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RGB化された測量データで軽量3D地図を作れるオープンデータ「シームレス標高タイル」とは?

Googleマップの3D地図のような表現がしたいのに、地形データが高価で大サイズ、処理が重くなりすぎて自由な活用が困難……そんな悩みを解決してくれるのが、1メートル四方の面積の地図に1センチ単位の標高情報「シームレス標高タイル」と呼ばれる地形オープンデータだ。

» 2020年11月11日 06時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

「シームレス標高タイル」とは

 地形や建物の高低差を正確に表現することは、防災対策や都市計画、ドローン飛行安全などのためにも重要だろう。例えば、避難所の位置を2次元地図にて直線距離で設定してしまうと、時には高齢者が移動できない急坂の上になることもある。また、ドローンの飛行計画を建物の高さを考慮に入れずにプログラミングしてしまうと、衝突の可能性も出てきてしまう。だからこそ、精密な立体地図を描くには正確な地表面や建物の高さデータが必要なのだが、従来は数値データが利用できるのみで、範囲が広いほどデータが膨大になり、処理するのが難しかった。特にWebアプリで立体地図を利用するには、データ転送時間が大きな問題になり、端末側の処理負荷も重くなってしまう。

 この問題を解消するために、産業技術総合研究所(以下、産総研と呼ぶ)が開発したのが「シームレス標高タイル」という標高データの表現手法である。

「シームレス標高タイル」を利用した立体地図を見てみよう

 立体地図が一般的なWebブラウザでどの程度軽く表示できるのか、サンプルを見てみよう。産総研のシームレス地質情報研究グループのサイトには、デモ用の「簡易3Dビュワー」が用意されている。

 このページを開くと国土地理院が公開している日本地形の標準地図が表示される。神戸市付近をクリックして拡大し、画面上部「この地図を3Dで表示」ボタンをクリックすると、標高データが地図の絵柄に反映され、起伏の状態が分かる立体地図に変換される(図1)。

図1 平面地図から立体地図への変換(簡易3Dビュワーによる)

 立体地図はマウスのドラッグで視点が自由に動かせるが、平面地図を重ねているだけのため、文字も絵柄もゆがんで分かりにくい。いったんWebブラウザのタブを閉じて前の画面に戻り、今度は上部にある「地図」プルダウンメニューから「写真(国土地理院)」を選んでみる。すると航空写真に替わるので、また「この地図を3Dで表示」をクリックする。すると、航空写真に標高データが重ねられ、より直感的に地形や建物、道路などのようすが分かるはずだ。マウスドラッグで移動・回転できるため、いろいろな高さ(視点の角度)から地形や建物・道路などの構造物、山川などの高さが分かるようになる。

図2 公開されている航空写真データにシームレス標高タイルを重ねた表示(簡易3Dビュワーによる)

 他の商用マップデータを使った立体地図表示システムやGoogleマップなどでも立体表示が可能だが、視点に制約があって望みの角度から(例えば真横から)眺められない、解像度(高低差を表現する精度)が低い、少々料金が発生するといったこともある。それに対して、オープンデータが(使用条件を順守すれば無償で)利用でき、視点を真上から、真横から、斜めからと自在に変えても、データが軽いので計算・表示処理がスピーディーにできるところが「シームレス標高タイル」の大きなメリットだ。

 最初の描画・視点移動した時の再描画が、ごく一般的なPCなどの端末と標準的なWebブラウザだけでストレスなく十分なスピードで行える点や、必要に応じて背後にある精密な数値情報を簡単に入手することもできる点も、「シームレス標高タイル」を利用するメリットとなるだろう。

「シームレス標高タイル」の仕組みは?

 「シームレス標高タイル」の技術的なポイントは、従来の測量結果のXYZ座標(テキストデータ)を、画像データ(RGBデータ)に置換したところにある。

測量データをRGB化、軽量3D地図を開発する産総研の狙い

 まず「タイル」という言葉だが、これは地図を決まったサイズで分割した1区画分のデータのことだ。地図情報は膨大なデータの集まりであり、閲覧するエリアを画面上で移動して再表示するたびに、一定のエリア分のデータを必要に応じて転送する方法が一般的だ。

 つまり、平面地図をPCで利用するときは、ユーザーとして意識することはないが、Webブラウザは必ず「地図タイル」をダウンロードして、その都度必要なタイルをつなげて表示しているわけだ。そのためには、タイルとタイルのつなぎ目がシームレスに表示できるよう、できるだけ高速にタイルデータを転送する必要がある。

 この地図タイルを使う手法を標高データにもあてはめたのが「標高タイル」だ。地図タイルと同時に同じ地域のメッシュで区切ったエリアの標高データをその都度転送するようにすれば、立体地図がWebで表示できる。

