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» 2022年06月03日 12時49分 公開

創業100年ヤマト、DX推進を支える人材の育成方法がすごい

創業100年を迎えたヤマトホールディングスは、2020年からデータドリブン経営を掲げている。データドリブン経営を支えるデジタル人材の育成方法や人材配置の工夫について聞いた。

[平 行男合同会社スクライブ]

 ヤマト運輸を中核とするヤマトホールディングスは、2020年に経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を策定した。その基本戦略の一つとしてデータドリブン経営を掲げ、荷物量予測に基づいたリソースの最適化といった取り組みを進めている。その実践に当たって同社が力を注いでいるのが組織改革と人材育成だ。

ヤマト運輸 中林 紀彦氏

 「データドリブン経営は優秀なデジタル人材を集めるだけでは成功しません。デジタル人材を使いこなす経営・マネジメント層、従業員など、全員のレベルが上がらなければ、企業全体としてトランスフォーメーションはできない。そのためには専門以外の人材の育成も欠かせません」。そう語るのはヤマト運輸の中林紀彦氏(執行役員 DX推進担当)だ。同社のデータドリブン経営の取り組みと、その要石となる組織編成および人材育成について聞いた。

本記事は「NexTech Week 2022【春】デジタル人材育成EXPO」の氏の講演「ヤマトのDX推進を支える人財と組織の在り方」を基に編集部で再構成した。

次の100年に向けた3つの「事業」構造改革

 ヤマトホールディングスが2021年に配達した荷物は約22億8000万個だった。1日最大で1000万個の荷物を扱っていることになる。会員サービス「クロネコメンバーズ」の会員数は約5000万人を数え、法人向け「クロネコビジネスメンバーズ」会員企業は約130万社を数える。

 23億個弱の荷物を運ぶ上で欠かせないのが物理的な拠点とリソースだ。従業員22万5000人、車両5万7000台、各地の営業拠点3600店、中継地であるトラックターミナル77拠点、営業倉庫110拠点、宅急便の取扱店ネットワーク18万4000店を持つ。

 「これだけのリソースがありながら、宅配が荷物量の増加に追い付かないという課題がありました。この課題を解決するために、2020年1月に経営構造改革プラン『YAMATO NEXT100』を打ち出し、『宅急便のDX』『ECエコシステムの確立』などに取り組んでいます」(中林氏)

 「宅急便のDX」では、荷物の仕分けにソーティングシステムやロボティクスなどを導入した結果、宅配の生産性を4割以上向上させた。データ分析やAI(人工知能)を活用しながら荷物量予測にも取り組み、予測に基づいた人員や車両などのリソース最適化を実現している。その他、顧客との接点である会員サービス「クロネコメンバーズ」を刷新し、「LINE」から再配達や受け取り日時場所指定を行えるようにした。

 「ECエコシステムの確立」としては、運び手やEC事業者、購入者のそれぞれの

ニーズに応える最適なECエコシステムを追求している。運び手が膨大なECの荷物に対応できるように、EC共同倉庫やターミナルといった拠点を整備した。また、EC事業者が受発注や在庫管理などを一括管理できる仕組みも構築した。購入者に対しては、荷物受け取り場所として任意の店舗や宅配便ロッカーを選べるようにした。

図1 ECエコスシテムの確立(出典:ヤマトホールディングスの講演資料)

データドリブン経営を支える組織、人材の育て方

 これらの事業構造改革を支える要素の一つが、データドリブン経営への転換だ。2020年以降の4年間で約1000億円のデジタル分野へ投資することを計画し、データ基盤「Yamato Digital Platform」(YDP)の構築や基幹システムの刷新などに取り組んでいる。さらに、これら取り組みを推進する主体として2021年4月に社内外から300人の人材を集結させたデジタル組織を立ち上げた。

図2 データドリブン経営のなかで機械学習を活用(出典:ヤマトホールディングスの講演資料)

 デジタル組織は4階層の機能から成る。最上位は「各事業部門へのデータサイエンス推進機能」で、各事業部門の現場課題を解決するためにデータ分析を行う。2階層目の「データ活用CoE(Center Of Excellence)機能」は、複数の事業部門をまたいだ課題の対応や案件情報の管理、ナレッジの横展開を実行する。3階層目「データマネジメント機能」は、必要なデータが正しく効率的に使われるように環境を整える。そして4階層目「デジタルプラットフォーム機能」は、プラットフォームのアーキテクチャを設計・実装する。これらの各機能に合わせた人材を配置することで、データに基づいたスピーディーな意思決定を実現している。

 中林氏は、こうしたデジタル組織の編成と人材育成において次のような視点が重要だと話す。まずは、「組織・人材をどう配置し、権限と予算を譲渡するか」という視点だ。同社では、非連続な改革を狙う場合は別会社やJVなどの出島を配置し、連続的な変革を行う場合は経営直下に設けるといった工夫をしている。

図3 データドリブンを推進する4階建ての組織(出典:ヤマトホールディングスの講演資料)

 人材育成においては、「(人材が)必要な基礎教育を理解できているか」という点も大切にしているという。同社では、数学とプログラミングの基礎教育を受けた人材を新卒・中途で採用すべきと定義している。データサイエンス領域では、シリコンバレーのIT企業やVC(ベンチャーキャピタル)が協力して作成した「insight data science fellows program」を参考にし、独自の育成プログラムを構築した。これを社内や大学院などで活用して即戦力あるデータサイエンティスト人材の育成を進めている。

 さらに採用活動の一環として、他社と共同のインターンシッププログラムにも参加。実際のビジネスデータを基に学生と協力しながらデータ分析を行い、デジタル人材の育成や採用につなげている。

 ただし、中林は「事業会社で戦力となる人材に求められることは、基礎的なデジタルスキルだけではない」と言う。同氏は、ビジネス課題を整理し解決する「ビジネス力」、情報処理やAIなどの情報学系の知恵を理解し、使える「データサイエンス力」、データサイエンスを実装・運用する「データエンジニアリング力」、そしてシステムとのデータ連携やシステムへのモデルの組み込みを行う「システムエンジニアリング力」を持った人材を育成、調達することの重要性を説いた。

 ヤマトホールディングスでは、「ビジネス力」「システムエンジニアリング力」を自社内の育成によって、「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」は外部パートナーの活用も視野に入れ、全体の人材ポートフォリオの構築を図っている。

 その他、デジタル人材を使いこなす経営・マネジメント層、従業員のレベルを高める目的で、2021年度から教育プログラム「Yamato Digital Academy」をスタートさせた。社内現場向けにもプログラムを用意して、全方位でのリテラシー底上げを図っている。

図4 「Yamato Digital Academy」の全体像(出典:ヤマトホールディングスの講演資料)

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