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アナリストが解説、二桁成長が期待される「HCIの最新トレンド」

仮想化基盤として企業での導入検討が進んでいるHCI(ハイパーコンバージドインフラストラクチャ)。運用管理や拡張性の面でメリットが得られるHCIについて、企業における利用状況や今後の成長率について概観しながら、最新動向を見ていく。

» 2020年11月25日 08時00分 公開
[宝出幸久IDC Japan]

アナリストプロフィール

宝出幸久(Yukihisa Hode):IDC Japan エンタープライズインフラストラクチャ マーケットアナリス

エンタープライズインフラストラクチャ市場調査グループにおいて、ハイパーコンバージドインフラストラクチャやコンバージドシステムの市場動向分析や市場予測などを担当。この他、Software-Defined Storage、ファイル/オブジェクトストレージなどストレージ市場における新規分野の調査も担当している。IDC Japanでは、エンタープライズストレージシステムの市場動向分析と市場予測のほか、産業分野別の分析と市場予測などを担当、ストレージ市場における新規分野の調査を担当し、国内市場調査プログラムの拡充に貢献した。


利用率が25%、9割以上の認知度を誇るHCI

 Software-Definedの技術を駆使し、垂直統合型のインフラとして注目されているHCI(ハイパーコンバージドインフラストラクチャ)。2000年代後半に登場し、今ではプライベートクラウドやサーバ仮想化基盤として、そしてVDI(仮想デスクトップインフラストラクチャ)などにおいて利用されている。

 IDCは2020年7月にHCIの利用状況に関するアンケート調査を実施した。その調査結果によれば、HCIの利用率が25.0%に達していることが明らかになった。2019年2月での調査結果では利用率がおよそ22%であったが、そこから着実に導入企業が増加しており、今やアーリーマジョリティーの普及期にあるといえる。HCIを知らない人が1割にも満たないほどの認知度となり、HCIは多くの人が知る一般的なソリューションとなった。

 また同調査でHCIの利用意向についてもヒアリングしたところ、回答者の66.9%が「今後利用したい」と回答した。今や仮想化基盤が広く普及したことで、それを支えるインフラの運用負担を最小限に抑え、自社のビジネスに人的リソースを振り分けていきたいと考える企業が多いことが要因の一つだと考えられる。以前は自社に最適な仮想化基盤を構築することがIT部門の腕の見せ所だったが、今ではできる限り迅速かつシンプルな構成で導入、運用できる基盤が望まれているといえる。

 HCIの導入によって得られた効果については、迅速な導入をはじめ、パフォーマンスや拡張性の向上といった項目が上位に上がった。HCIの導入効果の貢献割合では、ビジネス生産性の向上に関する項目が66.0%、ITスタッフ生産性の向上に関する項目が11.2%、ITインフラ支出の削減に関する項目が22.8%となり、ビジネス生産性の向上の貢献度が最も高い結果となった。

図1:HCIの導入効果を得られた項目 図1:HCIの導入効果を得られた項目(出典:IDC Japan)

HCIのベンダーシェア動向

 今回の調査とは別に、HCIに関するベンダシェアの調査も実施しており、2020年11月に最新版の「国内ハイパーコンバージドシステム市場シェア、2020年上半期:システムベンダーのシェアが拮抗」を発表した。IDCでは、アプライアンスを提供するベンダーに基づいた分類と、HCIに搭載されたソフトウェアに基づいた分類の2つの見方で、ベンダー別の出荷動向の調査を行った。

 アプライアンスに関しては、HCI市場をけん引するNutanixをはじめ、デルや日立製作所、NEC、富士通、HPEなどが上位に名を連ねており、従来サーバやストレージビジネスを手掛けてきた延長線上でHCIビジネスが展開されている状況にあるといえる。

 一方でHCIに搭載されたソフトウェアに基づいた分類では、NutanixとVMwareの2社が市場の8割強を占めている状況にある。上位2社以外には、HPEやMicrosoft、NetApp、Cisco Systemsなどが挙げられるところだ。なお、利用しているハイパーバイザについては種類を問わない形で集計している。

2024年までの国内HCI市場の成長予測

 導入企業が増え、導入意欲も非常に高いHCIだが、市場成長率の実績と予測についても2020年6月に発表している。2019年の国内ハイパーコンバージドシステム市場の支出額は450億8300万円となり、前年比の成長率でみると40.4%と高い伸びを示している。1年で130億円近くも市場規模が拡大しており、HCIは国内において急速に普及している。

 2019年から2024年までの支出額で見た年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)に関して、2020年6月時点では11.2%と予測していたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響も考慮し、2020年9月には10.7%とやや下方修正した形で予測を更新し、2024年の支出額については750億3200万円に達すると予測している。

国内ハイパーコンバージドシステム市場予測:2019年〜2024年 図2:国内ハイパーコンバージドシステム市場予測:2019年〜2024年

 現時点では2020年1月から6月までの上半期の調査結果が明らかになっているが、2020年1月から3月にかけてはCOVID-19の影響がさほど出ておらず、予定通りにプロジェクトが進んだ企業が多かった。しかし2020年4月から6月に関しては、サーバ仮想化基盤の入れ替えといった単純な更新プロジェクトについて先延ばしや中止の判断を下した企業も少なくなく、予測よりも厳しい状況となった。

 一方で、セキュアなテレワーク環境を実現するVDIについては、当初よりも規模を拡張したり前倒ししたりするケースが増え、VDI基盤としても選択されやすいHCIにとっては追い風となった部分もある。それでも、サーバ仮想化基盤領域の落ち込みを相殺するまでには至らず、企業の決算状況の悪化も考慮し、6月時点よりも下方修正して予測を更新した。

