メディア

SIer依存体質のニッポン企業が考えるべきIaaSベンダーの選定ポイント

企業におけるパブリッククラウド活用の動きも鮮明になってきた。しかし、システムだけでなくクラウド活用においてもSIer依存体質が色濃く残る国内企業には幾つかの課題がある。

» 2020年03月31日 11時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
ガートナー ジャパン 亦賀忠明氏

 ガートナー ジャパン(以下、ガートナー)が2019年8月に発行した「日本におけるクラウドIaaSのマジック・クアドラント」によると、外資系プロバイダーと国産プロバイダーの間に画然とした違いがあることが浮き彫りになった。本稿は、ガートナー ジャパンの亦賀忠明氏(リサーチ&アドバイザリ部門 ディスティングイッシュト バイスプレジデント, アナリスト)にその詳細を聞き、編集部が再構成したものだ。

マジック・クアドラントから見るIaaSベンダー11社の現在地

 国内におけるクラウドIaaSの利用率は増加傾向ではあるものの、2019年2月の調査時点では利用率は17.1%にすぎない。国内導入率が65%のサーバ仮想化と比較すると、クラウドIaaSの利用はまだ初期段階にある。

 ゆっくりと着実にクラウドIaaSの利用は進んでいるものの、国内企業はいまだにクラウドの本質を十分に理解できているとはいえず、クラウドがアウトソーシングや仮想ホストとは似て非なるものであることに気づいていないケースが多く見られる。

 グローバル市場では「Amazon Web Services」(AWS)、「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform」(GCP)といったメガクラウドに加え、「Alibaba Cloud」「Tencent Cloud」といった中国のサービスが競り合う状況になっている。こうした海外勢に対して、国産クラウドIaaSは投資金額やスケール、ユーザー数、イノベーションの量と質、売上高といったさまざまな指標において、大きなギャップがある。

 ガートナーは、IaaSベンダーおよびプロバイダーの製品やサービスを「マジック・クアドラント」によって評価した。これはガートナー独自の評価手法であり、IaaSだけに限らず全ての製品やサービスにおいてこの手法を用いて評価している。

 図1は、ガートナーが2019年に出版した「日本におけるクラウドIaaSのマジック・クアドラント」だ。国内のクラウドIaaS市場がどのような競争関係であるかを確認できる。

図1 日本におけるクラウドIaaS市場のマジック・クアドラント(2019年)(出典:ガートナー)

 マジック・クアドラントは、クアドラントという名称から推察されるように、「リーダー」「概念先行型」「チャレンジャー」「特定市場志向型」の4つの区分を持つ。各プレイヤーは、このいずれかにポジショニングされる。

 本マジック・クアドラントでは、Amazon Web Services(AWS)とMicrosoft、Googleといったベンダーが「リーダー」として位置付けられ、IBMが「概念先行型」、国内プロバイダー各社は全て「特定市場指向型」と分類された。

 マジック・クアドラントは、どこのポジションに位置しているものが良い、悪いということを示すものではなく、市場においてどのプレイヤーがリーダーであるかを示すものである。プレイヤーは「ビジョンの完全性」と「実行能力」の2軸によって評価される。

 ビジョンの完全性とは、テクノロジーの方向性や戦略、将来へ向けた能力を評価するものである。ビジョンではなく、「ビジョンの完全性」となっているのはそのためだ。実行能力とは「ユーザー数を拡大できたか」「評判や売り上げは向上したか」といった、過去から現在までの実行結果を示すものだ。

 この2軸により、市場をけん引する力を持つリーダーはどのベンダーか、ということを示す。日本におけるクラウドIaaSのマジック・クアドラント(2019年版)では、日本における企業向けITベンダーがグローバルと比較して、量と質ともに相当遅れていることを鑑み、どのプレイヤーがIaaS市場をより時代に即した状態に変えるのか、つまり「チェンジ・リーダーは誰か」という観点を強めて評価したという。

国内と国外ベンダーで大きな差が生まれるカラクリ

 図1の通り、なぜ国内と国外ベンダーでこんなにも評価に差が見られるのだろうか。それを解き明かすには、ガートナーが提唱する概念「バイモーダルIT」のモード1とモード2で市場を捉える必要がある。

 モード1は安定性や確実性を重視し、コスト削減や効率化にフォーカスした“守り”のIT(SoR:System of Record)を意味し、モード2は俊敏性や柔軟性を重視し、新事業展開やイノベーションにフォーカスした“攻め”のIT(SoE:System of Engagement)を意味する。つまり、モード1は安定性や確実性を重視し、「しっかり作ってきっちりと運用」する完璧を求めるアプローチであり、モード2は俊敏性や柔軟性を重視し、「作っては出して」の継続的改善のアプローチである。

