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「Office 365離れ」はなぜ起こる? 導入のプロが語る利用促進の成否の分岐点

数々のOffice 365の導入案件に関わるマイスターは、Office 365導入後もユーザー企業から相談が絶えないという。それは、ツールの定着に関する悩みだ。なぜこうした相談が多く寄せられるのか。またOffice 365から「Microsoft 365」への突然の名称変更についてもコラムで詳しく解説する。

» 2020年05月18日 08時00分 公開
[太田浩史内田洋行]

 「Microsoft Office 365」(以下、Office 365)の導入は、セットアップして従業員が使える状態にして終わりではない。従業員が用途に応じてOffice 365の機能を使い分け、有効に活用できるようになって初めて導入効果を得られる。だが、「導入したはいいが、一向にツールの利用が組織に定着しない」「機能を有効に活用しきれていない」などと導入後の壁にぶち当たる企業も散見される。

 Office 365の組織利用を促し、得られるメリットを最大化するにはどういう仕組みづくりが必要なのだろうか。連載第2回となる本稿では、「Office 365の利用推進」における成否の分岐点について解説する。

Microsoftは2020年4月22日(日本時間)にOffice 365の名称を「Microsoft 365」に変更した。詳細は記事中のコラムで解説。


著者プロフィール:太田浩史(内田洋行 ネットワークビジネス推進部)

2010年に内田洋行でOffice 365(Office 365の前進であるBPOS)の導入に携わり、以後は自社、他社問わず、Office 365の導入から活用を支援し、Office 365の魅力に憑りつかれる。自称Office 365ギーク。多くの経験で得られたナレッジを各種イベントでの登壇や書籍、ブログ、SNSなどを通じて広く共有し、2013年にはMicrosoftから「Microsoft MVP Award」を受賞。


導入以上に悩ませるOffice 365の「定着」に関する問題

 Office 365の導入を検討中または導入済みの企業から相談を受ける機会が増えている。その多くは、導入前および導入1年前後の企業からである。

 導入前の相談で多いのが、セキュリティや運用管理面に関する相談だ。具体的には、「Office 365を導入またはオンプレミスからクラウドへ移行するに当たってどういった点に気を付けるべきか」「社外からの利用をどう制限すればいいか」「スマートフォンの管理はどうしたら良いか」などだ。

 導入から1年ほどが経過すると、「Office 365に含まれるサービスをもっと活用したいが詳しく分からないので教えてほしい」「従業員の利用を促進させるにはどうしたらいいか」「メール以外の利用率が上がらず悩んでいる」といった、ツールの利用に関する相談が増えてくる。

 また近ごろの傾向として、事業部門や業務改善部門、働き方改革推進部門、社内IT部門以外からの相談が目に見えて増えている。「Office 365を導入したがユーザー部門で利用が定着せず、もっと良い使い方や広め方のアドバイスが欲しい」というものだ。

利用の促進を阻む“Office 365の沼”とは

 こうした相談からも垣間見られるように、Office 365の導入を終えると活用を検討するフェーズに移り、そこからが導入企業をさらに悩ませる。ツールの利用に関する悩みを抱える企業の課題を俯瞰(ふかん)してみると、共通課題が見えてくる。

 どうやら「Office 365の機能は分かりづらい」と感じる人が多いようだ。なぜ利用者はこの“Office 365の沼”にはまるのだろうか。その一因は、Office 365の機能はあくまでも汎用(はんよう)的な機能ばかりではないからだと筆者は考える。例えば国産グループウェアは、社内掲示板や電話伝言メモ、在庫管理、社内FAQなど、名前からも使い道を想像しやすい機能が多い。一方Office 365は、メールやチャット、ファイル管理、ポータル、社内SNSなど、機能は多くあるものの、その使い道はわれわれユーザーに委ねられている。ここが利用者に「Office 365は複雑だ」という印象を与える一つの原因である。

 この“沼”から抜け出すには、Office 365の機能を自分たちの業務と組み合わせて考えるといい。第1回の記事でも解説したように、ツールの利用シーンをオフィスの各場面に当てはめながら使い方を体系立てて考えて利用シーンを想像しやすいようにまとめること、そしてパイロット運用などで導入部門と従業員でコミュニケーションを取りながら具体的な使い道を模索し、利用シーンを作り上げることが肝要だ。それぞれの機能が汎用的であるが故に、思いもよらぬ業務改善につながることもある。自分たちでは解決できない課題に直面した場合は社外のパートナーに声を掛け、アドバイスや技術的な支援を求めるのも一つの手だ。

 こうした“沼”にはまらないように、当社では顧客にOffice 365の機能を説明する際に、用途や活用方法についてディスカッションすることが多い。顧客と一緒に利用シーンを整理し、ユーザー部門の従業員にどういったものかをしっかりと説明してもらうことでツールの利用意欲を高められる。顧客の中には、利用する従業員が増え、社内のツール研修会への参加者も増えたという話も聞く。

ユーザー部門の“Office 365離れ”はなぜ起こる?

