メディア

結局、紙で保存するのか? 猶予措置も盛り込まれた改正電帳法への温度感改正電子帳簿保存法、インボイス制度への対応状況(2023)/前編

キーマンズネットでは「改正電子帳簿保存法への対応に関するアンケート(2023)」と題したアンケー調査を実施した。2022年1月に施行された改正電帳法だが、一部規定で宥恕期間が設けられ、その後令和5年度税制改正大綱ではさらなる猶予措置も設けられた。そうした中で、企業の改正対応への温度感はどのような状況なのか。

» 2023年05月25日 09時00分 公開
[キーマンズネット]

 国税関係帳簿や取引書類の”ペーパーレス化”によるコスト削減や業務効率化ニーズの高まりを背景に、2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法(以下、改正電帳法)。施行からおよそ1年半、2023年12月末に設定された宥恕(ゆうじょ)期間の終了も迫る中、企業では順調に対応が進んでいるのだろうか。キーマンズネットでは「改正電子帳簿保存法への対応に関するアンケート(2023)」と題して調査を実施(実施期間:2023年4月21日〜5月12日、回答件数:176件)。本稿では、企業における改正電帳法への対応状況や対応に伴う課題について紹介する。

施行から1年半、改正電子帳簿保存法の理解度は?

 ペーパーレスを進める際に課題となるのが、帳簿や書類といった「国税関係帳簿書類」の電子化だが、一定の要件を満たすことで電子データでの保存が認められる。この要件を定めたものが「電帳法」だ。

 令和3年度の改正では大幅に緩和された部分がある一方で、電子取引情報の保存方式については規制が厳しくなったことで話題を集めた。改正法に対応するためには経理フローを見直す必要もあり、対応の進め方は企業によって異なる。

 はじめに、改正電帳法の内容について現状どの程度理解しているかを調査した。「よく理解している」(18.2%)と「少し理解している」(47.2%)を合わせて65.4%が「理解している」と回答した。(図1)。この結果に「改正されることは知っているが、内容は理解していない」(28.4%)を含めると、9割超が改正を認知していることとなる。一方、「聞いたこともなく、内容も理解していない」は6.3%とわずかだった。

 企業における所属部門別で見ると、経営者、経営部門や財務、会計、経理部門で「よく理解している」割合が高く、反対にマーケティング部門や製造・販売部門といった関連書類の取り扱い機会が少ない部門においては理解度が低い傾向にあった。

電子取引データは結局、紙で保存する?

 2022年1月に施行された改正電帳法では幾つかの重要な改正項目がある。項目ごとに”認知度”を調査したところ、「電子取引データを電子データのまま保存することの義務化」(77.0%)と「タイムスタンプ要件の緩和」(53.3%)、「不正に対する罰則の強化」(50.3%)が上位に挙がった。一方、「知らない」が半数を超えたのは「適正事務処理要件の廃止」(64.8%)や「検索要件の緩和」(58.2%)、「事前承認制度の廃止」(54.5%)の3項目だった(図1)。

図1 改正電帳法”改正項目”ごとの認知度

 相互けん制や定期的な検査、再発防止策の社内規定の整備といったスキャナ保存時に注意すべき「適正事務所利用権が廃止」されたことや、電子的に作成した国税関係帳簿を電磁的記録により保存する際必要だった、税務署長への「事前承認制度の廃止」については、対応部門が限定的になるためか全体の認知度としては低い傾向にあった。一方で、自社が発行した書類も含め「電子取引データを電子データのまま保存することの義務化」など、大多数のユーザーが関係する項目については認知度が高かった。

 特に、電子取引データのデータ保存義務化については、電子メールに添付された領収書やクラウドサービスを介して取り交わされた電子契約や電子請求書、ペーパーレスFAXなどで受け取ったPDFファイルなどは「データ状態での保存」が必要としているため影響範囲が大きく、対応の難しさが指摘されてきた。 

 そのため、22年1月の施行から24年1月までの2年間、一部規定で宥恕(ゆうじょ)措置が設けられた他、令和5年度税制改正大綱では電帳法が求めるやり方で保存できなくても「相当の理由」があれば「猶予」するという内容が記されるなど、猶予措置が盛り込まれている。