 HCIの成長率予測が10%を超える日本に対して、海外ではどんな状況にあるのだろうか。

 もともとプライベートクラウド基盤として企業に導入されるHCIだけに、パブリッククラウド利用が進む米国ではHCIの市場予測は控えめだ。

 一方で、比較的オンプレミス志向の強い西ヨーロッパでは、米国に比べて高めの市場予測となった。日本も西ヨーロッパ同様にオンプレミス志向が強いため、新たなビジネスを始める際にパブリッククラウドのIaaS(Infrastructure as a Service)を選択するケースは当然あるものの、オンプレミスの業務基盤を全てパブリッククラウドに移行するという選択をする企業はまだ一部にとどまっている。オンプレミスにおける新たな基盤としてHCIが選択される機会は、海外に比べて多い傾向にあると考えられる。

HCIにまつわる業界動向

初期投資のネックを解消する従量課金型モデル

 今回の調査では、HCIの課題についてもヒアリングした。上位項目の一つが「初期投資が高い」だ。5年間でのTCOを見るとコストメリットが出やすいものの、初期導入の段階では決して安価なソリューションとはいえない。

 そこで最近では、従量課金型モデルでHCIを提供するサービスがベンダーから提案されており、初期投資のハードルを低減する環境も進みつつある。ただし、実際には従量課金型モデルでの契約が広く普及しているとは言い難い。現状では、HCIで稼働するワークロードが必要とするリソースをある程度予測できる企業が多く、リソースが急速に増減するような用途でない限り、リースなど従来から提供されているファイナンスプログラムのメリットを大きく上回らない状況にあるとみている。柔軟性が高ければ高いほど総支払金額は上昇する傾向にあるため、従量課金型モデルを採用する企業はさほど広がっていない状況にあるとみている。

伸びが期待できる「コンテナ」「エッジ」領域

 今後HCIを活用するシーンとして期待されているのは、1つは柔軟な拡張性が求められるコンテナ領域であり、もう1つが環境構築や運用管理の容易性が求められるエッジ領域だろう。

 コンテナに関しては、HCIベンダーがこぞってHCIソリューションのコンテナ対応を進めている。Nutanixでいえば「Nutanix Karbon」、VMwareでいえば「VMware Tanzu」などだ。現実にはまだコンテナが広く普及している状況ではないものの、HCIがそのインフラとして導入されることは十分に考えられる。

 エッジに関しては、エッジ環境にてある程度のデータを分析し、その結果のみをデータセンターやパブリッククラウドに送るという使い方が普及してくれば、容易な環境設定やリモートでの運用管理、そしてパブリッククラウド連携における柔軟性などがメリットとなり、エッジを動かす基盤の1つとしてHCIが選択される可能性は十分考えられる。すでにIoT向けのソリューションやPaaS機能をパッケージとして展開しているHCIも増えている点からも、今後期待される領域の1つだろう。

注目したいハードウェアオフロードの動き

 Software-DefinedアーキテクチャがベースとなるHCIだけに、セキュリティ機能やコンプライアンスに関連した機能強化なども含め、インフラ全てを統合的に管理できる環境づくりを積極的に行うベンダーは多い。一方で、x86アーキテクチャがベースとなっているハードウェアに関しては、ベンダーごとの特徴が出しにくい状況にあり、一部にAMDのCPUを搭載したものやGPUを搭載したモデルも登場しているものの、大きなトレンドにはなっていない。

 このようにソフトウェア強化の方向性が強いHCIだが、2020年9月にVMwareが開催した年次イベントにて、新たなプロジェクト「Project Monterey」が発表された。これは、汎用演算能力を備えるSmartNICを提供するベンダーなどと協力し、VMware ESXiの一部や、vSANやNSXなどの処理をSmartNICにオフロードするものであり、アプリケーションのパフォーマンスを向上し、セキュリティの強化、物理サーバーと仮想化サーバーの統合管理などが可能になるものだ。「Software-Defined」に関連する処理をCPU以外のコンポーネントにオフロードするというアプローチについては、Software-Definedによる柔軟性や管理性の向上といったメリットをより多くのインフラにもたらす動きであり、今後の動向を注視したい。

HCI選びの勘所

 これからHCIを選択する際に、どんな視点で見ておく必要があるのだろうか。念頭に置きたいのは、初期費用だけでなくTCOできちんとHCIが評価できるかどうかだ。初期費用だけで見ると既存環境よりも負担が大きくなる場合もあるが、運用管理の効率化によるTCOの削減効果をしっかりと見極めておくことが必要になる。そして、単に運用を効率化するだけでなく、安定的に運用できるかどうかも重要なポイントとなってくるため、提供ベンダーのHCIの構築ノウハウやサポート運用体制についても十分に検討したいところだろう。また、プライベートクラウド環境の基盤としてHCIを利用するだけでなく、パブリッククラウドとの連携性も十分に確認しておきたい。ベンダーが提示するロードマップも含め、パブリッククラウドとの連携を通じたハイブリッドクラウド環境での利用も視野に、HCI選定を行うべきだ。

 なお、ハイブリッドクラウドの具体的な用途については、現時点ではDRやバックアップ、アーカイブとしての利用が多い。今後は、パブリッククラウドの新技術を柔軟に活用してオンプレミスと連携したり、アプリケーションごとに柔軟に使い分けたりといった用途で、パブリッククラウド連携がさらに進んでいくことになるとみている。

 VMware Cloud on AWSやNutanix Clusters on AWSなど、パブリッククラウドのIaaS上でHCIに関するソフトウェアスタックが稼働するものも登場している。これらのソリューションが普及してくれば、HCIを中心としたハイブリッドクラウド環境での運用もより現実味を帯びてくることになるだろう。

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