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入れて分かった「Microsoft 365」導入における7つの“つまずき”ポイント

VTVジャパンは組織内に乱立していたメール、チャット、掲示板などのツールをMicrosoft 365に統合することを考えた。単にツールだけでなく、導入、運用設計など考えることは多い。実際に入れて分かった7つの注意ポイントを解説する。

» 2021年04月02日 07時00分 公開
[小山新吾VTVジャパン]

 私が勤めるVTVジャパンでは、ビジネス的な観点からさまざまなコラボレーションツールを併用してきましたが、メールやチャットなどのコラボレーション基盤を「Microsoft 365」へ移行しました。今回は、当社でのMicrosoft 365への移行の経緯やプロセス、活用状況などを振り返りながら、Microsoft 365導入における注意点について解説します。

著者プロフィール:小山新吾(VTVジャパン 経営企画室 営業企画チーム)

2005年5月にVTVジャパンに入社。現在大阪オフィスで勤務。営業職を経て、2013年に営業企画チームに配属。メールマガジン「VTVジャパンメールニュース」の編集長として、オンライン会議やビデオ会議、Web会議、周辺機器など、ビジュアルコミュニケーションにまつわる最新情報やリアルな現状を毎月1回配信中。


Microsoft 365への移行、起点は、部署、部門でのツールの乱立

 われわれVTVジャパンがMicrosoft 365へ移行しようと考えた目的は、業務ツールとして定着しているMicrosoft 365へ統合することで、知見やノウハウを社内に蓄積し、ビジネスに生かすことが目的の一つでした。

 これまでは、企業ごとに最適なコラボレーション環境を提供するという当社のビジネスの視点から、社内でさまざまなツールを併用しながら業務を進めてきました。スケジューラーについては「サイボウズ Office」を、メールは「Mozilla Thunderbird」、チャットツールには「Skype for Business」、掲示板は自社構築の社内SNSといった環境です。しかし、チャットツールの利用においては部署によって個別最適化されており、マーケティング部門では「Cisco Webex Teams」を活用するなどツールが組織に乱立した状況でした。当社はさまざまなベンダーのソリューションを扱っていることから、複数のツールをあえて併用していたのです。

 当然ですが、複数のツールを利用することで運用管理が煩雑になってしまうだけでなく、どのツールに何の情報があるのかが明確でなく、そうした現状把握も属人化してしまう傾向にありました。そのため、部署をまたがったやりとりがうまくいかず、わざわざ席に尋ねていくという状況も散見されていたのです。この状況を変えようと、Microsoft 365を導入して基盤を共通化し、ルールの徹底や情報ガバナンスの強化を図っていくことを目指しました。もちろん、ツールを併用することによって膨らんでいたライセンスコストの圧縮も期待された効果の一つです。

 まずは、「Microsoft Exchange Online」をメールサーバーとし、スケジュール及び会議室や備品管理などは「Microsoft Outlook」と連携させ、各クライアントPCから共有できる環境を構築しました。チャットやオンラインでの打ち合わせは「Microsoft Teams」を利用することにしました。ライセンス契約プランは「Microsoft 365 Business Standard」です。

 Microsoft365に統合したことで、他部署を含めたチャットや簡単なミーティングがMicrosoft Teamsによって容易になり、利用頻度は高まっています。導入当初はチャットやビデオ会議の実施件数は数十件程度でしたが、導入後3か月後ではチャットは5万メッセージを超え、Microsoft Teamsでのビデオ通話および会議は300件ほどにまで利用が拡大しました。営業チームでは情報共有のスレッドがMicrosoft Teamsに立ち上がり、掲示板よりもライトな情報共有が活発に交わされています。皆の前では聞きにくいちょっとした質問でも、チャットを通じてと気軽にやりとりができるようになったのも効果の一つです。

入れて分かったMicrosoft 365の導入における7つの注意点

 Microsoft 365の導入を経験したことで、新たな気付きも得られました。Microsoft 365を基にした、企業におけるコラボレーション環境づくりにおける7つの注意点を紹介します。

1.ライセンス調達先の支援内容を確認

 Microsoft 365 の利用には、まずライセンス調達先の選定が重要になります。Microsoft 365は単にラインセンスを購入すれば簡単に使えるというわけではなく、ソリューション全体を俯瞰(ふかん)できる、体系立てた知識が必要です。社内にそうした知識を持つ担当者がいなければ、Microsoftのパートナー(CSP:クラウドソリューションプロバイダーとも呼ばれる)企業に支援を仰ぐのも一つの手でしょう。

