デジタルシフトが叫ばれる中、従業員は多くのITツールと関わりながら業務を進める必要がある。ITツールを使って業務や事業を変革するスキルや素養が求められることもあるだろう。そうした中で、企業における従業員のITリテラシーは十分なのだろうか。リスキリングなどの取り組みと併せて調査した。
キーマンズネット編集部は2023年に注目すべきトピックスとして「セキュリティ」「SaaS」「電帳法/インボイス」「Windows 11」「社内ヘルプデスク」「音声コミュニケーション」「デジタルスキル」の7つのトピックスを抽出し、読者調査を実施した(実施期間:2022年11月11日〜12月12日、有効回答数654件)。企業における2023年のIT投資意向と併せて調査結果を全8回でお届けする。
第5回は「デジタルスキル」の調査結果を紹介する。
コロナ禍で非対面のコミュニケーションが増え、それを補うためにデジタルツールの導入が進んだ。従業員がデジタルツールを使わずに業務を進めることが難しい企業もあるだろう。
ただ「使うためのスキル」だけでなく、ITツールを使って業務や事業を変革するスキルや素養も求められつつある。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の文脈では、事業部門が自ら業務に課題意識を持ち変革することの意義が叫ばれ、その手段としての「ノーコード/ローコード開発ツール」や「RPA」(Robotic Process Automation)といったツールが台頭した。
こうした潮流の中、従業員のITリテラシーや上記ツールを使うためのデジタルスキルは十分なのだろうか。アンケート調査の結果を基に現状や取り組みを俯瞰する。
はじめに、回答者が自社の従業員のITリテラシーをどう認識しているかを探るために「勤務先での従業員のITリテラシーは十分であるか」を尋ねた。なお、本調査ではITリテラシーを「情報基礎リテラシー」(情報を探し、精査し、使う能力)、「コンピュータリテラシー」(PCやアプリケーションを操作する能力)、「ネットワークリテラシー」(インターネットやセキュリティに関する知見やモラル)として定義している。
「何とも言えない」(31.3%)が最も多かった。ITリテラシーが十分ではないと感じる回答者は、「あまりそう思わない」(25.7%)、「全くそう思わない」(16.2%)を合わせて41.9%。逆にITリテラシーに一定の自信がある企業は「ややそう思う」(20.5%)、「とてもそう思う」(6.3%)を合わせて26.8%だった。
企業規模別にみると、「ITリテラシーがある」と感じる企業の割合は、従業員数が多い企業ほど高くなると分かった(図1)。
上記の結果を見ると、ITリテラシーが「ある」と感じている企業は、ITリテラシー不足を感じている企業よりも少ないと分かる。フリーコメントで、ITリテラシーの対する認識の理由を聞いたところ、ITリテラシーに一定の自信がある企業においては、「ITサービスを提供することを生業としているため」「社内で資格取得を支援する制度があるため」「定期的にリテラシー向上のための教育の機会を提供しているため」といったコメントが寄せられた。
一方、ITリテラシーが十分でないとした回答者は、従業員の以下のような行動に戸惑いを感じたようだ。一部を抜粋して紹介する。
情報基礎リテラシー(情報を探し、精査し、使う能力)
「コンピュータリテラシー」(PCやアプリケーションを操作する能力)
「ネットワークリテラシー」(インターネットやセキュリティに関する知見やモラル)
その他
上記のコメントを見ると、一口にITリテラシーが不足していると言っても、「PCの基本的な操作ができない」から、「PC操作はできるが、オフィス製品といった業務アプリケーションの操作方法があいまいだ」「基本的な業務アプリケーションは利用できるが、個人レベルのセキュリティ施策ができない」「職種によって必要なインフラ、ネットワークに関する知識が足りない」といったコメントまで、企業ごとにさまざまなレベルにあることがうかがえた。
その他、ITリテラシーと関連して「デジタル化を進めたいが、役員の理解が得られない」といった上層部のDXに対する意識の低さを憂うコメントも散見された。
こうした状況の中、従業員のITリテラシーを向上させる取り組みは実施されているのか。これについては、「特に何もしていない」(31.3%)、「コロナ禍以前から体系立った研修/教育プログラムがある」(28.9%)、「社内報などで啓発活動をしている」(25.2%)、「部門や個人の裁量に任されている」(25.1%)、「資格取得支援策や評価への反映をしている」(16.4%)、「コロナ禍以後、新規に研修/教育プログラムを作った」(8.7%)が続いた(図2)。
