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創業正徳2年。創業300年を超える食品総合商社を悩ませていた大量の売上・仕入データの処理――国分ビジネスエキスパートのRPA改革

» 2019年11月27日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

1712(正徳2)年創業。創業から300年を越え、全国各地の食の流通に携わり、日本の食を支え続けている企業をご存じだろうか。創業当時は醤油の製造・卸売業者であったが、明治以後は食品総合商社としてグループ会社を経営、三菱食品、日本アクセスに次ぐ全国3位の売上高を誇る国分グループである。

そんな巨大グループにおいて、2017年1月、国分グループの経理財務業務を担う経理機能会社として設立され、同年6月事業に開始したのが、国分ビジネスエキスパート株式会社だ。

グループ全体での仕入先は国内外1万社のメーカー、品目数は60万アイテムにもなり、国分ビジネスエキスパートでは、関係先との間で発生する大量の売上・仕入データの処理に頭を悩ませていたという。

同社では、その解決策として出会ったのがRPAだったという。同社がRPAを導入するにいたった背景、そして頭を悩ませていた業務課題とその解決アプローチ、今後のRPA活用について、RPAプロジェクトを担う同社のデジタル推進課課長、東城栄一氏、同課、飯原麻莉乃氏、そして買掛金管理部 二課、松崎亜希奈氏らに聞いた。

■記事内目次

  • 1. きっかけは、悩みの種だった売上・仕入データ変換
  • 2. 8,000件以上/月のFAX送信作業の自動化で業務改善を加速
  • 3. RPAは“使い分け”でさらに便利に

(左より)国分ビジネスエキスパート株式会社 買掛金管理部 二課 松崎亜希奈氏、経営統括部デジタル推進課 課長 東城栄一氏、デジタル推進課 飯原麻莉乃氏

1. きっかけは、悩みの種だった売上・仕入データ変換

──RPAを導入する前にはどのような課題があったのでしょうか。

東城栄一氏(経営統括部デジタル推進課長 兼 業務改革担当): まだデジタル・トランスフォーメーション(DX)というキーワードがなかった2015年頃に遡りますが、当時、私と飯原は「直送」と呼ぶ物流形態における売上・仕入データ作成を担う部署に所属していました。

「直送」で扱う酒類や食品は、仕入元メーカーから我々卸業者を通らずに商品が直接得意先へと出荷されます。そのため我々の部署では、メーカーから出荷案内という内容連絡を受け取ると、これをもとに売上仕入データをつくることになります。

ただ仕入元メーカーから送られてくるのは電子データばかりではなく、小規模な事業体のお取引先様では紙がまだまだ主流ですのでそちらにも対応しなければいけません。

さらにデータも2形態あって、大規模な仕入元メーカーでは業界標準のフォーマットを使うことが多いものの、エクセルデータをeメールに添付してご連絡くださるお取引先様も多いのです。

エクセルデータで受領した場合、基幹システムに対応する汎用フォーマットへとデータを変換してから入力する必要が生じます。2015年当時、毎月2,500通もの出荷データが添付されたメールが送られてきていました。

しかも一つのメールに複数のエクセルファイルを添付してお送りくださるお取引先様も多いので、データ変換を要する数はメールのおよそ2~3倍となり、平均して月に5,000~7,500ファイルを手作業で業界標準のフォーマットに変換していたのです。

飯原麻莉乃氏(経営統括部デジタル推進課): 仕入元メーカーから送られた直送の出荷案内メールがあるかどうかは通常業務の合間に都度に確認するのですが、月末と月初にはその量も増えるので業務の負担となっていました。

仕入元メーカーによってデータフォーマットにバラツキがあるので、基幹システムに入力するための汎用フォーマットへの変換作業は、時間的にも心理的にも多大な負荷となっていました。

──そうした悩みを抱えていたところにRPAと出会ったというわけですね。

東城氏: その通りではあるのですが、2015年当時はまだ「RPA」という言葉もほとんど国内に浸透しておらず、当然ながら私もRPAという存在自体を知りませんでした。目の前のこの悩みをどうしたものかと、ひとまず何か情報を得ようとリテールテックという小売向けの展示会に参加しました。