 企業では現時点で取引書類や決算書類をどのように取り扱っているのだろうか。22年調査では、「紙に印刷してファイリングしている」や「全て紙で運用している」など、紙で運用や保存をしている割合がデータ保存の割合を上回っている項目として「取引先から受領した取引関連書類」(44.8%)、「決算関連書類」(33.0%)、「国税関係帳簿」(31.4%)の3項目が上がった。しかし、今回の調査ではいずれも「取引先から受領した取引関連書類」(37.0%)、「決算関連書類」(31.8%)、「国税関係帳簿」(27.8%)といずれもデータ保存の割合を下回り、前年数値よりも低いポイント数だった(図2)。

図2 書類や取引情報の取り扱い、保存方法

 一方、「EDIや電子契約SaaS、メールなどで取引したデータ」は「データで運用して紙で保存」している割合が11.4%ある。22年の割合は16.1%だったため4.7ポイント削減したことになるが、「電子取引データを電子データのまま保存することの義務化」に対応する難しさが見てとれる(図2)。

 電子取引のデータ保存に際しては「真正性」と「可視性」の確保が要件として規定されている。「真正性」ではデータの訂正や削除を記録(または禁止)するシステムや訂正・削除の防止に関する事務処理規定が必要になる。一方「可視性」では該当データをすぐに確認できるよう検索機能を確保する環境整備が必要になる(自社開発システムでは電子データを保存するシステムの概要書も必要)。

 こうした要件をどのような方法で満たすかを聞いたところ、図3のような結果になった。あらたにシステムを導入するとした企業は31.8%で、既存のシステムあるいは既存の業務フロー変更で対応するとした企業は69.8%だった。

「真正性」と「可視性」の確保の要件を満たす方法

改正電帳法に対応しきれない企業が直面する4つの課題

宥恕期間の終了期日が迫る改正電帳法だが、企業の対応状況はどうか。

 「既に対応済み」(23.9%)と「一部対応済み」(28.4%)を合わせ52.3%が対応済みだ(図4)。一方「対応を予定中」(21.0%)や「対応の予定はない」(5.1%)を合わせて約3割が未対応と回答した。

図4 改正電子帳簿保存法への対応状況

 改正対応の難しさはどこにあるのだろうか。「対応済み」(一部含む)や「対応を予定中」とした回答者を対象に「改正に伴う混乱や課題があったか」を調査したところ、約4割が「ある」と回答した。その内容をフリーコメントで募ったところ次の4つの課題が見えてきた。

 1つは「対応人材の不足」だ。「対応できる人材の確保が困難」や「総務課主導で対応しているためサービス選定に苦慮している」「経理部門に任せているが、業務フローの煩雑化と取引先の対応状況に合わせるのに時間が必要」など、対応事項の整理から具体施策を検討、実施するまでを担当する部門や人材の確保がしづらいという声が挙がった。

 2つ目は「社内体制構築の難しさ」だ。「従業員教育に手がかかる」や「紙文化であるためにSaaSを導入してのフロー変更に混乱している」などの声が挙がった。その他「業務フローなどの変更が必要だが、社内全体への体制作りおよび改正対応の理解が浸透できていないため説明会などを開いて今後の動きを決めて行く予定」という回答もあり、対応には綿密な計画と進捗管理が重要になりそうだ。

 3つ目は「システム対応の難しさ」で「取引先とのシステム連携がうまくいっていない」や「全ての取引先が電子化に対応できていないので、一部は紙または紙を電子化(PDF)して対応することが残る」といった意見があった。さらに4つ目は「予算不足」に関する課題で「システム改修の費用がない」や「実務手順を構築する時間とコストが必要だが手がまわっていない」「会計システムなども全て対応しなければならないため、充足するための対応が難しい」といった困惑の声が多く寄せられた。

 前述したように、現状を令和5年度税制大綱改正によって宥恕措置の内容が改正電帳法の本則に盛り込まれることになり、宥恕措置は2023年末で廃止。事実上”相当の理由がある保存義務者に対する猶予措置”が恒久化されることとなった。

 ただ、こうした情勢を受けて「対応状況に変化があったか」という質問に対して、「はい」と答えた回答者は13.0%にとどまり、「ない」(35.0%)とした回答が上回った。猶予対象となるためには所轄税務署長の認可や関係書類の提出が必要なこと、さらに環境変化への対応や業務効率化、コスト削減などのメリットを考えると、未対応企業においても電子保存への対応を進めるべきといえそうだ。

 以上、前編では2022年1月施行の改正電帳法について、企業の対応状況や対応に伴う課題について紹介した。後編では2023年10月に開始する「インボイス制度」(適格請求書等保存方式)への対応状況について調査結果を基に現状を考察する。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。