在宅勤務が増え、プリント回りの環境に課題を感じることはないだろうか。プリントのためだけにオフィスに出社した経験がある読者もいるだろう。IDC Japanが企業の実態を明らかにした。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって、従業員の働く場所はオフィスから自宅などのリモート環境へと移行した。企業は、ICTを活用し自宅でもオフィスと同じように働けるよう環境を整備してきたが、いまだに課題は残る。その一つが、紙のプリントだ。
IDC Japanは4月2日、「2021年国内オフィスプリント環境調査:COVID-19がプリントに与える影響」と題したレポートを発表した。2020年10月に18〜75歳の企業で働く正社員600人に向けて実施したWebアンケートの調査結果をまとめた同レポートは、在宅勤務における従業員のプリント回りの不満を明らかにした。具体的にどのような不満が寄せられたのか、企業の実態をまとめる。
レポートはまず、企業の在宅勤務状況を明らかにした。これによれば、従業員が自宅で勤務する時間の割合は、COVID-19の影響が出る前の2019年が平均で7.2%、2020年5月の第1回緊急事態宣言中が49.5%、2020年の10月が35.6%と推移している。
IDC Japanでイメージング、プリンティング&ドキュメントソリューションのアナリストを務める石田英次氏は「いったん増えた在宅勤務がゼロになることはない」として勤務形態の変化を示唆する図2、図3の調査結果についても解説した。
図2においては、「今後企業は勤務形態を変えていくべきか」という質問に対し、44.4%の回答者が「非常に/ある程度同意できる」と答えており、図3においては「COVID-19の収束後、働き方や勤務形態はどうあるべきか」という質問において、「在宅勤務を基本とし、必要に応じて出社」と「オフィス出社を基本とし、必要に応じて在宅勤務」という回答が同率2位のスコアを示した。
注:図3の設問は、非常に同意できる=5、ある程度同意できる=4、どちらともいえない=3、あまり同意できない=2、全く同意できない=1としてスコアを算出
石田氏はこの結果を受け「在宅では仕事が成り立たないという回答も寄せられ、勤務形態の変化に壁があることは事実だが、今後は働く場所として在宅やサテライトオフィス、その他のリモート環境の組み合わせた『ワークスペースのハイブリッド化』が進むだろう」と結論付けている。
在宅勤務が増え、ワークスペースのハイブリッド化で浮上するのが、プリントにまつわる課題だ。
同調査において、在宅勤務の課題を聞いた質問では「仕事とプライベートとの切り分けが難しい」(29%)、「リモート環境維持のために個人的な経費がかかる」(26%)に続き、「プリントできない/プリント環境の性能が低い」(19%)という回答が上位に挙がった(図4)。
プリント環境について、「業務で使用するプリンタがある/自宅に複合機を持っている」とした回答者は47%だが、石田氏によればそのほとんどが家庭のプリンタを業務で使用しているケースで、企業からプリンタが支給されることはまれだ。
個人のプリント機器を所有している対象者のうち「会社からプリントが正式に許可されている」と答えた割合は42%と過半数を下回り、その他は「プリントが厳密に禁止されているわけではないが、曖昧な認識のままプリントしている」状況だという(図5)。
またインクや紙などの「消耗品の費用が会社から全て支給される」と答えた企業は11%にとどまり、不満の声が寄せられた。
「在宅勤務におけるプリントを企業が正式に認めておらず、費用の負担もない環境において、家庭のプリント機器でプリントをせざるを得ないユーザーが存在する状況だ」と石田氏は懸念を示した。
IDC Japanの調査によって、自宅におけるプリント環境に課題があることが分かったが、COVID-19を背景とした半ば強制的なICT活用の推進に伴い、紙のプリントは減らないのだろうか。
同レポートは「緊急事態宣言発令期間中、在宅勤務をしているにもかかわらず、プリントするためにオフィスに出社したことがあるか」という質問に対し、「頻繁にあった」(15.9%)、「時々あった」(12.6%)、「まれにあった」(12.1%)と、約4割の企業が宣言中にプリントのためにオフィスに出社しなければならなかったことを示している(図6)。
出社してまでプリントが必要な文書としては「経理書類」(33.7%)、「会議資料」(32.6%)、「提案書類」(29.2%)、「契約書」(28.1%)が順に上がった。
ちなみに、業務で紙を利用する理由としては、「書き込んだり修正したりすることが簡単」(29.7%)、「ディスプレイが小さくて見にくい」(19.2%)、「情報が自分の記憶に残る(17.6%)、「電池や電源が不要」(14.9%)といった回答が上がったと説明する。
石田氏は「新型コロナウイルスの拡大と在宅勤務の増加に伴って、エンドユーザーのプリントに対する意識が大きく変化したわけではなく、業務でのプリントの利用は継続する。ハイブリッドなワークスぺースにおいて、従業員のプリント機器へのアクセスをどう設計するかが課題だ」と締めくくった。
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