 ただし、平面地図データや航空写真データはそれ自体が小さくないのに、標高データを加えるとさらにサイズが大きくなり、描画処理も重くなってなかなかシームレスに表示できない。そこで、標高データをできるだけコンパクトにし、また処理負荷をなるべく軽くする必要があった。

 そこで、産総研地質情報研究部門の西岡芳晴氏(研究グループ長)が中心となり、2013年から研究してきたのが「PNG標高タイル」と呼ばれる技術だ。これは国土地理院地理空間情報部と共同で進められてきた研究で、2015年には仕様を固め、すでに国土地理院からPNG標高タイルを利用した日本全国10メートルメッシュ(平面地図を1辺10メートルの正方形のエリアに分割したもの)の標高タイルが公開されている。

 ただし実際に測量されている標高データはもっと精密で、日本各地で航空機からのレーザー測量やドローンからの2点撮影(立体データが作成可能)によって1メートル以下のメッシュサイズ、標高差(解像度)1センチ単位で記録されている。このように精密なデータになればなるほど、従来のテキスト(CSV)による標高データのサイズは大きくなる。例えば123.45メートルを表すテキストデータ(CSVファイル)は区切り符号を含めて7バイトになるのだが、PNG標高タイルでは、同じ標高データを24ビットPNGデータ(可逆圧縮方式の標準画像フォーマットの1つ)で表せるので、同じ標高値を1つの色=24ビット=3バイトで表せる。その変換処理は図3に示すような計算による。

図3 標高値を「色」に変換する計算処理例(資料 産総研)(参考文献:西岡・長津(2015) 情報地質、vol.26、no.4、p155-163「PNG標高タイル─Web利用に適した標高タイルフォーマットの考案と実装─」)

 ごぞんじのように、RGBフルカラー(24ビット)といえば1677万色だ。その色に標高をあてはめれば、1センチ刻みで海抜約88万8000メートルから海面下約88万8000メートルまでの標高値を表現できる。これは、世界最高峰のエベレスト山(海抜約8844メートル)から世界最深のマリアナ海溝チャレンジャー海淵(海面から約1万メートル)まで、全ての標高値を表現して十分に余りある。

 図4に見るように、PNG標高タイルではテキスト形式の標高データに比べ、1タイルあたりのデータ量が激減することになる。

図4 地図タイルと標高タイルの比較(資料 国土地理院)

「シームレス標高タイル」の活用

 日本各地で測量されている標高データを、PNG標高タイルに変換できれば、すでにある平面地図データに加えて、より利用価値の高い地理情報となる。そのような立体地図データがやがて多くの地域で公開されることが期待されるが、今のところ、兵庫県が先頭に立ち、1メートルメッシュで1センチの標高差を記録したPNG標高タイルをオープンデータとして公開し始めた段階だ。なお、産総研ではこれまでタイル化されていなかった西之島付近噴火活動(国土地理院)、日本周辺250mメッシュ(産総研、岸本清行)、大洋水深総図2020(GEBCO)のPNG標高タイルも作成、前掲の「シームレス標高タイル」のWebページで公開しているので、参照してみて欲しい。

 公開されている「シームレス標高タイル」を利用した地理データは、建物・樹木などの地物の高さを含む地球表面 (DSM)とそれらを含まない地表面 (DEM)との2つのデータセットがある(現在のところDSMを公開しているのは兵庫県のみ)。これらは、例えば産総研の研究グループが無料で試験公開している「MyMap3D立体地図作成・表示Webサービス」に読み込んで利用することもできるし、他のオープンソースまたは商用のGIS(地理情報システム)アプリケーションで利用することもできる。

 研究チームを率いる西岡氏は、「シームレス標高タイルは画像データなのである程度視覚的にも理解できるため、アプリケーション開発において取り扱いやすいものになっている。またJavaScriptなどの簡単なプログラムで呼び出せて、さまざまなアプリケーションやWebサービスに利用できる」と語っている。

 シームレス標高タイルを用いれば、地図データの専門家でなくてもWeb上の3D地図サービス開発がラクになるばかりか、ユーザーとしても高速なデータ転送によってストレスのないサービスが利用できるようになる。

 「全国に高精度の地図データや標高データがあるので、それが生かせるよう、今後も国土地理院や地方自治体と協力して、シームレス標高タイルを全国の標準的な標高データにしていきたい。将来の国際標準化も視野に入れているが、まずは国内で基礎を固めたい。災害時の標高も勘案した避難経路策定、精密なハザードマップ、噴火シミュレーションなどの防災研究、ひいてはビルなどの構造物の高さを視野に入れた都市計画にもユースケースが広がるものと思う」と西岡氏は抱負を語っている。

 関心のある組織には産総研として技術相談やコンサルテーションなどの支援も行いたいとのことなので、「軽い・早い・タダ」の三拍子(?)そろった標高データを活用してみたいと思ったら、同研究グループに相談してみてはいかがだろうか。

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