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「Device as a ServiceはPCのサブスク」が間違っているワケ

PCを月額課金で利用できるDevice as a Serviceは「単なるPCのサブスクだ」と捉えられがちだが、それは間違いだ。それには理由がある。Device as a Serviceを正しく理解するために、4つのステップに分けて解説する。

» 2020年11月20日 07時00分 公開
[松尾太輔横河レンタ・リース]

 本連載(全5回)は「4つのステップから学ぶ『Device as a Service』の教科書」と題し、「Device as a Service」を正しく理解するために、4つのステップに分けて解説します。Device as a Serviceの誤った認識を解くとともに理解を深める一助に、また、まだ続くとみられるコロナ禍において、IT管理者とユーザー双方のPC運用における負担が少しでも軽減できればと考えます。

著者プロフィール:松尾太輔(横河レンタ・リース)

自社開発ソフトウェア「Flex Work Place」の開発責任者を務める。「デバイスをサービスとして提供するとはどういうことか」「モノのサブスクの本質とは何か」「企業のPC運用のベストプラクティスとは何なのか」を問い続けながら、「Windows 10」の導入コンサルティング、Device as a Serviceの啓蒙(けいもう)活動を行う。


PCリプレースのためだけに「決死の出社」はもうやめよう

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生により、今、世の中が劇的に変化しています。働き方の中心はテレワークとなり、会議やミーティングはオンラインにシフトし、オフィスに出社するのも、客先に出向くのも数週間に一度という人も珍しくありません。そんな働き方のメインツールが「PC」です。

 このデジタル社会において、PCはナレッジワーカーの必需品でしたが、テレワーク中心の働き方において、よりその重要性が高まっています。PCの性能は仕事の生産性を大きく左右するものです。万が一故障して使えなくなったとなれば、仕事になりません。オフィスに通勤していた頃であれば、PCが壊れても同僚とおしゃべりなどをして過ごせば良かったのですが、在宅勤務などのテレワークではそうもいきません。PCが壊れたら、何もすることはできません。

 コロナ禍以前から、業務のデジタル化は加速度的に進んでいましたが、このコロナ禍により、より顕著に、爆発的にデジタル化が進みました。MicrosoftのCEOであるサティア・ナデラ氏が「2カ月で2年間分のデジタル変革が起きた」と表現するほどのスピードです。この流れに合わせて、今後、世の中のあらゆるものがデジタル化されていきます。紙やハンコなどの物理的なモノをなくし、あらゆるものをデジタル化してオンラインで処理できるようになれば、人と人との物理的な接触機会を減らすことができ、COVID-19の感染リスクを抑えられます。ニューノーマルの始まりです。

 しかしながら、働き方のメインツールであるPCの運用は旧態依然としており、故障したら、たとえ緊急事態宣言下であろうとも、COVID-19の感染のリスクを冒してでも電車でオフィスに向かわなければなりません。それは、故障したPCの持ち主だけではありません。ベンダーに修理交換を依頼するIT部門の担当者もオフィスに向かう必要があります。社内ミーティングも顧客訪問もオンラインで代替できるのに、です。PCが物理的な“モノ”である以上、オンラインで対応することはできません。

なぜ「Device as a Service=PCのサブスク」は誤解なのか

 そうした背景があり、PCのライフサイクルマネジメント手法としてDevice as a Serviceに注目が集まりつつあります。「as a Service」とは、直訳すれば「サービスとしての」という意味です。では「サービスとしてのデバイス」とは、何を言うのでしょうか。それは「運用された状態のデバイスを直接ユーザーに提供する」ということに他なりません。つまり、「デバイスをサービスとして受ける」ということです。Device as a ServiceはPCのサブスクと考えられがちですが、実はそうではありません。「PCを月額課金で利用できる」のが本質的なメリットではないのです。

 従来は、管理者がPCを選定、調達し、セットアップしてから従業員に配布し、一定期間たつと一括でリプレースするといった具合に、管理者が汗をかいて何とか管理していました。これはライフサイクルマネジメントと呼ばれ、まさに“ゆりかごから墓場まで”、管理者が頑張って“お世話”していたのです。それを「ベンダーとユーザー(従業員)が直接つながり、常に使える状態のデバイスを提供し続ける」のがDevice as a Serviceです。

 「as a Service」とは、「モノ」ではなく「サービス」として受けるということ。それは管理者が世話を焼く必要がないことを意味します。ベンダーがユーザーに“直接”提供することが原則です。契約をし続けている間は、PCのアップデートやリプレースなどPCのライフサイクルをベンダーと従業員間で自動化できます。必要なアプリケーションやセキュリティもセットアップされた状態で従業員の手に渡り、管理者の手を煩わせることはありません。もちろん、インストールするアプリケーションやセキュリティポリシーは管理者が決定したものが適用されます。クラウドを通してオンラインでできることが前提となります。

 Device as a Serviceのキーワードをまとめると、「ユーザーに直接」(ユーザーダイレクト)と「継続的なアップデート」です。ベンダーから従業員に直接PCが提供されるのであれば、わざわざ会社にIT部門の担当者がいる必要もありません。今は、物流網が発達し、大抵のものは1日で手に届く時代です。PCが故障しても、従業員がベンダーに依頼すれば、1〜2日程度で交換品が届きます。

コロナ禍でDevice as a Serviceが求められるカラクリ

 そしてPCは、陳腐化します。日本マイクロソフトの調査によると、モノを大切にする日本企業のPCのリプレースサイクルは、約5.4年だそうです。ただしこれは、「Windows XP」から「Windows 7」へ移行した際に、Windows 7のサポート終了がおおよそ5年後に見えていたことから、「Windows 10」への移行タイミングを見越した結果そうなったと考えるのが妥当です。

 また先述の通り、PCの性能は仕事の生産性を大きく左右します。ある調査によると、 PCの単価は、2019年5月と2020年5月を比較すると約6700円も単価が上昇したそうです。コロナ禍によりテレワークが拡大し、PCの性能がより仕事の生産性に直結するようになったことと「Windows as a Service」(WaaS)によりOSのアップデートサイクルが速くなったこともあり、今後は確実にPCのリプレースサイクルが短くなると筆者は考えます。PCを適切なタイミングでリプレースし、PCの性能を高く保つこと、そしてIT管理者に負担をかけずにスムーズに行うことがこのコロナ禍のPC運用にとって必要です。そのためにも、「ユーザーダイレクト」と「継続的なアップデート」という2つのキーワードが重要であり、それを具現化するDevice as a Serviceに注目が集まるわけなのです。

 しかし、「ユーザーダイレクト」「継続的にアップデート」していくというDevice as a Serviceは、従来のPC運用の在り方と懸け離れ、「本当にそんなことが可能なのか」と疑問に思うIT管理者もいるでしょう。従来は、IT管理者が調整してユーザーにデバイスを届け、長期スパンで一括にリプレースしていました。日本マイクロソフトは、Device as a Serviceを段階的に進める4つのStepを提唱しています(図1)。

図1 マイクロソフトが提唱するDevice as a Serviceの運用に関する4つのステップ(資料提供:日本マイクロソフト)

 次回第2回では、図1のSTEP1「CAPEXからOPEXへ」をテーマに、Device as a ServiceとWindows as a Serviceの関係性について解説します。両者はどう関連するのでしょうか。

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