 さらに導入企業を悩ませるのは、クラウドサービスならではの特長だ。Office 365はクラウドサービスであるため、頻繁に機能追加や仕様変更が発生する。世界中のユーザーからの要望をくみ取りながら、日々新たな機能やサービスが開発され、私たちが利用する環境に反映されている。それによってOffice 365でできることが少しずつ広がっているのは確かだが、それを知らないユーザーにしてみれば「ある日突然知らない機能が追加されていた」となる。こうしたことも、“Office 365離れ”を招く一因ではないかと考える。

 頻繁な変更はIT部門へ「ユーザー部門から知らない機能について急に問い合わせがあった」「セキュリティなど社内のポリシーとの整合性を確認する必要がある」といった混乱を与えやすい。

 Office 365の機能追加の計画は、「Microsoft 365ロードマップ」に情報が公開されており、管理者にはMicrosoft 365管理センターのメッセージセンターに情報が配信されている(マイクロソフトのWebサイトより。本記事掲載時点で、Office 365からMicrosoft 365に変更されている)。

Microsoft 365 ロードマップ(2020年4月時点で開発中の機能が243個登録されている)
Microsoft 365管理センター内のメッセージセンター、機能変更などが通知として届く

 IT部門の方は、このような情報を定期的に確認し、情報を把握している社外パートナーと定期的に情報共有をしておくことが望ましい。

コラム:Office 365が「Microsoft 365」に、今までと何が変わった?

 Microsoftは2020年4月22日に、Office 365を「Microsoft 365」に名称を変更した。今までの「Microsoft 365」は、Office 365の機能に加えてセキュリティやコンプライアンス機能を強化し、クラウド認証管理の「Enterprise Mobility + Security」(EMS)や「Azure Active Directory Premium」などを包括して提供するものであり、Office 365の上位プランのような位置付けだった。

 Office 365の名称変更と同時にMicrosoft 365とのブランド統合によって、「Officeのみ」「Exchange、SharePoint、Microsoft TeamsなどのクラウドサービスとOfficeの組み合わせ」「高度なセキュリティなどを含む全機能」というように企業のニーズや事情に合わせてライセンスをMicrosoft 365の中から選択できるようになった。

 今やOfficeは各種クラウドサービスやAI(人工知能)がユーザーの操作を支援し、これまでのOfficeとは異なるものになろうとしている。そうしたMicrosoftが持つ技術を組わ合せたサービスであることを強調するために”Microsoft”を冠するブランド名に統合したのだと筆者は考える。今回は名称変更だけであったが、今後の機能追加なども期待するところだ。

 なお、今回の名称変更は中小企業向けプランが対象であり、大企業や教育機関向けに提供されていた「Office 365 E1」「Office 365 E3」「Office 365 E5」や「Office 365 A1」「Office 365 A3」「Office 365 A5」は対象外であるため、当面はOffice 365の名称が残るようだ。


利用促進の近道はチャンピオンユーザーを味方に付けること

 このようにOffice 365を個々にではなく組織単位で活用するには、活用方法を従業員が積極的に考える仕組みを作り、機能の変化にも順応していく必要がある。だが、考えるのは簡単だが実践するのは難しい。そうした場合に有効なのが、社内に「チャンピオンユーザー」を作り、味方に付けることだ。

 チャンピオンユーザーとはIT活用に意欲の高い従業員を指し、ツールの利用を促進させる中心となる存在だ。現場目線で活用を考えながらIT部門とユーザー部門の橋渡しを担える。IT部門はこうした従業員に対して積極的にアドバイスや新機能を伝えることで、現場で活用してもらいながら社内の利用事例を作りツールの利用を広めるのも一つの手だ。また、チャンピオンユーザーが他の従業員からの相談を受けることで、現場のメンバー同士で活用を支援する風土の醸成も期待できる。

 海外ではこうした取り組みは早くから行われていたが、国内においても1年半ほど前から徐々にこうした取り組みを進める企業が見られ、効果を上げるようになった。

チャンピオンユーザーは現場目線で活用を考えIT部門との橋渡しの役割を担う

利便性だけではない、Office 365で享受できる最大のメリットとは

 今の業務を改善、効率化する手段として新たなサービスやツールの導入といった選択肢もあるが、せっかくOffice 365を導入しているのならば、まずはOffice 365の豊富な機能を使って解決できないかという考え方もある。Office 365といった身近なIT資源を有効に活用しながら業務を変えていくことも重要だろう。

 またOffice 365は、オンプレミス型システムにありがちな数年おきのリプレースなどもなく、必然的に利用期間も長くなる。そして長く使えば使うほど、仕様変更や機能追加によってより良いツールに変化し、導入時よりもできることが広がっていることに気付くだろう。これがクラウド型オフィスツールで享受できる大きなメリットだ。

 そのためにも、Office 365の活用の推進は継続して行うべきものだ。Office 365の導入当初はプロジェクトを立ち上げて社外パートナーの協力を得ながら組織全体で取り組むが、その後の活用は現場任せといったケースも多く見受けられる。こうした取り組みは現場だけで行えるものではない。せっかく決して安くはない予算を割いて導入したOffice 365をより有効に活用するためには、経営層がこうした組織活用の推進の重要性や継続的な取り組みを理解する必要があるだろう。

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