題だった。

 Googleが実証した量子超越性の根拠の一つが、乱数を生成する「ランダム量子回路サンプリング」というものだ。2019年時点で最先端のスーパーコンピュータ(米オークリッジ国立研究所の「Summit」)でこの処理を実行すれば、解を見つけるのに約1万年もかかるという。しかしGoogleは、これを200秒(3分20秒)で解決したという。

 論文には77人の著者が関わっていて、しっかりとした査読を経てからNatureに掲載された。ところが、この偉業に対してIBMが異議を唱えた。実際には、その論文が出る前に英Financial TimesがGoogleの量子超越性の実現をスクープし、IBMはそれに異を唱えたのだ。

 IBMも長年量子コンピュータの開発に心血を注いできた企業だ。Googleと同様に53基の量子ビットを搭載した「IBM Q」を開発している。

 開発チームは「Googleが実行したランダム量子回路サンプリングの計算は、量子コンピュータに有利過ぎる処理だ。Summitなら2日半で完了でき、さらに言えばプログラムを最適化すればもっと短時間で処理できる」という。

 反論の数日後に、学術的に認められた論文が世に出てしまったものだから、何となく言いがかりのような形になってしまった。IBMは論文に対してもしっかり査読をした上で、同様の主張を再公表する意向だ。IBMの量子研究者の1人、ジェイ・ガンベッタ博士は「IBMの反論はGoogleを敵に回すということでなく、『量子超越性』への無益な期待をなくしていくことにある」と話す。

 そもそも量子超越性を示す場合、「量子コンピュータと古典コンピュータの性能を比較する」のではなく、「古典コンピュータでは実現できないことを量子コンピュータで実現する」ことが重要なのだそうだ。

 Googleが量子超越性を実証したことは、例えるなら「ライト兄弟が12秒間の初飛行を果たした」のと同じぐらいのマイルストーンだと話す識者もいる。その一方で「量子コンピュータの実用的な用途を提示することこそが重要」という研究者もいる。今回の論争は、どういう着地点に落ち着くのだろうか。


上司X

上司X: Googleが「量子超越性」を実証したという話だよ。


ブラックピット

ブラックピット: 古典コンピュータの最高峰、スーパーコンピュータで成し遂げられなかったことを量子コンピュータで成し遂げたよってことですかね。


上司X

上司X: そんなとこだろ。で、IBMは「今回の実証に使われたものは不適切だ」と主張しているわけ。


ブラックピット

ブラックピット: じゃあ何をしたら「量子超越性」になるのでしょうね?


上司X

上司X: そりゃあ、同じ量子コンピュータを開発するIBMが実証するんじゃないか。


ブラックピット

ブラックピット: でも今回は「論文」としても認められているわけですよねえ。


上司X

上司X: だからこそある種の「偉業」とされているわけであってなあ。


ブラックピット

ブラックピット: 実際問題、量子コンピュータに特定の計算だけさせて「スゴく速い」と言ってもあんまり意味がない気がしますけどね。量子超越性のスゴさが今一つ理解できません。


上司X

上司X: 現在のコンピュータだって、根本的にどういう理論で動作しているかなんて気にして使ってないだろ。それでも速いプロセッサを搭載したコンピュータに触れれば「おおっ」って感じる。量子コンピュータもそのレベルまで至れば、俺たちも素直に「スゴいなあ」と思えるんだろうさ。


川柳

ブラックピット(本名非公開)

ブラックピット

年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)

昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。

上司X(本名なぜか非公開)

上司X

年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)

中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。


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