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株式実務のプロが語る、判例から学ぶオンラインでの「株主総会」におけるリスク

コロナ禍中の決算期が近づいている。2020年3月には発表を延期した企業やオンライン化した企業など、対応が分かれた。2021年3月はどのように対応するべきで、その際は何に気をつけるべきなのか。過去の判例から探る。

» 2021年02月19日 07時00分 公開
[BUSINESS LAWYERS]

 2020年3月はコロナ禍による緊急事態宣言下において、決算発表や株主総会の延期が相次いだ。一部の企業がオンラインシフトを実現したが、2021年3月にも同様の事態が起きようとしている。

 一度オンライン化できた企業は2021年も同様の対応ができると思われるが、当時は許容したリスクを見直すべきではないだろうか。

 また、2020年にオンライン化を見送った企業は、1年出遅れた形になる。決算発表や株主総会をバーチャルイベントとして開催する場合、法的にはどのような点に気をつけるべきか。オフラインの株主総会における判例が参考になるはずだ。

サマリー:事案の概要、本決定の要旨、本決定の意義

  • 本人確認・代理出席(札幌高判令和元年7月12日・金融・商事判例1598号30頁)
  • 質問数の制限・質疑打ち切り(名古屋地判平成5年9月30日・資料版商事法務116号187頁)
  • カメラ持ち込み禁止(東京地決平成20年6月25日・判例時報2024号45頁)

今一度押さえておきたい株主総会運営上の裁判例

本記事は2021年1月22日のBUSINESS LAWYERS「今一度押さえておきたい株主総会運営上の裁判例」をキーマンズネット編集部が一部編集の上、転載したものです。

 バーチャル株主総会やコロナ禍株主総会への対応等の検討にあたり、リアル株主総会における運営上の原則や最近の裁判例等を確認することが重要と考えられます。そこで、本稿では、運営上の論点(本人確認・代理出席、質問数の制限・質疑打ち切り、カメラ持ち込み禁止)において参考となる裁判例について、以下のとおりご紹介いたします。

本人確認・代理出席(札幌高判令和元年7月12日・金融・商事判例1598号30頁)

事案の概要

 Y(株式会社)の株主であるX1(株式会社)の代表者は、Yの株主総会の受付の際、X1の代表者印を押印した議決権行使書兼出席票を示したが、Y代表者は、X1の代表者印の印影として届け出られていたものと印影とが一致しないことを理由に、X1代表者が、本件株主総会に出席することを認めなかった。

 Yの株主であるX2(株式会社)から議決権行使の委任を受けたA弁護士は、本件株主総会の受付の際、X2に送付された議決権行使書兼出席票、X2の当時の代表者印の印影が顕出された委任状、同社の商業登記簿謄本および同社の印鑑証明書を示したが、Y代表者は、X2の代表者印の届出印と、本件委任状に顕出された印影とが一致しないことを理由に、A弁護士が、本件株主総会に出席することを認めなかった。

 Yの定款18条には「株主は当会社の議決権を有する出席株主1名を代理人として議決権を行使することができる。この場合に株主又は代理人は、株主総会ごとに代理権を証明する書面を当会社に提出しなければならない。」との規定がある。

 X1およびX2は、Yの株主総会における決議はX1およびX2の出席を拒絶した上でされたものであり、その方法が法令に違反し、または著しく不公正なものであるとして、会社法831条1項1号に基づき、同決議の取り消し等を求めた。

本判決の判旨

ア 本人確認の方法

 「出頭者と株主との同一性確認の方法は法定されているわけではなく、議決権行使書等による確認の方法は飽くまで事務の効率化の観点からの1つの手段にすぎず、株主権の重要性に鑑みれば、議決権行使書の提示以外の方法により株主本人であることを立証したにもかかわらず、株主総会への入場を拒絶した場合には、不当な出席の拒絶になり得る」

 「本件において、Y代表者はX1代表者と面識を有しており、本件株主総会に出頭してきたX1代表者が、Yの株主として議決権行使をし得る立場にあることが明らかに認められる状況であった」。加えて、「Yは、書面による議決権行使では問題視していない届出印の印影と議決権行使書兼出席票に顕出されている印影の不一致を理由にX1代表者の株主総会への入場を拒絶したというのであるから、決議方法に法令違反があったといわざるを得ない」

イ 代理行使

 株主が議決権を代理行使させることができる者を株主に限定する定款の定めは、「株主総会が株主以外の第三者により攪乱されるのを防止し、株式会社の利益を保護しようとする趣旨に出たものと認められ、合理的な理由による相当程度の制限として有効である(最二判昭和43・11・1民集22巻12号2402頁参照)」

 しかし、「議決権行使の重要性に鑑みると、本件のように代理人が弁護士である等株主以外の第三者により攪乱されるおそれが全くないような場合であって、株主総会入場の際にそれが容易に判断できるときであれば、株式会社の負担も大きくなく、株主ではない代理人による議決権行使を許さない理由はない」

 本件において、Yは、届出印の印影と本件委任状に顕出されている印影の不一致を理由にX2の代理人であるA弁護士の株主総会への入場を拒絶したというのであるから、決議方法に法令違反があった