 MicrosoftのWebサイトから地域や企業規模、サービス種類などを軸にCSPが検索できます。Microsoft 365を扱う認定代理店は無数にあり、そこから自社にとって最適なパートナーを探し出すのは難しくもあり、面倒です。しかも、支援内容や料金はパートナーが設定しているもので、支援範囲も費用もまちまちなのが実態です。

 パートナー選びには、自社が求める支援や描いている運用像を明確にした上で、何がどの程度の費用で可能なのかを判断する必要があります。また、当然、現在の環境からの移行も意識しながら、最良なパートナーを選択していくべきだと考えます。

2.セキュリティ面や将来的な拡張性も考慮する

 Microsoft 365の導入設計における重要点の一つとして、セキュリティ対策が挙げられます。Microsoft 365を購入するだけでは、必ずしも自社にマッチしたセキュリティ設計が可能になるというわけではなりません。契約ライセンスに含まれるセキュリティ機能とともに、外部から必要な機能を調達するケースもあり、そうした観点でもパートナーの支援は必要になるでしょう。セキュリティ面も考慮しなければならない理由は、共通業務ツールとしてMicrosoft 365に集約することで管理面や情報ガバナンス面でメリットがある一方で、Microsoft 365のアカウントが漏えいした場合のリスクが高まるためです。

 当社では、多要素認証を取り入れたセキュリティソリューションを導入しました。ID/Pass(知識情報)やデバイス証明書(所持情報)を利用した多要素認証、そして特定のネットワーク経由でしかMicrosoft 365のテナントにアクセスできないように制限しました。求めるセキュリティ環境が実現可能かどうかをしっかりと見極めましょう。

 また、既存環境からのスムーズな移行が可能かどうかといった点も重視したポイントの一つです。ドメインも含めたメール環境の移行には、正副の環境ではなく特定のタイミングに一気に切り替える必要があり、業務に支障を与えることなく安全に移行できるかどうかが重要です。

 さらに、将来的なクラウドサービス活用のためのマイグレーションプロセスが描けるかどうかも重視しました。現状のライセンスでは「Microsoft Azure Active Directory」(Azure AD)がフリープランとして含まれており、SAML認証によるSSO(Single Sign On:シングルサインオン)環境を整備することは可能です。ただし、オンプレミスの業務アプリケーションやSaaS(Software as a Service)などへのSSOが将来的に必要になるのであれば、使い勝手を高めるためのSSO環境を構築できるかどうかも考慮する必要があります。

3.機能単位ではなく、Microsoft 365全体を理解すること

 Microsoft 365を業務ツールの中心とするには、単体の機能はもちろん、Microsoft 365全体の理解が求められます。Microsoftが公開している情報を参照するにしてもその量は膨大で、最低限の知識を理解するだけでも時間を要します。

 グループウェア単体で可能だった設備予約の機能は、Exchange Onlineで会議室のマスターを作成し、その情報をMicrosoft Outlookに引っ張ってくるといった連携が必要になりますし、メールサーバーとして利用するExchange Onlineだけに、サーバアドレスや送受信ポート、DNS設定など、メールサーバーそのものの知識も求められます。「Microsoft OneDrive」を利用すればファイル共有も実質的には可能ですが、外部とどのように情報共有するのかなど、セキュリティの視点から運用設計が必要です。いずれにせよ、Microsoft 365のノウハウを十分に会得していかなければいけません。

4.クラウドサービスならではのデメリットも考慮に入れる

 当社では、これまでコラボレーション基盤として個別のパッケージ製品を利用してきましたが、Microsoft 365はグローバルなパブリッククラウドサービスとして、企業が共用で利用するシェアサービスです。それゆえ、以前のように“痒い所に手が届く”サービス品質が十分に得られないケースがあるのも念頭に置いておかなければなりません。

 具体的なエピソードとして、当社でMicrosoft 365の導入初日に従業員から「メールの送受信が遅延しているのでは」という問い合わせが入りました。初日はメールの設定情報などがExchange Onlineに反映されるタイミングだっただけでなく、既に入力済みのサイボウズ Officeのスケジュール情報をExchange Onlineに転記する従業員が殺到しました。その結果、当社が持つテナントのExchange Onlineの負荷が高くなったことが要因の一つとして考えられます。

 ただし、まだ具体的な原因究明には至っていません。実際にMicrosoftのサポートへ問い合わせてみたものの、Exchange Onlineではメール配送の遅延が発生していないことから、詳細な回答まではもらうことができませんでした。もちろん、ログ解析も含めて原因特定の手段はあるはずですが、多くのユーザーが利用するグローバルなサービスだけに、個別に導入してきたオンプレミスの製品同様のサービス品質が維持できないケースもあります。これはMicrosoft 365に限った話ではありませんが、クラウドサービスにおいて、トラブル発生時に自社でできることはなく、復旧を待つしかありません。オンプレミスのシステムならすぐに技術者が対応することで復旧までの時間を短縮することも可能ですが、クラウドサービスではそれができないため、サービス提供側の対応に依存してしまうことになります。

