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労働力不足に業務の属人化……課題山積の物流現場を変えたニチレイロジの“仕掛け”とは

業務の属人化に労働力不足。こうした課題が目の前にある中、ニチレイロジグループは持続可能な物流を目指すために、業務のフルデジタル化に舵を切った。その軌跡をたどる。

» 2020年10月14日 07時00分 公開
[齋藤公二インサイト合同会社]

 「UCHIDA ビジネスITオンラインセミナー」(主催:内田洋行)のセッションで、ニチレイロジグループによる物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組み事例が紹介された。

 本稿では、ニチレイロジグループ本社の勝亦 充氏(業務革新推進部 部長代理)と、Automagiの三ツ木 裕隆氏(AIビジネス部 主任)による「ニチレイロジグループ 物流DX取り組み事例!画像認識AIで物流業務改革」の講演内容を紹介する。

「誰でもできて、ストレスフリーに」ニチレイロジの物流DXとは

 ニチレイグループにおいて「低温物流事業」を担う事業会社のニチレイロジグループ。国内外の関連会社を合わせた拠点数は約120カ所、冷蔵保管能力は約200万トンに上る。

 外食、小売、商社、メーカーなど「食」を扱うさまざまな顧客企業を有し、顧客数は5000社以上、売り上げの92%がニチレイグループ外からだ。主な事業は、保管事業(ディストリビューションセンター)、エンジニアリング事業(施設・設備の設計・施工・メンテナンス)、ネットワーク事業(トランスファーセンター、輸配送、3PL)、海外事業で、コールドチェーン(低温流通体系)の川上から川下まで幅広く事業を展開する。

 そんなニチレイロジグループが抱えていた課題が「労働力不足」だ。人手不足が深刻化し、労働時間の短縮とワークスタイルの改革、女性活躍の推進に取り組んできた。勝亦氏は、「労働力不足が懸念される中、今の業務を熟練者でなくてもできるようにし、ストレスフリーな仕事に変え、運営を効率化することが必要です。これにより、お客さまのサプライチェーンを支える持続可能な物流を目指しています」と説明する。

 また「デジタル化の遅れ」も課題だった。同社では保管台帳や輸配送、EDI(電子データ交換)や請求、会計などさまざまなシステムを運用している。だが、現場作業の多くは紙ベースであり、紙の整理や現場への搬送、検品の記帳、事務所への搬送、WMS(在庫管理システム)への計上などの作業が大きな負担になっていた。そこで、物流と事務作業の「フルデジタル化」を目指したという。

紙ベースの仕事をフルデジタル化にする(資料提供;内田洋行)

 こうした課題を解消するために、物流DX施策として「ペーパレス化」「誰でもできる化」「無人・省人化」「待機問題」「事務効率化」「先端技術の追求」の6つの項目に対する取り組みの推進を決めた。加えて、これら6つの施策を支える基盤として「どこでもできる化」がある。

 セミナーでは、この6つの施策のうち、ペーパレス化の取り組みとして「庫内作業のデジタル化」と、先端技術の追求に対する施策「画像認識AI(人工知能)の活用」の2つの取り組みについて解説された。

ほとんどが手作業だった……“アナログな物流”からの脱却

 まずは、庫内作業のデジタル化に対する取り組みだ。ニチレイロジグループでの入荷検品は、紙を使って一つ一つ手作業でチェックするなどアナログな業務実態だったが、この状況を変えるために3年前から業務のデジタル化に取り組んでいた。

 今では、入荷した商品をバーコードで読み取り、タブレット端末を使って賞味期限や個数などを入力し、検品できるようになった。検品後はハンディプリンタから入庫タグをプリントして貼り付けたり、異常をカメラで撮影して事務所から検証できるようにしたりするなど、検品作業のデジタル化とペーパレス化により、正確かつ効率的な作業を実現した。

庫内作業と事務業務のデジタル化で得られた効果(資料提供:内田洋行)

 「現在は、50を超える物流センターでタブレット端末による入荷検品を行っています。入荷検品に限らず、ピッキングをはじめとする物流工程の一連の流れを、タブレット端末を使ったデジタル作業で完結しています」(勝亦氏)

 これにより、作業現場における生産性の向上、帳票整理の省略化、作業の平準化といった効果が得られた。また、事務所内作業における効果として、入力作業の削減や多重チェック作業の負荷軽減、リアルタイムでの情報共有などが挙げられた。今後は、手入力によるミスの発生防止やタッチペン入力の手数削減に向けた施策を考えていきたいという。

