AIによって採用シーンはどのように変わるのか、「AI×採用」を謳うサービスはどのような採用支援機能(AIアセスメント機能)を提供しているのか。「AIでできること・できないこと」、AIを採用で活用する際の注意点などを整理する。
「ChatGPT」の登場とともにAI(人工知能)の進化に注目が集まり、ビジネスでの活用に期待が集まっている。その適応領域の一つが人事業務、特に「採用」のシーンだ。しかし、採用におけるAIの活用はさまざまな議論を呼ぶテーマでもある。
そこで本稿は、米国発のAI面接ツール「HireVue」の日本版を販売するタレンタで専務取締役を務める中村 究氏に、AIによって採用シーンはどのように変わるのか、「AI×採用」を謡うサービスはどのような採用支援機能(AIアセスメント機能)を提供しているのか、また「AIでできること・できないこと」、AIを採用で活用する際の注意点などを聞いた。
人材獲得競争がますます激化していることを背景に、最近では「人材採用」(Hiring)という用語は廃れ、新たに「人材獲得」(Talent Acquisition)という用語が浸透し始めた。
採用早期化の中、企業は選考のスピードアップと採用品質の両立が求められている。一方、人事部門の業務効率は低い傾向にあり、優秀な学生と向き合う時間を確保できていないという問題がある。
さらに、学生の意識向上とともに選考の公平性や透明性に対する要請も高まり、面接官によって採用の質が異なることは社会的な問題になっている。特に日本の大企業においては、優秀な従業員が面接官を担当し、自分と似た学生を採用する手法がとられてきたが、戦略に妥当性がある一方で、人材の多様性を損なう時代遅れの手法として捉えられることもある。
こうした課題に対し、人事部門の限られたリソースで優秀な人材を獲得するための助けとして、AIが期待を集めている。
中村氏によれば、AIが採用部門向けの業務アプリケーションに本格的に使われ始めたのは、2020年ごろからだ。
採用におけるAIの活用は、「HRテック」の文脈で進化してきた。近年は、経営における人事の役割が重要度を増し、人事業務の効率化とともに、人事データの管理や活用の高度化の機運が高まっている。2023年3月末の決算から、東証プライム市場に上場する企業は非財務情報として人的資本管理に関する情報を開示することが義務化されたことも、その情勢を表しているといえる。
ただ、HRテックの中でもAIの利用は、「採用」の分野に集中しているという。AI技術の中でも、深層学習は査定のプロセスがブラックボックス化して説明責任を果たせなくなるため、採用分野では基本的にパラメータ「特徴量」を人間が指定するML(機械学習)の利用が進んでいる。
さらに、利用できる教師データの量が少ない場合や、人事評価のように人間のバイアスが含まれている場合、そのデータの収集や活用方法が個人情報保護の法律やガイドラインに抵触する場合もAIの適応が難しくなる。ある企業が、自社で独自に開発したAIを給与査定に利用し、従業員が訴訟を起こした事例もあった。
そうした中で採用の分野は、社会人生活を送る上で“活躍し得る”人材の特徴を洗い出し、教師データを作成することで、少なくとも選考の一部には利用できるとしてさまざまなサービスが登場している。これらが提供するAIアセスメント機能は以下の4つに分類できる。
1は、エントリーシートをAIで分析し、必要な内容を満たしたESであるかを判定するものだ。4つの中では比較的安価で、最低レベルチェックには適していて、一次選考時のスクリーニングにかかる時間を短縮できる。一方で、ESの文章は多くても数百文字程度なので候補者の差が出にくいという課題がある。
2の適性検査については、SPIのような適正試験の分析にAIを用いて、その結果が妥当かどうか、不自然さがないかを判定するものだ。企業が求める適性とのマッチングをスコア化し、選考の精度を上げられる。
3は、人間による面接の代わりにオンラインの対話型AIが面接を代行し、候補者とチャットでやりとりする。その内容を専門家が分析して企業に納品し、最終的に採用担当者が判断する際の材料にするというサービスもある。
4は、録画面接のAI分析だ。企業があらかじめ用意した質問を、候補者がオンラインで口答する。その録画データをAIで分析し、幾つかの性格特性について候補者の資質をスコア化し、求める人材かどうかを判断する。教師データありの機械学習を使用するため、AI面接、デジタル面接とも呼ばれる。
企業はAIアセスメント機能をどのように活用できるのか。タレンタが国内で提供するHireVueを例に説明する。HireVueは、Web面接を提供するサービスとして始まり、現在は録画面接のAI分析(AI面接)をはじめとするAIアセスメント機能などを内包している。
