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文書管理ツールの利用状況(2021年)/後編

文書管理に関するさまざまな声から、企業規模別に共通する課題点が見えた。複数企業の例から、課題解決のヒントを探る。

» 2021年07月08日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 キーマンズネットは2021年6月7日〜18日にわたり「文書管理ツールの導入状況」に関するアンケートを実施した。全回答者数140名のうち、情報システム部門が28.6%、製造・生産部門が23.6%、営業/営業企画・販売/販売促進部門が10.8%、経営者・経営企画部門が10.0%などと続く内訳であった。

 後編では、文書管理や文書管理ツールにおける課題を企業規模別に分類した。アンケートの声から得られるケーススタディは“中小企業”から“大企業”まで従業員規模別に分類し、文書管理を取り巻く課題を見ていくことで、規模ごとの傾向について分析を行った。なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。

 前編では、2017年に実施した前回調査と比べて導入率が緩やかに増加傾向にあることと、企業における文書データの活用意識の高まりを紹介した。一方、運用面を中心に現場からは不満も多く挙がり、文書管理ツールに求められる期待役割が発揮しきれていないという課題も見えてきた。そこで後編では寄せられたケーススタディを参考に、従業員規模別に文書管理を取り巻く課題について傾向を見ていきたい。

大企業は導入と利活用が広がる、一方で「ついていけない」現場も

 従業員数が1001人以上の大企業は、文書管理ツールの導入率が最も高かった。導入目的は「業務効率化」や「ペーパーレス化による管理コストの削減」といった一般的なものに加えて「内部統制」や「ISOの取得や維持」といったに関する目的を挙げる声が他規模帯に比べて多い傾向にあった。これらの企業は中小規模の企業よりも社会的責任が大きいため、より品質マネジメントやセキュリティリスクに対応するための活用が進んでいる。一方、課題としては以下のようなコメントが寄せられた。

  • 人によって文書データの保存先が違う
  • どのファイルが最新なのか分からない
  • ファイル名やフォルダの命名ルールを決めていないため、探しづらい

 これらの声は、特に文書を「ファイルサーバで保存/共有している」回答者から寄せられたものに目立った(図1)。文書管理ツールを導入していても、実態としての業務で活用していないケースがあり、管理ルールの不徹底によって現場が混乱している様子が分かる。

(図1)文書の取り扱い方法

 文書管理ツールとファイルサーバを併用すると、管理ルールの徹底が難しくなる。ルールと実態が整合せずに現場が混乱するような事態も起きやすくなるだろう。さらに以下の意見からは、既存の業務との連携がうまくできず、ワークフローが非効率的になっている状況も見えた。

  • 文書管理ツールが他のシステムのワークフロー機能として連携できない
  • 必要なハードウェアも人的リソースも考慮されずに「ペーパーレス化」だけを指示されて、現場の負荷だけが高まっている
  • 決裁書類の電子印が遅く、紙の場合とあまり変わらない

 これらの課題に一歩先んじた意見がある。「ローカルストレージでの保存が禁じられる文書の範囲が拡大した。現在は実質的に、ほとんどの文書がローカル保存できない」という声だ。ローカル保存の禁止は、データの散逸やセキュリティリスクの抑制に効果がある。文書管理ツールとファイルサーバ、ローカルストレージにデータが散らばっている企業のヒントになるかもしれない。

「余計な手間が増えた」中堅企業の悩み

 従業員規模501〜1000人の中堅企業群は、ツール導入率はそこまで高くはないものの導入検討割合が高い。

 導入目的は大企業と同様に「業務効率化」と「ペーパーレス化」が高かったが、特に「バージョン管理」と回答する割合が比較的高かった。事業規模の拡大に伴って扱うプロジェクトの数や規模も増大するフェーズにあり、中小企業よりも厳密な文書管理が必要になる中で、文書管理ツールを活用したいニーズが高まっている。設計図やマニュアル、手順書、案件に紐づく契約書や見積書、社員管理のための社内規定などを対象に、更新管理の重要性が増していることが推察される。

 これらの規模の企業で目立つ課題としては、以下のような声があった。

  • 文書登録のための手間が増えた
  • 登録方法に制限がある
  • ツールが使いにくい

 新しい管理体制やそのためのツールに現場が慣れていない様子が見えるが、選択肢や予算が限られる中で適切なツールが選定できていない可能性もある。

 ただし、ここでツールによる文書管理を諦めては、業務の効率化を足止めしてしまう。コメントの中には「承認、査閲ができるツールが必要」との声もあり、システム連携による業務の自動化や、その先のデータ活用を見据える様子もあった。社内ナレッジの活用や社内外での文書検索、データ活用など、メリットを感じるシーンが増えれば見方が変わるかもしれない。

取引先に振り回される、中小企業の課題

 従業員数が500名以下の中小企業は、ツール導入率が最も低かった。導入目的で多かったのは「ペーパーレス化」と「社内・社外で電子文書のやりとりが増えたため」で、取引先や関連企業のデジタル化に合わせて対応に踏み切るケースが目立つ。課題としては以下のような声が寄せられた。

  • 法律に従い昔の会計情報を紙で保存しているため、移行に時間が掛かる
  • 商習慣として紙で取引する業界なので、なかなか電子化が進まない
  • 電子化したいが取引先の見積書や注文書、請求書などが紙ベースのまま

 中小企業は、どうしても取引先企業に合わせたビジネス形態を取る。そのため商習慣からの脱却が難しく、完全なデータ管理に移行しづらいという悩みがあるようだ。

 一方、コロナ禍に伴う変化では、身軽に動ける点が強みとなった様子もある。直近1〜2年間での変化を聞くと「クラウド移行によって文書を探すことが楽になった」や「VPNを導入して社外からファイル共有サーバへアクセスできるようにした」など、デジタル化の一歩を踏み出した声も挙がった。

文書データの活用意識高まる、今後も

 後編では、課題感として寄せられたコメントを基に企業規模ごとのケーススタディを試みた。2017年に実施した前回調査では「なかなか経営層に費用対効果を提案できない」という声が目立ったが、今回の調査では一変している。コロナ禍やビジネスのデジタル化によって業務効率化やペーパーレス化、内部統制、リスク管理など、さまざまな面から文書データを管理し、活用したいという意識が高まっているのが分かる。企業規模それぞれで環境構築や運用体制に課題があり、各企業が「自社に合った文書データの管理や活用の在り方」を検討している様子が見えた。

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