画像認識AIで目指す「未来の物流」

 次に、先端技術の追求に対する施策「画像認識AI(人工知能)の活用」だ。Automagiと協働して、賞味期限管理に画像認識AIを活用した。ニチレイロジグループでは、物流現場のデジタル化に向けて、機器や設備にセンサーを取り付けることも検討していた。だが、全国114拠点には膨大な数の機器や設備がある。フォークリストにしても全国で約1700台あり、取り付けるセンサーも位置測位や在貨、商品検知、高さなど多岐にわたる。加えて、垂直搬送機や防御熱、パレット、ラックなども対象にすると、どこにどのセンサーを取り付ければよいかが大きな課題となる。

 「そこで、センサーの代わりにカメラで複数の状況を捉えることで、必要な情報を把握、判断できると考えました。AIを活用することで、オペレーションを効率化した未来の物流が実現できるとの期待もありました」(勝亦氏)

 そこで採用したのがAutomagiの「画像認識AIソリューション」だ。今までは賞味期限の入力を一つ一つ手作業で入力していたが、商品の梱包(こんぽう)箱を撮影することで、箱に印字された賞味期限を画像認識AIが読み取り、文字が自動的にデータ化される。この画像認識AIは93%以上という高い読み取り精度を実現し、1箱当たり約2秒という高速処理を実現する。現在は、20拠点(2020年7月時点)に導入し、月間2万5000件を処理している。

カメラで箱に記載された賞味期限を撮影するだけで、自動的にデータ化される(資料提供:内田洋行)

 勝亦氏は導入効果について「品質管理の向上につながるだけでなく、賞味期限の記録化やオペレーションの簡素化により、業務を『だれでもできる化』し、ストレスフリーな作業運営を実現しました」と説明した。

 続いて登壇したAutomagiの三ツ木氏は、同社の事業の特徴や強みを紹介した。Automagiは従業員数77人のうち約8割がエンジニアというテクノロジー企業だ。自社開発のAIソリューション「AMY(エイミー)」や、自然言語解析AIの「AMY AGENT」、画像・映像解析AI「AMY INSIGHT」、データ解析「AMY OPTIMIZER」などを提供する。

 画像・映像解析AIによって、製造⼯場や物流倉庫において、対象物の画像データからの高度な自動分類を可能とする。また、動画解析によってスポーツのプレースタイル分析や移動物体の自動カウント、紙面データのデジタル化なども実現可能だ。

 「AMYの特徴は、高精度、柔軟なカスタマイズ性、安全性です。物流業界向けでは高いシェアを持ち、豊富なノウハウをもとにリーズナブルで短納期での構築が可能です」(三ツ木氏)

 ニチレイロジグループとの取り組みは「倉庫内のフォークリフトや荷物などの状況、動きを可視化したい」という依頼を受けたことがきっかけだった。センサーを新たに取り付けることが難しいということもあり、既存の監視カメラの映像をセンサーとして活用した。物体検出や物体追跡、物体判定、可視化などを実現できるようにした。

 また、スマートフォンやタブレットで賞味期限記載のダンボールを写真撮影するだけで、正確に賞味期限部分を読み取り、WMSや機械に連携できるサービスも開発した。

 「特に、業務フローや専門用語を理解することを重視しました。何度も現場を視察し、数千枚の画像や大量のDVDデータを活用して現状を理解することに力をいれました。画像の読み取りでは文字のかすれや表記の違いなどによってうまく認識できないケースもあります。その場合でもさまざまなAI技術を活用しながら、対処できるようにしました」(三ツ木氏)

 勝亦氏は、その他のDX施策として、だれでもできる化における「AI自動配車」、無人・省人化における「無人フォークリフト/AGV」、待機問題における「トラック予約システム」、事務効率化における「RPA、AI-OCR」、どこでもできる化における「システムBCP/冷凍機故障予知診断/リモートワーク」などの施策の推進を紹介した。

 「庫内情報のデジタル化をStage1とすると、Stage2はデータを基にした意思決定です。今後、3〜5年でStage3の意思決定の自動化まで進めたいと考えています。この段階では、AIが自律的に作業をマネジメントし、経験や勘といった熟練の技を必要としない『だれでも出来る化』が実現します」と今後を展望。

 最後に、「暮らしを見つめ、人々に心の満足を提供する」というニチレイグループのミッションに触れながら「社会に対して貢献できる会社でありたい。そのためには、デジタル化を目的とするのではなく人が大事だという考えを忘れずに取り組みを進めていきます」と話し、講演を締めくくった。

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