メディア

2021年、データセンター管理者の本音とは?

昨今のデータセンター投資動向はどのような変化があるのか。実際にデータセンター管理者に行ったアンケートを基に、その動向を探っていく。

» 2021年08月25日 12時00分 公開
[伊藤未明IDC Japan]

アナリストプロフィール

伊藤 未明(Mimei Ito):IDC Japan ITサービス リサーチマネージャー

データセンターに関連する調査を担当。国内データセンターサービス市場の他、データセンターファシリティ(建築物、電気設備、空調設備など)市場、データセンター投資動向、データセンターサービス事業者のビジネス動向などさまざまな調査を実施。ユーザー企業向けセミナーなどでの講演経験多数。


データセンター新設の動きは堅調

 IDCは、国内のデータセンター管理者に対して、建物や電気設備、冷却設備、機械設備など主にデータセンターファシリティに関する投資やその運用課題などに関するアンケートを実施している。

 2021年についてもアンケート調査を実施しており、その結果を紹介したい。なお、回答者は一般企業が所有する企業内データセンターの管理者と、ITサービス事業者や通信サービス事業者が所有する事業者データセンターの管理者で、回答者の割合は6対1で一般企業の管理者が多くを占める。

 今回の調査でデータセンターやサーバルームの新設予定があると回答したのは、事業者データセンターでは40%ほど、一般企業では11%程度にとどまっていることが明らかになった。これは、多くの企業のIT資産がクラウドサービスに移行しつつあるなかで、企業内データセンターを新設する傾向は弱くなっており、一方クラウドサービスの提供に必要な事業者データセンターが次々と新設されている状況にあると見ている。加えて、ソーシャルメディアやスマホアプリのようなネットを使った新たなサービスを提供するために、クラウドサービスに対する需要は一層拡大傾向が強まっていることも、事業者データセンターの新設が多く予定されている要因だと見ている。

データセンター「新設予定あり」と回答した管理者数の比較(出典:IDCの調査資料)

 この傾向は経年的に比較しても同様の状況が見てとれる。事業者側の割合は上下して見えるものの、アンケート回答サンプルサイズが小さいこともあり、データセンター新設の動きが企業数ベースでは加速しているという見方はしていない。一般企業側では、数字が10%前後の状態がここ数年続いており、新設の動向という意味では、ほぼ横ばいの状況と言える。

 ちなみに、データセンター事業者に対してどのように新設するのかも聞いているが、必ずしも自前の建物を建設するというわけではなく、どこかのデータセンターを間借りして自社のセンターと称して利用するという声も少なくない。これは「DC in DC」とも呼ばれるが、この手の事業者が今後増えていく可能性はある。もともと企業の定型業務のアウトソースを請け負うシステムインテグレーターでは、既存顧客の運用請負案件が何年も続くことになるものの、そのために巨額の建設投資をするには事業リスクが大きい。そうであれば、最新のデータセンターの一部を借り、自社のデータセンターとして使うといった動きが増加するのは当然の流れだろう。

事業者側ではデータセンターの統廃合も

 アンケートでは、現在運用しているデータセンターを閉鎖するかどうかについても聞いたが、毎年の傾向ながら閉鎖すると回答した割合は事業者の方が高い傾向にある。顧客の少ないデータセンターを運営し続けても利益が上がらないため、稼働率の上がらないデータセンターの統廃合には当然ながら事業者の方が積極的だ。一方で、一般企業が運用するサーバルームの稼働状況は、さほど大きく本業に影響することも少ないため、閉鎖するという意識は事業者に比べて低い。

 ただし、昨今の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で出社率が低下し、オフィススペースを縮小する動きがある。その観点からも、サーバルームにも影響が出てくる可能性はあるが、現時点で統廃合の動きまでは追えてないのが現状だ。

再生可能エネルギー利用の積極的な取り組みはこれからか

 今回のアンケート結果からは、経年比較によって2021年に特別な傾向が見て取れたというわけではないのが実態であり、特にデータセンター関連のファシリティ投資が急激に変化するケースは起こりにくい。今回の調査では、さまざまな企業で取り組みが進むSDGs(持続可能な開発目標)にもつながってくるサスティナビリティの視点を新たに盛り込んだ。

 サスティナビリティの取り組みをデータセンターの管理に関連付けているかどうかを聞いたところ、2〜3割の管理者が、廃棄物の削減や省エネ対策の実施、PUE(Power Usage Effectiveness:電力使用効率)の改善などを挙げた。また、データセンターにおける再生可能エネルギーの利用についても尋ねたが、全体で2割に満たない回答だった。データセンターにおける再生可能エネルギー導入をどう自社のビジネスに取り込んでいくのか、そのビジョンが描きづらい状況が見て取れる。