 例えばメインフレームや基幹系システムを含むこれまでのオープン・システムはモード1に属し、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、サーバレス、コンテナ、マイクロサービス、DevOps、継続的インテグレーション/継続的デリバリー(CI/CD)環境といったテクノロジーや考え方はモード2に属する。

 モード1、モード2という切り口からIaaS市場を見ると、国内ベンダーはモード1に属する要素が色濃く、国外ベンダーはモード1の要素に加えてモード2の要素が多分に含まれている。

 ここ数年のメガクラウドベンダー間の競争は、主にモード2の領域での競争である。国内ベンダーは既にモード2領域の競争からは引き離されており、ガートナーは「この差は、今後さらに拡大するだろうと」予想している。もっとも、メガクラウドの投資金額と国内ベンダーの投資金額の差が大きすぎて、体力的にとても太刀打ちできるものではない。

 こうした背景から、「国内のプレイヤーはメガクラウドとの全面競争を諦めている」とガートナーは捉えている。結果として、国内ベンダーは「AWS」や「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform」(GCP)といったメガクラウドのサポートを強める姿勢を見せている。

 ユーザー企業も考えるべきことがある。ガートナーによると「国内のユーザー企業は、いつまでも業務要件や従来型の仮想ホスティングの延長サービスの選定ばかりにフォーカスしていると、グローバルのテクノロジーイノベーションから取り残され、競争力を失うことになるだろう」という。

 また、日本企業は昔からSIerに依存する体質を持っていて、現在もそこから脱しきれていない。本来、IaaSは組織で自律的に運転することでビジネスメリットを最大化できるものだが、日本企業は長年のSIer依存体質をひきずりIaaSの利用においても、自律運転よりもSIerにシステムの構築や運用を丸投げする傾向が強い。また、全てを丸投げしていると高コスト化を招くことにもなりかねない。「24時間365日の常時監視などのIaaS監視サービスを利用して年間数百万円を支払っていても、サービスの内実はただpingを打つだけの死活監視だった」ということも起こり得る。

ユーザー企業がIaaSプロバイダーを選定する際に持つべき視点

 ユーザー企業は、IaaSベンダーをどう選定するべきか。マジック・クアドラントのチャートでベンダーを比較、選定しようとするユーザー企業が見られるが、ベンダーの選定はそれほど単純なものではない。

図2 クラウドIaaSの捉え方(出典:ガートナー)

 ユーザー企業が、クラウドIaaSを捉える際の重要なポイントは以下のように整理できる。

  • クラウドIaaSは単なる仮想ホスティングサービスではなく、サーバやストレージ、ネットワークといった企業ITを支える要素だけでなく、サーバレスやコンテナ、マイクロサービス、サービスメッシュ、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ブロックチェーン、DevOps、CI/CD、量子コンピュータ、衛星の制御など100を超える多種多様なサービス部品の集合体である

  • クラウドIaaSは、モード1だけでなく、モード2にもフォーカスするものである

  • クラウドは、自動車と同様にユーザーが自律的に“運転”することでビジネス・メリットを最大化できる可能性を持つものである。クラウドは従来型のアウトソーシングとは似て非なるものであり、クラウドに「預ける」「任せる」ものではない

  • クラウドはもともと従来型のSIによる前時代的なシステム構築(遅い、高い、不満足)の反省に上に立ったものであり「早い、安いより満足」をもたらすために登場したもの。本来、クラウドは使うものであり作るものではない

 また、ユーザー企業は各プレイヤーに対して、「モード1、モード2関連サービスはどのようなものか」「主要なイノベーションはどのようなものか」「ユーザーの自律的な運転を支援するものか」「ユーザーの自律的な運転を支援するものか」といった視点を持ってベンダーを選定する必要がある。

 クラウドにより、ライフスタイルやビジネススタイルは変化している。ビジネスや産業、また社会に変化をもたらす原動力であるクラウドIaaSは、単なる「業務システムを支える基盤」「仮想ホスティングサービスの延長」ではない。そのような見方は、10年以上も前の見方であり、またクラウドの潜在力を矮小(わいしょう)化して捉えるものである。

 ユーザー企業はクラウドIaaSに対する認識を変え、選定の仕方そのものを見直す必要があるだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。