IBMは新たに量子コンピュータの開発ロードマップを公開した。最近よく聞く量子コンピュータだが、いったい何がどうすごいのだろうか?
今まで困難とされてきた問題の解決に大きな力を発揮すると期待される「量子コンピュータ」。従来のコンピュータを「古典コンピュータ」とまで言わせてしまうほどの存在だ。現在、多くのベンダーが開発に取り組んでいる。その中の1社、IBMが、いよいよ量子コンピュータに本腰を入れ、大々的にロードマップを発表した。しかも同時に「超強力冷凍庫」までも開発しているとか。量子コンピュータに冷凍庫? いったい何が起こっているのか──?
2020年9月15日、IBMは同社が展開している量子コンピュータの新規ロードマップを公開した。2023年末を目標として、1000量子ビットの大型量子コンピュータの開発を目指すのだという。
「1000量子ビット」とはいったいどれほど“すごいこと”なのか――。
量子コンピュータは従来のコンピュータの「ビット」ではなく「量子ビット」を最小の情報単位として扱う。なお量子ビットは英語で「quantum bit」と表記され、「qubit(キュービット)」と呼ばれることもある。
量子コンピュータは、従来のコンピュータとは異なり、この量子ビットを使い量子力学に基づく方法で計算を実行する。量子ビットの数が多くなるほど高い計算能力を持つ。
1量子ビットの量子コンピュータに比べ、10量子ビットの量子コンピュータは約1000倍の性能がある。量子ビットが10倍になれば、一度に並列実行できる計算量は2の10乗、つまり1024通りになるためだ。50量子ビットとなると2の50乗、つまり約1125兆倍もの性能となる。
IBMは2000年代半ばごろから量子コンピュータの研究・開発を進めていて、2016年5月には5量子ビットの量子コンピュータ、通称「IBM Q」システムの開発に成功。これをクラウド上に公開して外部アクセスも可能とし、運用してきた。
そして同社は、2019年に27量子ビットの量子プロセッサ「IBM Quantum Falcon」を、2020年には65量子ビットの量子プロセッサ「IBM Quantum Hummingbird」をリリースしている。「IBM Quantum Hummingbird」は、量子ビットを読み出すための配線を効率化し、プロセッサ内により多くの量子ビットを搭載できるようにした。量子ビット数を大きくして大規模な量子コンピュータを構築する場合、課題になるのが「エラー率の改善」だ。IBMはこの配線効率化に加えてノイズ処理や設計改善によってエラー率を減らし、より大規模な量子コンピュータを開発していく狙いだ。
公表されたロードマップによれば、同社は2021年に127量子ビットの「IBM Quantum Eagle」、2022年に433量子ビットの「IBM Quantum Osprey」、そして2023年には1121量子ビットの「IBM Quantum Condor」をリリースする予定だという。この量子プロセッサ「IBM Quantum Condor」は、同時代における世界最高のスーパーコンピュータよりも効率的に計算を行える「量子優位性(Quantum Advantage)」を達成してしまうのでは、と予想されている。
そして面白いのは、IBMはこれらの量子コンピュータの開発に欠かせない「超大型冷凍庫」の開発も進めているというのだ。量子ビットを極低温(きょくていおん)まで冷やすためには「希釈冷凍機」の存在が欠かせないのだが、現時点での既製品では十分な冷却が難しいという。そこで自社開発の冷凍庫、しかも高さ10フィート(約3m)、幅6フィート(約2m)という巨大な「スーパー冷凍庫」を開発中なのだ。コードネームは「Goldeneye」。これによって100万量子ビットの量子コンピュータまでなら“キンキンに”冷やして効率的に計算できるというわけだ。
上司X: IBMが、2023年には1121量子ビットというものすごい量子コンピュータを世に送り出す予定、という話だよ。それからスゴい冷凍庫も。
ブラックピット: 量子コンピュータ、素晴らしい性能を発揮するコンピュータというのは分からないでもないのですが、なんというかその、どういう理屈なのかちょっと理解が……。量子の重ね合わせとかもつれとか……。
上司X: キミがいま小脇に抱えているノートPCに搭載されたCPUはインテル「Core i5-10210U」だが、それがどういう理屈で動いているか分かっているのかい?
ブラックピット: い、いえ。何がどうしてCPUが計算してOSを動かすに至っているのかとか、そういうことまでは……。
上司X: だろう? それと同じだよ。量子コンピュータのプロセッサだってインテルのCPUだって、動きの理屈を知っている人は知っている。しかし完璧に知らなくたってその上のレイヤーにあるさまざまなプログラムがユーザーを助けてくれる。そういうものなんだよ。
ブラックピット: 説得力があるようなないような……。それにしても僕のノートPCのCPUスペックなんてよく分かりましたね。
上司X: 俺の特殊能力の一つでな、他人のデバイスのCPUは一目で分かるんだ。特に役立たない能力だがこういうときに役立つのさ! ……という戯れ言は置いておいてだ。冷凍庫まで作らなければならないというのはIBMもなかなか大変だな。
ブラックピット: 量子コンピュータは消費電力も高くて必然的に発熱量も激高でしょうから……。でも、量子コンピュータの開発に携われる! と思って異動してみたのに冷凍庫担当だったりしたら複雑な気分かもしれませんねえ。
上司X: いやそれも立派な量子コンピュータの開発だろう。量子コンピュータの安定動作のためには周囲を極低温、つまりほぼ絶対零度に近い温度まで下げる必要があるそうだからなあ。自社開発も致し方ないところだろうて。そこまでして実現したいハイスペックな量子コンピュータだ。それが普通にある世界はもうすぐ来る。楽しみだな。
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
年齢:46歳
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中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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