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記者発表でひらめいた「IT予算を確保しやすくする方法」を登壇者本人に確認してみた編集部コラム

私が情シスだったころの大きな悩みがIT予算の確保でした。最近記者発表で聞いた話がIT予算の確保で役に立つと思い、登壇者ご本人にもコメントをいただいたので、編集部コラムでまとめてみます。

» 2023年04月07日 07時00分 公開
[大島広嵩キーマンズネット]

 私が情シスだったころの大きな悩みの一つが「IT予算の確保」でした。私が働いていた企業では予算決定のタイミングは年度末の一度しかなく、社員の入退社や異動のタイミングも重なることから、忙しかった記憶があります。

 IT予算は主に、IT関連の新しい取り組みで使う「攻めのIT予算」と既存のIT環境を維持する「守りのIT予算」に分けられるでしょう。私が情シスだったころに苦労したのは「攻めのIT予算」を確保することでした。

 そんな中、最近記者発表で聞いた話が「攻めのIT予算」の確保で役に立つと思ったので、編集部コラムでまとめてみます。本当に実現可能かどうかについて、記者発表の登壇者ご本人にも聞いてみました。

IT予算の確保は何かと難しい

 情シスに限らず、予算を確保する際は上長への提案が必須でしょう。「守りのIT予算」の上司への提案はとても簡単です。「投資をしなかったときに起こる最悪のパターン」を、効果的に伝えられればほぼ確実に確保できます。「基幹システムの保守・運用費用」や「ネットワーク通信料」「PC購入費」といった、投資しなければ経営に打撃を与えるイメージが湧きやすいものです。

 難しいのは「攻めのIT予算」です。DX(デジタルトランスフォーメーション)のような会社一丸となる取り組みの予算は、経営層から降ってくる場合が多いので苦労は少ない可能性があります。一方、「情シスの業務負荷を軽減するような取り組み」への予算はなかなか確保が難しいです。

 まず議論になるのは「その予算をどのように捻出するの?」ということです。そして次に議論になるのは「情シスの業務を軽減して、空いた時間をどうするの?」ということです。

 仮に「ヘルプデスク運用改善」をアウトソースしたいとします。ユナイトアンドグロウ社の価格表を基に1人月アウトソースするとしたら、月額96万円(1日8時間、月20日勤務)かかることになります。そうなると情シスは「毎月96万円分の利益を会社に与える取り組みについてのプレゼンテーション」が求められます。これがなかなか手間です。もちろん、上司からしたら説明を求めるのは当たり前です。

 私の体験を例にご説明しましょう。コロナ禍に情シスとしてテレワークへの切り替え対応をしたとき、1日50件ほど電話の問い合わせがあり多忙を極めました。問い合わせは主にVPNの設定ミスといった初歩的な内容です。そんなとき、ヘルプデスクをアウトソースするためのプレゼンテーションの準備など、とてもじゃないけどできません。世の情シスは忙しい中、新たな取り組みの提案を準備する時間があるのかという疑問が残ります。

販売管理費を基にIT投資額を決めてしまう

 ひとり情シス協会の清水 博氏が、2023年3月16日開催の「日米デジタルエンゲル係数比較調査」の記者発表で話していた「米国の予算確保の考え方」が、情シスの予算確保で参考になると思いました。

 清水氏によると、日本の企業は売り上げの1%をIT予算に回す傾向があります。売り上げから予算を考えるので、業績が悪くなるとITへの投資額が少なくなります。それに対し米国は、販売管理費の5%をIT予算に回します。販売管理費から算出することで、ITコストを平準化できるとのことです。

図1 日米のITコストの考え方の違い(出典:清水氏の資料)

 私が米国の考えが良いと思ったのは、「平準化したIT予算を確保できる」ことと「ITで労働生産性を上げれば粗利率が増え、販売管理費が増える」という2点です。

 予算を平準化できれば、毎月支払いが発生するサブスクリプションサービスのようなものに投資をしやすくなるのではと思います。また、図1から分かるように、IT投資が粗利率のアップにつながり、粗利率のアップがIT投資の増額につながるサイクルが生まれるため、情シスが「IT投資で労働生産性を上げるという大義名分」をつくりやすくなります。

 あくまで仮説ですが、仮に販売管理費に人件費を含めることができれば、人件費を含めたIT投資の計画が立てやすくなるのではと思います。例えば、オンプレサーバをクラウドリフトするのは膨大な費用を必要としますが、クラウドリフト後にオンプレサーバを維持する人件費や設備費を削減することで、実質の費用は安くなるといったことを明示できるかもしれません(かなり素人考えです)。

実際に清水氏に聞いてみた

 「日米デジタルエンゲル係数比較調査」の記者発表に登壇していた清水氏に意見をうかがう機会があったので、「上記の私の考えが正しいかどうか」ということと「清水氏が実際にみたことがある、IT予算の確保に成功している企業の特徴」を聞いてみました。清水氏は以下を述べました。

 「逆説的になりますがIT予算を確保できている会社は管理会計を導入して予実管理をしている会社です。管理会計は、業績管理や各事業部門ごとの評価に有効です。予算と実績を比較することで、目標に対してのギャップが即時で明確になるので、経営品質向上のための成長戦略が立案しやすくなります。数値で管理できるため、文学的な表現ではなく、具体的な目標値の改善計画を社内に展開できます。管理会計はデジタル化との親和性がとても高いので、デジタル活用の風土づくりには最適です」

 清水氏の回答から、私が記者発表を聞いて思いついた考えは、どうやら既に管理会計で実装されていることが分かりました。結果として私の無知をさらしてしまったようです。清水氏は以下のようにも続けました。

 「管理会計を導入している日本の中堅・中小企業は約28%です。一方、米国で導入している中堅・中小企業は約68%ですので、大きく引き離されています。DXの前に、会計トランスフォーメーションを実施することが重要ではないかと思います」

 日本の中堅・中小企業で管理会計を導入している企業の割合が米国に比べて非常に低いことが、日米のIT予算の差につながっている可能性もあります。ただ、管理会計を導入するにも経理業務を大きく変える必要があるため、なかなか簡単なことではありません。ですので、今回の私のアイデアは「考えとしては間違っていないが、気軽に実現できるものではない」ということが分かりました。

 本コラムで管理会計とIT予算の関係について言及できるのはこの辺までですが、今後はもっと詳しい情報をお届けできたらと思います。

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