 今回の調査ではPUEについて詳細にヒアリングはしていないが、そもそもラックが数本設置されている程度の一般企業のサーバルームでは、厳密に電力管理が行われていないケースが多い。電力管理を行うためには、ラックごとの電力使用量を計測するインテリジェントPDU(Power Distribution Unit:電源タップ)などの装置が必要だが、それなりにコストもかかるため、キャパシティー管理の効率化によって過剰な投資を防ぐことが可能な事業者ではメリットも大きいが、一般企業ではそこまでの投資をしているケースは少ない。

事業者データセンターにまつわるトレンド

二極化が進む事業者データセンター

 最近の事業者データセンター動向をみると、クラウドサービスの拠点となる事業者のデータセンター、いわゆるハイパースケールデータセンターと、クラウドサービスの提供を目的としない従来型データセンターという二極化の傾向にある。クラウドサービスの需要が高まる中で、社内の閉じた環境で運用すべき資産を持つ企業のニーズを拾い上げるために、従来型データセンターも引き続き堅調に需要があると考えられる。

 ハイパースケールデータセンターとは、サーバルームを中心としたデータセンタースペース面積が5000平方メートルの超大規模データセンターのうち、ラック当たりの電力密度が6kVA以上で、なおかつAmazonやGoogleなどMEGAクラウド事業者を顧客に持つデータセンターと定義している。

 このハイパースケールデータセンターは、多くは首都圏や関西を中心に建設が予定されており、首都圏では印西市や埼玉県、相模原市、多摩市といったエリアでの計画が発表されている。また、万が一の際に電力供給が維持できるよう、関東と関西それぞれにリージョンを設置するケースも増えている。最近の日本では豪雨被害などが多発しているが、データセンターが浸水危機に見舞われた際には、ネットワークを経由してデータを別のセンターに移設できるような対策が採られている。水害や津波の被害に対するリスクよりも、電力供給が絶たれない環境づくりの方が重要なポイントになる。

運用管理の効率化と価値向上につなげるDCIM

 データセンター事業においては、運用の効率化と自社データセンターの価値向上を図っていくこと命題となってくるが、そこで利用されているのがDCIM(Datacenter Infrastructure Management)と呼ばれるソフトウェアだ。

 DCIMは、運用する資産や接続状況などの情報はもちろん、実計測データなどの情報を運用管理に生かせるもので、運用の効率化を実現するためのツールだ。このDCIMを駆使することで、データセンターの利用顧客に対するサービス強化にもつなげることができる。例えばコロケーションを利用する顧客に対して、ラックを借りるとそのラックの状態がタブレット端末からいつでも確認できるサービスの提供も可能になる。単なる運用管理の効率化だけでなく、データセンターの魅力づくりの一つとしてもDCIMが利用され始めている状況だ。

アプリケーションの需要変化に対応できるインフラ基盤づくり

 データセンターファイシティーに関しては、経年で大きな変化は発生しづらいが、その上で動かすプラットフォームやアプリケーションについてはトレンドによって様変わりする部分も少なくない。例えば在宅勤務が増えている現状の業務環境では、デスクトップ仮想化のニーズが増えるといった傾向にあり、そのための環境づくりを求められるケースもある。

 ただし、インフラ側では、急にラックを倍にしたいといったアプリケーションを扱う事業部からの要望があった場合に、迅速に拡張できるような環境や体制が用意できるかどうかにかかってくる。ファシリティの柔軟性が高いほど、他事業部から評価され、その結果として顧客満足度の維持につながる。

今後のデータセンターで鍵となる蓄電技術

 大きな消費電力を必要とするデータセンターでは、例えば再生可能エネルギーへの取り組みや、さらなる省電力化への取り組みを推進することが必要になる場面が出てくるはずで、そこで重要になってくるのが利用している電力消費の平準化だろう。

 そこでは、余剰電力や料金の安い時間帯に多くの電力を蓄電しておき、必要な際に電力を充てるような仕組みが今後求められてくる。その意味で、蓄電技術は今後データセンターにおいて重要なテクノロジーの一つとなるだろう。

コネクティビティの検討が必要に

 データセンターについては、大きくクラウド環境、コロケーション、そして自社のサーバルームといった3通りが想定され、この3つに適したワークロードをそれぞれ配備していくことになるが、ファシリティに関しては最も低いレイヤーであり、この3つをいかにつなげていくかが重要になる。その意味では、ネットワークを中心としたコネクティビティも同時に考えていくことが大切になる。この3つの環境をうまくつなげていくコネクティビティも事業者側でセット提案できるケースが増えているため、その提案をうまく活用することも検討したいところだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。