本判決の意義

 ア 本人確認の方法

 会社法では、株主の本人確認の方法について特に定めがないことから、実務上は、株主総会招集通知に際して株主に提供された議決権行使書用紙や出席票などを提示させることによって、本人確認することが一般的です。本判決は、議決権行使書の提示以外の方法により株主本人であることを立証した場合、または、その者が株主であることを会社が知っている場合に、出席を拒否できないことを明らかにしました。

 イ 代理行使

 議決権行使の代理人たる資格を株主に限るとする定款の規定の効力について、本判決でも引用している最二判昭和43・11・1民集22巻12号2402頁は、「株主総会が、株主以外の第三者によって攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨にでたものと認められ、合理的な理由による相当程度の制限ということができる」と判示しています。また、従来、代理人である弁護士に対する出席拒否を違法とする裁判例(神戸地尼崎支判平成12・3・28・判例タイムズ1028号288頁)はまれでありました。

 しかし、本判決により、例えば、株主提案等を行ったアクティビスト株主が、株主提案等の際に代理人を務めた非株主の代理人を株主総会に出席させることを事前に通知した場合、会社が当該弁護士の出席を拒絶すると決議取消事由に該当する可能性も否定できないため、会社としては出席拒絶の可否を慎重に検討する必要があるとの見解もあり、このような場合は留意が必要とされています(旬刊商事法務2244号63頁)。なお、本事案では、Y代表者はA弁護士と面識を有している等の個別事情もあり、当該事情も踏まえて本判決の意義を考える必要があると考えられます。

質問数の制限・質疑打ち切り(名古屋地判平成5年9月30日・資料版商事法務116号187頁)

事案の概要

 Yの株主であるXは、Yの定時株主総会に先立ち事前質問状を提出した。総会当日、Yは、約1時間にわたって事前質問状に一括して回答した。

 一括回答終了後に質疑応答がされ、複数の株主が質問するために挙手したところ、議長は、1人1問・1項目の質問に制限して発言を求めた。

 質疑応答が約50分間にわたって行われ、なおも多数の株主が質問を求める意思表示をしていたが、議長は、株主からの質疑打ち切りの動議に基づき質疑を打ち切った。

 Xは「質問事項を制限した行為が説明義務に反する」「まだ質問を求める株主がいるのに質疑を打ち切った点」が説明義務に違反する等を理由に、株主総会決議の取り消しを求めた。

本判決の要旨

 ア 質問数の事前制限について

 「株主総会の議長は総会における議事整理権を有するものであるところ・・・本件総会では非常に多数の株主が質問の機会を求めていたことが認められるのであるから、そのような場合にはできるだけ多数の株主に質問をなす機会を保障する必要があり、議長が合理的な範囲内と認められる質問数等の制限を質問者に課することは、議事の整理としてむしろ適切であるというべき」

 イ 質疑の打ち切りについて

 「議長は、平均的な株主が客観的にみて会議の目的事項を理解し、合理的に判断することができる状況にあると判断したときは、まだ質問等を求める者がいても、そこで質疑を打ち切って議事進行を図ることができるものと解される」

 本件において、「約50分間にわたってなされた討議内容からみて、議長が質疑を打ち切った措置が不当であるとは認められない」

本判決の意義

 質問数の事前制限について、検討される会社も多いものと思われます(2020年度全株懇調査書24頁によれば、株主総会において質問があった会社のうち、質問時間を制限した会社は1.9%、質問数を制限した会社は54.9%、両方を制限した会社は8.1%)。本判決では、多数の株主が質問の機会を求めている場合、できるだけ多数の株主に質問の機会を保障する必要があり、議長が合理的な範囲内と認められる質問数の制限を課すことは議事の整理として適切としており、質問数の制限を検討するにあたり参考になるものと思われます。

 本判決では、質疑の打ち切りについて、討議内容や経過時間を踏まえて検討しており、打ち切り時の考慮要素の一つとして参考になるものと思われます。

カメラ持ち込み禁止(東京地決平成20年6月25日・判例時報2024号45頁)

事案の概要

 X社の株主Yらは、従前開催されたX社の株主総会において、マイクやスピーカーを用いて不規則発言を行い、株主総会の混乱状況等をビデオカメラで撮影し、ホームページに掲載した。

 X社は、Yらに対して、開催が予定されていた株主総会へのビデオカメラ等の持ち込み禁止の仮処分を申し立てた。

本決定の要旨

 「一部の株主がビデオカメラ等で株主総会における議事の状況を撮影する行為は、他の株主が有する議決権やその前提となる質疑討論を行う機会を侵害するものであり、かつ、株式会社にとって、株主総会の場でそのような株主の権利等を侵害する行為がなされるということ自体が、信用毀損その他の著しい損害に当たるといわなければならない。」として、ビデオカメラ・カメラ等の持ち込み禁止の仮処分を認めた。

本決定の意義

 株主が株主総会の議事の状況を無断で録音・録画して、SNS等にアップロードしてインターネット上に公開する場合等も考えられ、本決定はそれらの場合等の対応を検討するにあたり参考となるものと思われます。

問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行 法人コンサルティング部会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室

03-3212-1211(代表)

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