 コラボレーションでツールであるがゆえに、業務への影響も大きなものになりかねないため、トラブル発生時の代替手段も検討しておきましょう。

5.従業員が問題なく利用できる仕組み作りを考える

 ツールを変えると、いかに現場に負担を与えない形で利用できるかという環境づくりは重要です。Microsoft 365の場合、特に大きく変わるのはスケジュール管理の部分で、レイアウトが大きく異なるため、ある程度の支障を覚悟して運用側でも検討を重ねました。既にMicrosoft 365 を利用しているユーザー企業にヒアリングしたところ、最終的には現場に慣れてもらうしかないのが実情のようです。

 例えば、会議予約の方法が分からないといった声が当初現場から寄せられましたが、ツールの仕様変更が難しい部分もあるため、時間をかけて慣れてもらったのが正直なところです。

 また多要素認証を取り入れたことで、クライアント側に今まで表示されていなかったデバイス認証の画面が表示されるなど、認証手順も従来とは異なる部分がありました。その違いをしっかりと理解してもらうよう、ドキュメントを用意して、説明会も開催しました。

 また勉強会で、事前に決めたルールに関する情報も周知徹底しています。クラウドサービスを業務基盤の中心に据えるため、社内外での情報共有の区分けやどんな情報をどのツールに乗せていくのかといったルールをしっかりと徹底させることが必要です。幸いにして、当社はコラボレーション環境をビジネスとして提供しているため、従業員はITツールに対する抵抗感がない点は大きなアドバンテージでした。

6.ライセンス費用だけでなく導入支援にかかるコストにも目を向ける

 既存環境にもよりますが、Microsoft 365の導入についてはネットワーク設計の見直しやセキュリティ対策の強化、そして効率的な運用設計が重要になります。当社のビジネス上、この移行に関する知見を獲得することも目的の一つとしてあっただけに、パートナーからの支援も受けながら、基本設計から日々の運用までを当社で行っています。

 外部のパートナーに設計から運用までをお願いした場合、日常的なメンテナンスも含めて委託すると、企業規模にもよりますが、従業員数が数百人以上の場合は数千万円規模の費用が発生します。

 当社のような中小規模の企業の場合は、社内に適切な人材を確保し、ある程度は自前で運用するのが現実的ではないでしょうか。大企業の場合は、Microsoft 365の立ち上げからパートナーを参画させるケースもあれば、サードパーティのベンダーをスポットで契約する、常駐しているパートナーに設計から移行、運用までを委託するなど、さまざまなパターンがあります。いずれにせよ、Microsoft 365の移行に伴う運用設計などには、費用がそれなりに発生することを認識しておいた方がいいでしょう。

7.導入後の管理担当者の適正配置

 実際にMicrosoft 365を運用してみると、現実的に担当者1人で全てを管理するのは難しいことが分かりました。これまではスケジューラーとメール、Web会議ツールなど、それぞれが異なるツールだったこともあり、それぞれの担当者が個別に管理していました。コラボレーション環境をMicrosoft 365に統合しても、有機的に連携させるものの機能そのものはバラバラであり、1人で管理するには範囲が広すぎるのが現実です。特にメンテナンスやセキュリティ上の観点から、全体管理者(=グローバル管理者)を最低2〜3人は配置することが必要になってくることが経験則から見えてきました。

 また、情報管理という意味でも、限定された1人のメンバーが特権的に運用できてしまうと、当然ながらリスクも発生します。特に、Microsoft 365は統合化された機能を提供するだけに、機微なメールや機密ファイルも含め、さまざまな情報がMicrosoft 365でやりとりされるため、情報ガバナンスの観点からも日常的な情報管理を1人のメンバーにゆだねることは避けるべきです。

 当社ではMicrosoft 365の運用を始めたばかりで、今後はツールの運用管理の効率化だけにとどまらず、ここ最近のトレンドであるDX(デジタルトランスフォーメーション)も進めていくことが重要だと考えています。社外とのコラボレーションをどのように行っていくのかなど、情報セキュリティの観点を踏まえてしっかりと検討していく段階にあります。

 今まさに当社も、多くの企業が直面している課題に取り組んでいるところです。このプロジェクトで得た知見や経験は、多くの企業にノウハウとして還元できるでしょう。

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