この結果を従業員規模別にみると、「特に何もしていない」とした割合は企業規模が小さくなるほどに高くなり、逆に「コロナ禍以前から体系立った研修/教育プログラムがある」とした割合は企業規模が大きくなるほど高くなる傾向にあった。
上記の結果をまとめると、従業員規模の小さい企業ほど従業員のITリテラシーに自信を持てない一方で、企業として体系だった教育プログラムを提供できていないことが分かる。フリーコメントでも「通常業務が忙しい中で教育の機会を用意することが難しい」というコメントも挙がり、人的リソースが十分でない企業が教育プログラムを用意することの難しさがうかがえた。
なお、ITリテラシーのあるべき姿についても聞いた。ITリテラシーを向上させる上で重要なこととして「変革にかかわる全従業員がITへの理解を向上させること」(55.4%)、IT部門に加えて、システムを活用する事業部門がITを理解すること」(29.7%)、「IT部門がITへの理解を専門的に向上させること」(10.2%)の順で回答が多かった(図3)。この傾向は企業規模によって変わることはなかった。
ここまで企業におけるITリテラシーの状況について見てきた。一方、近年はPCやアプリケーションを操作する能力やセキュリティに関するモラルだけでなく、デジタルツールを使って業務や事業を変革するスキルや素養も求められつつある。近年は、SIer依存や情シス依存の体制を見直して、事業部門が自ら業務を改善する市民開発の重要性が叫ばれてきた。
そこで、事業部門のリスキリングを目的にした新しいデジタルスキルの学習プログラム(データ分析やAI活用、自動化ツール開発/利用、IoT)を提供しているかどうかを聞いた。「はい」とした企業は(27.8%)と3割に満たず、「いいえ」とした企業は72.2%だった(図4)。
従業員規模が大きい企業ほどデジタルスキルの学習プログラムを提供している割合は増え、1001〜5000人の企業では40.2%、5001人以上の企業では52.7%の企業が「はい」と回答した(図4)。中堅・中小企業においては、大企業ほど「ヒト・モノ・カネ」のリソースが潤沢でないことが多く、社内で教育プログラムを提供することが難しいケースもありが、そうした壁を意識したサービスが充実することで、今後リスキリングに関する取り組みが増加するかもしれない。
「はい」と回答した企業は、どの程度の規模で学習プログラムを提供しているのだろうか。その提供範囲を聞いたところ「全従業員向けの実施」(59.3%)、「立候補による特定従業員向けの実施」(23.1%)、「会社が選定した特定の従業員向けの実施」(13.7)、その他(3.8%)という順に回答が多かった。なお、従業員規模によってこの順位が著しく変わることはなかった。
具体的な学習プログラムの内容については、ノーコード/ローコード開発ツール、RPA、BIツールの操作方法といった教育プログラムの他、セキュリティ、データサイエンス、統計、DX人材育成のためのプログラムなどが挙げられた。中には、機械学習といったAI関連のプログラムを用意している企業もあった。
実施方法はオンサイトの研修とe-learningに分かれており、社内独自でプログラムを作成する他、社外の学習支援サービスを利用する場合もあるようだ。中には、「社外の有償教育コンテンツを学習できるライセンスを配布」しているという回答もあった。
図5ではそうした学習プログラムによる効果を示した。「事業部門の従業員がプログラムで学習するツールについて一定のスキルを得られた」(49.5%)、「現場の従業員が業務の課題を認識し、改善の方法を模索するようになった」(36.8%)、「従業員が数理的素養を身に着けた」(14.3%)、「内製化の促進につながった」(12.1%)、「効果を感じられなかった」(7.1%)という順位で回答が多かった。
「何らかのデジタルスキルの学習プログラムを提供していない」とした回答者を対象にどのようなプログラムが欲しいかと聞いた質問においては、PCやスマートフォンといった業務用デバイスの使い方や「Microsoft Teams」などの業務アプリケーションの基本的な操作方法から、E資格やG検定を始めとする資格受験対策講座やDXについて体系的に学べる講座まで、さまざまな領域の回答が寄せられた。「個別最適では無く、全体最適を目指すもの」「誰にでも分かりやすい学習プログラム」「短時間で行えるプログラム」「業務フローや分担を見直すきっかけになるようなプログラム」「実務に合ったプログラム」など、理想の学習プログラムの在り方についての意見も寄せられた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。