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国内1万社が抱える「オフコン沼」、捨てないけれど塩漬けにしない方法

オフコン技術者は「絶滅寸前」か。今も国内に多数残るIBM i(旧:IBM AS/400)などのシステムを、今後どう扱っていくべきか。DX推進待ったなしの状況で、仕様すら把握できず取り残されるレガシーの救済方法を聞いた。

» 2020年08月28日 11時15分 公開
[原田美穂キーマンズネット]

もうすぐエンジニア絶滅? 国内1万社に影響 「稼働できちゃうオフコン」の沼を解消する

 「国内だけで約1万社がIBM iシステムを今も使い続けています。システムが堅牢なこともあり、サポートが継続する以上は、大きな変化がない領域で使われるシステムについてはリプレースを実施する積極的な理由はありません。ただし、多くの企業が頭を抱えているのは、属人的なシステム運用をどう脱却して現状を把握するか、という問題です」

 そう指摘するのは、ジーアールソリューションズの社長の鎌田 悟氏だ。

ジーアールソリューションズの社長の鎌田 悟氏 ジーアールソリューションズの社長の鎌田 悟氏

 2025年を前に、一般企業がITシステムを導入し始めたころに開発を担ってきた技術者が一斉に退職の時期を迎える。経済産業省の予測によれば、2025年までに約43万人のIT人材が不足するとされる(*)。その際特に人材難になるのは、1980年頃に導入されたメインフレームや“オフィスコンピューター”(オフコン)などの技術者といわれている。こうした古いITシステムは、担当技術者の暗黙知や経験に依存していたり、記録が十分に残っていなかったりするため、実装や依存関係の詳細が不明になりやすく、稼働はしているものの「なぜ動いているのかがはっきり分からない」という状況のまま運用が続いていることもある。実装が不明なため修正や改良を検討する手掛かりがなく、古い技術のため若手に引き継ぎにくいことも、ベテラン技術者の暗黙知に依存した「塩漬け」化を促してきた。だが、いよいよベテラン技術者に頼れない状況が迫ってきた。

*経済産業省「DXレポート(サマリー)」による。

謎実装の「沼」が広がるオフコン資産、半分が使わないプログラムも

ジーアールソリューションズ 阿野幸裕氏 ジーアールソリューションズ 阿野幸裕氏

 「私どものお客さまの例では、実装されているプログラムの半分が使われていない、というケースもありました」とジーアールソリューションズの阿野幸裕氏(モダナイゼーション事業部長)は語る。

 現在は使わなくなったものの、仕様が不明なため、改修してよいかどうかがはっきりせず、システムが肥大化したままになっている企業は少なくない。どの業界でも発生する問題だが、阿野氏によれば、とりわけ流通小売業界では深刻なケースが多いという。

 「早い段階からIT化を進めた企業が多く、サービス品質が競争力に直結することから、都度の市場環境に合わせた最適化の積み重ねが多いのです。継続して積極的なIT投資をしてきた企業の場合、改修の積み重ねが現状把握の障壁となっています」(阿野氏)

 こうした企業では、現状のシステムを把握できないことが原因でシステム更新や刷新などの検討が難しい場合もある。デジタルトランスフォーメーション(DX)を目指し、新たなサービス開発や効率化を進める目的でIT環境を刷新しようにも、これでは着手すら難しい。DXの波に乗れないブラックボックスだらけのオフコン環境をどう扱っていけばよいのだろうか。

「オフコンのリプレースを急ぐのは得策ではない」その理由は

 「安定して動くことが重要な基幹システムを無理にリプレースするのは得策ではない」と阿野氏は説明する。

 「デジタル変革というと、何でもかんでも古いものを変えなければ、という論調になりやすいのですが、リスクがなく安定して稼働するシステムについては、当面はうまく活用する方向で考えた方がIT投資保護の意味でも有効です。将来的な変革を検討するにしても現在の実装を正しく把握しなければ効率化は検討しにくくなります」

 現状に合致した仕様書が存在するかもわからない状況で、実装を把握する術はあるのだろうか。同社が提案する手法を聞いた。

 ジーアールソリューションズは、オフコン資産を捨てるのではなくモダナイズすることを前提に、COBOL技術者でなくてもプログラムを解析できるツールを提供してオフコンのスリム化を支援する。同社は、カナダに拠点を置くFresche Solutionsが開発した「X-Analysis」というツールを日本企業向けに提供する。X-Analysisはブラックボックスになりやすい旧AS/400などのIBM iシステムを解析する専用ツールだ。ソースコードやドキュメントがなくてもプログラムを解析できる。

  X-Analysis(出典:ジーアールソリューションズ)

 AS/400だけでなく、より古い「System 36」(S/36)のプログラムにも対応する。ソースコードだけでなく、オブジェクトも解析対象にできる。解析対象のサーバにX-Analysisのサーバモジュールを置き、リポジトリを構築した上で、解析結果を統合開発環境(IDE)「Eclipse」のプラグインで分析する。一般的な開発環境を利用するため、Javaを中心としたオープン系の技術者にとっても使いやすい設計になっている。

  X-Analysisの解析対象(出典:ジーアールソリューションズ)

 基幹系となると、使用用途が不明なプログラムがあっても影響範囲の把握が困難な場合がある。1年に1度、特定の条件下だけで動作するようなサブルーチンのようなプログラムを止めてしまうと、思わぬ機能に障害が生じる可能性があり、場合によっては稼働停止などの問題を招くことも考えられる。

  影響分析機能(出典:ジーアールソリューションズ)

 X-Analysis自体は、プログラムの解析時に処理フローなどを分析するのと同時に、影響範囲の分析やシステム内の無駄を抽出する機能を持つ。

  プログラム構造の解析(出典:ジーアールソリューションズ)

 「基幹業務を支えるオフコンは、システムの影響範囲が広く、実装がブラックボックスになっている上に、システム自体も大きすぎて切り替えられない、という問題があります。X-Analysisは、ブラックボックスを解消し、システムの無駄を発見して『断捨離』を推進するツールとして有効です。システムが解析でき、プログラムをスリムにできれば、将来的なシステム回収や周辺システムとの連携、業務最適化などの道筋が見えてきます」

 先の編集部の調査でも見た通り、レガシーシステムの見直しやDXに向けたIT予算を用意していた企業も、コロナ禍をきっかけとしたテレワーク対応や今後の景気見通しの不確かさを懸念して、予算を絞るケースも出てきている。だがベテランIT人材のリタイア期日まではそう猶予はない。

 「オフコンをDXの足かせとして捨てるのではなく、段階的にモダナイズして新しいニーズに対応できるようにできるところから準備しておくことが、将来のリスク対策としても重要になります」(鎌田氏)

 オフコンのモダナイズに関しては、他にも現在のシステムを生かしながら、RPAなどを組み合わせた自動化やシステム連携を進める方法が提案されている。基幹システムの刷新となると、かなり高額な投資が必要となることが考えられるため、予算の捻出が難しい中堅・中小企業ではなかなか投資できず、デジタル変革の波に乗りにくい状況がある。同ソリューション用に既存の環境を生かしてスリム化と効率化を求めるアプローチであれば、比較的低コストでシステムの見直しや最適化が可能になるだろう。

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