コロナ禍でユーザーが増加するeラーニング市場だが、金額ベースでの市場成長はそれに比例しないようだ。
矢野経済研究所はこのほど、国内eラーニング市場の調査を実施し、B2B(企業間取引)、B2C(企業対消費者間取引)各市場の動向、参入企業動向、将来展望を公表した。
矢野経済研究所によると、2019年度の国内eラーニング市場規模は、2018年度比7.7%増の2354億円を見込む。その内訳は、B2B市場規模が684億円(前年度比5.2%増)、B2C市場規模が1670億円(同8.8%増)で、両市場ともに今後も拡大を継続させる見込みという。
2019年度に同市場が好調だった理由は次の通りだ。
B2B市場では2019年は企業の人材育成に対する投資が活性化や、働き方改革関連法の施行による企業の業務効率化を追求する動き、従業員の教育方法の一つとしてeラーニングが一般化したことも影響し、ユーザー数が着実に増加したとみている。
一方、B2C市場は、スマートフォンやタブレット端末とSNSを活用した学習方式の浸透、提供サービスの進化、AI(人工知能)を用いた学習サービスの登場などを受け、ユーザー数を着実に増加させ、個人の学習形態の一つとして、eラーニングを一般化させつつある。
また、学習コースの一部に動画による解説やオンラインによるコーチングを組み込むなど、学習理解を深めるためのツールとしてeラーニングを融合させる学習サービスは増加傾向にあり、サービスの多様化がますます進展する環境にある。
好調に見えるeラーニング市場だが、B2B市場を中心にいくつかの課題も抱えている。2020年度の市場伸び率にも影響を与えそうだ。
B2B市場の抱える課題は、ユーザーの増加とあわせて競合状況が激化し、LMS(学習管理システム)や学習コンテンツの価格の下落傾向が見られ、提供事業者側の課題も散見されている点だ。また、B2C市場では、個人を対象とするeラーニングはインターネット上に氾濫する無償の学習サービスとの差別化の課題や、事業収益性の課題もある。
矢野経済研究所は2020年度の国内eラーニング市場規模を、2019年度比4.5%増の2460億円と予測する。2020年度は、B2B、B2Cともに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によって遠隔教育の需要が高まり、eラーニングのユーザー数を増加させるものとみる。
ただ、先述したようにB2B市場では、業績悪化の懸念から企業の人材育成投資の抑制が想定されることや、コンテンツの価格下落傾向もあり、金額ベースの伸びとユーザー数の伸びは比例しない。2020年度のB2B市場規模は、前年度比0.9%増の690億円と予測される。
一方、B2C市場では新型コロナウイルス感染症の終息による社会生活の安定化の見通しがつかず、不確実性の要素が多い。こうした影響によって、対面授業が行えない学習塾、予備校では、映像授業の配信や双方向性のあるWeb授業のサービス提供が活発化するものとみられることから、eラーニングによる学習への影響は比較的軽微になるものと考え、2020年度のB2C市場規模は、前年度比6.0%増の1770億円を予測する。
AI技術(機械学習、音声認識、自然言語処理等)を活用した学習サービスの展開も活発化している。学習者の学習理解度・習熟度をAIが分析し、ユーザーに個別の最適な学習を提供するアダプティブラーニング領域のサービスや、語学習得、試験問題の予想、学習アドバイス・学習に対するモチベーション維持、などの領域でAIを活用した学習サービスの提供が進んでいる。
矢野経済研究所は、今後AIを活用した学習サービスが浸透することで、学習の効率化(学習時間の短縮)、個別最適化といったサービスの特長が認知され、講師・指導者の負担軽減といった観点から、学習塾・予備校などを中心にAIを活用した学習サービスのさらなる需要も高まると予想する。
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