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人事の制度とデジタル化の現状課題(2021年)/前編

コロナ禍によって人材に関する課題感が大きく変わった。対応を進める企業と立ち止まる企業、変化について行けない従業員などの悲喜こもごもの意見が寄せられた。

» 2021年11月18日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 キーマンズネットは2021年10月25日〜11月5日にわたり「人事制度」に関するアンケートを実施した。

 自社の人事制度における課題や昨今の変化、新たな課題にどう対応しているかなどを聞いた。古い制度に不満を持つ一方で「会社組織なので仕方ない」と諦める声や「テレワーカーと出社する人員で評価を区別すべきだ」などの怒りの声が寄せられ、人事制度の刷新をした企業でも「評価はジョブ型になったが給与体系は従来のまま」といった“残念な実態”が明かされた。

コロナ禍で課題一変、企業も“頑張っている”が……

 テレワークの普及や働き方の多様化によって従来の人事制度では対応が難しいケースが出ている。まず、コロナ禍を想定して過去2年間を振り返り、人事制度で課題だと思うことがあったかを聞いたところ、特に既存の人材の育成やモチベーション向上についての課題に回答が集中した(図1)。

(図1)過去2年間で感じた「人事制度の課題」

 「特に課題はない」と回答した割合は30.7%であったことから、3人に2人は何らかの課題意識を持っていることが分かる。特に多かったのが「人材の育成が難しくなった(34.7%)」と「従業員のモチベーションが低下した(31.3%)」で、コロナ禍で指摘される従業員の教育やメンタルケアに関する課題が目立つ。

 コロナ禍以前、2019年6月に実施した調査では「人材確保」や「採用」に課題を感じる傾向があったことから、コロナ禍とテレワークによって人事の課題が大きく変化していることが分かる(図2)。

(図2)2019年時点での「人事の課題」

 企業も課題感の変化に対応しようとしている。過去2年間で人事制度に変化があったかを聞いたところ「課題はあるが特に変更はない(30.1%)」と「人事制度は整っており、管理体制も十分なので直近で変更はない(15.9%)」を合わせて、46.0%が「変更なし」と回答した。それらを除く54.0%の企業が何らかの形で人事制度を見直している(図3)。

(図3)過去2年間で人事制度にどのような変化があったか

 具体的には「給与体系の変更(19.3%)」や「管理組織の変更(14.8%)」などに回答が集まり「目標管理制度の導入(13.1%)」や「ジョブ型人事制度の導入(9.7%)」「副業の推奨(6.3%)」と続いた。過半数の企業が外部環境の変化に対応しようと模索している様子が見える。

現状の人事制度に「不満あり」が約4割「どちらでもない」「満足」を上回る

 人事課題の変化に伴い、現人事制度への満足度にも影響が出ているのだろうか。調査したところ「やや不満(23.9%)」と「とても不満(15.9%)」を合わせた“不満”の割合は39.8%で全体の4割となり、「どちらでもない(36.9%)」や「満足(22.7%)」を上回った(図4)。

(図4)人事制度への満足度

 フリーコメントでは「不満は多いが会社組織なので諦めている」といった落胆の声も聞かれ、現状の課題に対応できていないことによる従業員のモチベーション低下も見て取れた。企業の対応が遅れるほどこれらの不満やモチベーション低下は深刻化する。新規の人材確保が難しくなっている中で離職リスクが増加するおそれがあるため、企業側の対応が求められる。

176人の考える「人事制度こうならいいのに」

 そこで人事制度や体制の見直しの参考になればと今回挙げられた課題に対し、具体的な“要望”をフリーコメントで聞いているので紹介したい。まず最も多かったのは、評価制度の透明化を希望する声だ。

  • 評価基準が曖昧で体制が貧弱、評価の適正性が疑問
  • 評価担当者のスキルが低く、正しい評価ができない
  • 管理職の能力に個人差がある、セカンドオピニオン的な管理があると良い

 いずれも「基準が曖昧、納得できない」といった不満に基づくもので、360度評価やクロス評価などを求める声が目立つ。一方で相互に評価しあう制度への苦言はなかったことから、一方的な上意下達の評価にならない仕組みで従業員エンゲージメントを高められる可能性が見える。

 コロナ禍を背景に変化した「新しい働き方」への対応を求める声も少なくない。

  • 副業制度の検討をもっと真剣にすべきだ
  • 在宅勤務を前提とした人事制度に見直す必要がある
  • ジョブ型人事制度を導入して、有能な従業員に高給で報いるような差をつけるべきだ
  • テレワーカーと出社する人員で評価を区別すべきだ

 働き方の多様化を受け入れつつ、生産性の高い従業員を正当に評価する人事制度が求められている。一方で「コストが掛かるので教育制度の構築は考えていない」といった声もあり、制度や仕組みをどこまで変化させるべきかは回答者の役職によっても異なる。

 その他には「新人の自主的な努力や現場のOJTに依存しない、計画的な短期育成の仕組みが必要」や「人材のキャリアパスを意識した組織構造」など人材育成に関する意見が挙がり、優秀な人材の留保や確保を課題に感じている様子も見えた。

 回答から見える理想の人事制度は「アンマッチのない人材を採用し、適切な教育制度で迅速に成長させて、優秀であれば誰もが納得する高評価で報いる」というものになる。現在の人事制度に「満足している」と回答した割合も2割いることから、ホワイトな人事制度を実現している企業も一定数存在することが分かる。

 ただし、以下のような不満の声からは、企業の取り組みが裏目に出ている可能性もあった。

  • 評価はジョブ型になったが給与体系は従来のままなので挑戦するメリットがない
  • ワークライフバランスという名目で給与が削減されている
  • 女性や子供のいる従業員ばかり厚遇される

 後編では、以上の課題に対応するため企業はどのような人事システムを使っているのか、実際に使用しているシステムの評価とその上で存在する課題を、さらに具体的に紹介する。

 本調査では、全回答者数176人のうち情報システム部門が26.1%、製造・生産部門が18.2%、営業・販売部門が11.4%、総務・人事部門が7.4%などだった。グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があることをご了承いただきたい。

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