そこで自動化に関わるソリューションを探していたところたまたま出会ったのが「Autoメール名人」だったのです。

当時は同じようなことのできる製品は見当たらず、ユーザックシステム株式会社(以下、ユーザック)さんにお話をお伺いしたところ、ユーザー部門でも使えそうだと感じ、まずデモ版のライセンスをお借りしました。

デモ版をひと通り触ってみて、特にレクチャーなど受けなくとも使いこなせそうだと実感できたので、2015年末に製品版を購入しました。そして翌2016年の1月にテスト稼働を開始し、2月には本物の出荷案内データを用いたデータ変換作業の自動化が実現したのです。

そして2016年10月の時点で、対象にしていた7,000件の出荷案内のうちの50%をRPAでカバーできるようになっていました。

──かなりスムーズに導入が進んだ印象を受けましたが、なにか苦労した点などありましたか。

東城氏: いくら簡単とは言っても最初に講習を受けたわけでもないので、自分で使いながらトライ・アンド・エラーを重ねたのが苦労といえば苦労でしょうか。新しく入社してきた方に業務を教えるような感覚です、同時に私自身が普段どのような思考や業務を進めているのかを確認する良い機会にもなりました。およそ3ヶ月でRPA化のコツをつかむことができました。

2. 8,000件以上/月のFAX送信作業の自動化で業務改善を加速

──現在、東城さんと飯原さんが所属しているデジタル推進課はどのような役割を担っているのでしょうか。

東城氏: 以前、売上仕入データを作成する業務を担当していた部署を母体に2018年9月に発足したのがデジタル推進課です。現在は我々を含めて13人ほどの社員が在籍しています。

ここでは、従来の仕事と合わせて、RPAやAIなどのデジタルツールを活用して経理業務を変革していく役割も担っています。そこでRPAを社内で一括して管理して自動化設定作成するとともに、様々な業務に活用を見込める便利なITツールを社内に広げていくことも行っています。その1つが、私が一時的な異動で在籍した買掛金管理部です。

──買掛金管理部でRPA化した業務にはどのようなものがあるのでしょうか。

松崎亜希奈氏(買掛金管理部二課): 1つがメーカーに品代の支払明細書を送る作業の自動化です。この支払明細書を毎月8,000件以上も送らねばならず、以前はそれをFAXで1通1通送っていました。だいたい一人あたり200社から300社の仕入先メーカーを担当していますので、かなりの負荷となっていました。

作業時間は2時間ほどですが、FAXなので一気に送ろうとするとメモリーがオーバーフローするため待ちながらやるしかありません。この待ち時間がかかる時間以上にストレスでとにかく嫌な作業でしたね。

この悩みをデジタル推進課に解決してもらいました。Autoメール名人とインターネットFAXサービスを連携して自動FAX送信ができるようになったのです。

いまではサーバー上のフォルダに支払明細書のPDFファイルを置くだけで、自動的にインターネットFAX会社にファイルを添付したメールが送られ、さらにそこから仕入先へとFAXが送られるようになりました。これには同じ作業を行っていたメンバー全員が楽になったと喜んでいます。

その後、さらにRPA化できる業務はないかと部署内で業務の洗い出しをしました。すると担当者しか知らなかった作業があることがわかり、これらをRPA化したことで一括管理できるようになりました。

RPA化のプロセスで業務を洗い出ししたことで業務の可視化にもつながり、社員の業務効率化の意識も向上しました。

3. RPAは“使い分け”でさらに便利に

──今後RPA活用をどのように進めていこうと考えていますか。

東城氏: Autoメール名人はGUIがわかりやすいので誰でも自動化設定が行えるため、今後、汎用型RPAも並行して導入を勧めていくなかでも汎用型RPAツールでは不可能であったりロボットの作成に手間がかかったりする作業の自動化に活用できると考えています。

Autoメール名人単体でもまだまだ自動化できる作業はあるでしょうし、汎用型RPAと組み合わせることでさらに多くのことが可能になるはずです。一口にRPAと言ってもさまざまな種類があり、それぞれに得手不得手があるので、その得意とするところに合わせて使い分けると、もともと便利なRPAがさらに便利になるのではないでしょうか。

──創業から300年、日本の食を支え続ける御社の絶え間ない改善への努力と成長への飽くなき挑戦について、大変興味深くお話を聞かせて頂きました。本日はありがとうございました。

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