コロナ禍以降のプロジェクト型の働き方に関する調査では、従来あらゆる業務を内部人材でまかなっていた大企業ほどコミュニケーション難を感じていることや、人材不足にもかかわらず案件が増加しているなどの課題が明らかとなった。
チームスピリットは2021年12月9日、「プロジェクト型ワーカーに関する調査」(調査期間:2021年11月12〜14日、Web調査)の結果を発表した。本調査は全国の士業やコンサルタント業、エンジニア業の企業に務める役職者(部長、課長・次長、係長・主任クラス)の従業員300人と一般従業員300人の計600人を対象に実施したものだ。
コロナ禍以降、ジョブ型雇用やプロジェクトベースの働き方といった多様なワークスタイルへの注目が集まっている。本調査は、プロジェクト単位で働く上で、チームとのコミュニケーションやアサインメントにどういった課題があるのかを調査したもの。
調査対象者の現在のテレワーク実施状況は、「基本的に出社している」が38.5%で最も高く、次いで「週に4回以上テレワークをしている」が31.7%だ。「出社中心型」と「テレワーク中心型」で二極化する結果となった。規模別、役職別に見ると、企業規模999人以下の「中堅・中小企業」「役職者」の層でもそれぞれ約6割が週1回以上のテレワークを実施しており、テレワークが浸透しつつある。
この結果について、チームスピリットのバーチャルシンクタンクであるイノベーション総合研究所所長の間中健介氏は「この背景について今回の調査結果のみから断定することはできないが、テレワーク中心型ワークスタイルへの順応性が高いとされる大企業若手層だけでなく、『中堅・中小企業』『40代以上』『役職者』の層でもテレワーク中心型ワークスタイルの導入が進んできたと捉える。また、出社かテレワークかという二者択一ではなく、感染症を取り巻く社会情勢によって出社中心型かテレワーク中心型かを柔軟に切り替える動きが広がっているとの見方もできる」と分析する。
調査では大企業(企業規模1000人以上)の役職者の2人に1人が、コロナ禍以降初めて一緒に働くメンバーとの協業について「難しくなった」と感じていることが分かった。大企業の役職者がコロナ禍以降に初めて一緒に働くこととなったメンバーとの協業について「コロナ以前と比べて難しくなった」「コロナ以前と比べてやや難しくなった」と回答している割合は52.0%で、中堅・中小企業の役職者の33.0%に比べ19.0ポイント高い。
「コーポレートガバナンス改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)をフックとした経済構造変化の下では、これまで内部人材中心で業務を進めてきた大企業でも、外部の多様な人的資源を動員してチームを組成し、スピード感を持って新規施策を推進する取り組みが求められている。数十人から数百人規模のコンサルティング会社や法律事務所といったプロフェッショナルファームでは従前より中途採用者や外部人材のマネジメントに関するハードルは低いが、大企業では外部人材のマネジメントに心理的、制度的なハードルが一定程度存在していることが分かった」(間中氏)
では、具体的にコロナ禍以降「メンバーとの協業が難しい」と感じている理由は何なのだろうか。また、コロナ禍以降のプロジェクト型の働き方、プロジェクト案件で起きた課題についても聞いた。
調査結果によると、コロナ以降のメンバーとの協業が難しくなった理由1位は「リモートでは意思疎通が取りにくい」(64.5%)、2位が「メンバーのキャラクターが分からない」(44.5%)、3位が「メンバーのスキルが分からない」(30.3%)だった。特に大企業の役職者は「メンバーのキャラクターが分からないから」が53.8%と大企業の一般従業員と比べて16.0ポイント、「メンバーのスキルが分からないから」が36.5%と大企業の一般従業員と比べて12.2ポイント高いという結果になった。大企業の役職者がメンバーの個性や能力、スキルなどを把握できてないことを理由に挙げる傾向が強いことが分かった。
プロジェクト型の働き方では新たな課題も見つかった。顧客からの相談について感じていることは、「人材不足にもかかわらず、案件を受注し苦労したことがある」が34.0%と最も高い結果になった。次いで「クライアントからの相談数に対し、自社の人材は不足していると感じる」が27.3%、「クライアントからの相談に対し、十分に応えられるスキルを持つ自社の人材は不足していると感じる」が26.0%となった。4人に1人がプロジェクト案件に対する人材不足と、案件に見合うスキルを持つ人材の不足を課題に感じていることが分かった。
加えて、一般従業員がプロジェクト責任者に期待することとして、「適正なアサインメント(業務の割り当て、選出、配属)」が50.3%で最も高く、次いで「稼働状況のコントロール」が36.0%という結果に。プロジェクト開始段階における適正なアサインメントと、プロジェクト開始後の稼働状況の配慮や調節を求めていることが分かった。
これらの調査結果を受け、イノベーション総合研究所は次の3つの提言をしている。
近年の働き方改革の下、大企業ではデジタルデータによる勤怠管理は一般化した一方で、個々の従業員の経験。スキルについては明確な指標がなく、アナログ管理や暗黙知のみによる把握にとどまり、特定部門内だけで共有されるケースが少なくない。従業員側にとって安心して経験、スキルを共有できケーパビリティを高められる仕組みと、マネジメントにおいてそのデータを公正かつ効果的に活用する仕組みを進化させていくことが求められる。
コーポレートガバナンス改革やDXをフックとした経済構造変化は、想像を超える速度で進行している。一部の企業では政策保有株式の削減、CVC(Corporate Venture Capital)の活用などを通してオープンイノベーションを加速している。重厚長大と言われてきた企業がアジャイル型のビジネス展開をしている例も珍しくない。ビジネスに求められるスピードと難易度は日々高まり、特定部門内だけで予算と人的資源をクローズドに管理することを続けていては、競争のスタートラインにすら立つことはできない。大企業はアジャイル化の加速が求められ、部門内だけのリソース活用から脱却し、グループ全体での多様で柔軟なリソース活用、さらにはグループ外のヒト、モノ、カネを機動的に活用する前提で、経営の仕組みを変えていく必要がある。この中で最も有限で重要な資源であるヒトに関して、社内外問わず多様なヒトとの連携を創出し、機動的に登用をする観点から、人的資源管理に新しいシステムや手法を導入していくことがまずは要点となる。
大企業のアジャイル化が加速すれば、専門スキルを持つプロフェッショナル人材に今後より多くのチャンスが到来する。しかし、プロフェッショナル人材同士の競争は激化し、専門スキルに対して支払われる対価は常に不安定なものとなっていく。アサインメントされるプロフェッショナル人材の側には、自身のスキルや業務状況をタイムリーに客観視した上で効率化と能力向上への投資を図ることが求められる。つまり、自身を大企業の協業パートナー企業としてふさわしい態様に整備していく視点が必要となる。
大企業にとっても、意欲的なプロフェッショナル人材をパートナー企業であるかのように捉え、その企業価値向上をサポートする観点に立ったアサインメントを取り入れることで、双方に新たな価値創出を目指すスタンスが非常に重要となる。
アジャイル化する世界では、企業は既成の仕組みに捉われず常に”最適なチーム”をライバルよりも早く結集して、目的達成に取り組まなければならない。また、自社が他社にとっての最適なチームメンバーとして選択され続けるよう、効率化と能力向上を図らなければならない。大企業が先頭に立ってアサインメントを高度化し、個人と組織が戦略を進化させるサイクルを醸成していくことが、日本経済全体の底上げにとって肝要であると考える。
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