候補者は、PCまたは専用のスマホアプリでHireVueの応募企業のページにアクセスする。動画による企業説明や操作説明が流れた後、面接の練習をして、本番の録画面接に臨む。
録画面接では、企業が用意した3つの質問について、候補者は各3分間、PCまたはスマホのカメラに向かって口答する。その後、IQゲームを解き、性格テストとして、2つの画像のうちどちらを選ぶかという問題を数十問答えると審査が終了する。全体にかかる時間は23分程度だという。
この課程で、AIがどのように使われるのか。録画面接においては、自然言語解析によって候補者の話の内容を分析し、話す速度や間の取り方、文法や単語の選択、論旨構成といった話し方、話の内容から「コミュニケーション」「達成意欲と主体性」「学習能力」「状況適応力」「チーム志向」「信頼性」「ストレス耐性」といった行動特性を評価する。
ちなみに、2016年〜2019年ごろのAIアセスメントは、話者の表情を顔の筋肉の動きから分析し、熱意を評価する機能も搭載していた。しかし、表情のいい悪いが仕事の能力には関係しないという見解から、欧米では倫理規制によって使用を中止したという。現在は、話し方とその内容から評価する方式に落ち着いている。
IQゲームでは、計算能力や空間視覚能力、思考の機敏さ、理由付けといった認知能力などを判定する。また性格検査は、2つの画像の比較を繰り返すことで、心理学でいう開放性、誠実性、外向性、協調性、精神安定性の「ビッグファイブ理論」を測定する。
HireVueは、この3つのテストの結果を基に、各行動特性を5段階で評価した結果、それを基にした自社の応募者母集団における100段階評価値、応募者に対するフィードバックという3種類のアウトプットを出す。これらをまとめたレポートは、テスト終了から約7分後には人事担当者の元に届く。
この情報は、二次選考に候補者を進ませるかどうかの判断材料にできる。その精度について、タレンタではAIによる判断と、人間の面接官による判断との比較実験の結果、両者は90%以上の一致率を示したと発表している。ある製造業企業においては、内定者のほぼ全員がスコア上位層の67%〜99%から出ていた。さらに、上位10%は全員が内定を得ていたという。
AIアセスメントによって「ハイパフォーマー」と評価された候補者は、どの企業にとっても「ハイパフォーマー」となり得るのか、つまりAIアセスメントが設ける基準はジェネラルだと言えるのかという疑問を持つ人もいるだろう。タレンタでは、AIアセスメントの測定項目が社会人として業務を遂行する際に必要とされるスキルであり、上位の成績を出した候補者は多くの企業で活躍できる資質があると説明している。
採用活動にAIを利用するメリットの一つは採用の効率化だ。タレンタでは、HireVueの効果について、採用担当者の工数を50%〜75%ほど削減できると発表している。
人気企業では毎年数千、数万のエントリーシートから候補者を絞り込む。採用担当者はその審査に多くの時間を取られ、場合によっては一人一人の評価に十分な工数をかけられない場合もある。AIの分析によって一次面接を省力化できれば、二次面接以降、採用担当者は応募者の動機付けや社風との相性を確認することに多くの時間を割けるようになる。
人の判断に介入する主観を排除できることもAIアセスメントのメリットだ。人による書類審査や面接は、評価者の裁量に一任されることが多く、「出身大学が同じだから」「何となく話が合うから」といった理由で採用が決まるケースもある。AIの導入は、属人的な評価基準を廃すことにつながると考えられる。
一方、候補者には、ESやグループインタビューでは出せない自分の思いをビデオで企業に伝えられること、合否にかかわらず、本人の内在的特徴、強み・弱みなどの分析結果のフィードバックを受けられることが好評だという。
AIアセスメントの利用時は、AIの測定範囲が限定的であること、人間の目で確認すべき項目があるということを留意しなければならない。HireVueの場合、AIで測定する範囲は、話し方や話の内容、行動特性に限られ、表情やふるまい、志望動機、専門的なスキルに関する知識、固有の採用基準は人が判断する必要がある。AIによる測定結果は、あくまで判断内容の一部でしかなく、それらを基に人が最終判断を下すことが重要だ。
その他、採用プロセスが法規制やガイドラインに抵触しないかを確認することも求められる。AIの利用に関するルールは、国内でも現在進行形で整備が進んでいる状況で、継続的に情報のインプットが必要な分野だ。参考までに、米国の連邦政府が作成した「AI倫理ガイドライン」は、AIを使った採用支援ツールの使用時に注意すべきことをまとめている。これによれば、企業は候補者に対して、「採用プロセスにAIを使うこと」「それによって何を評価するか」を事前に通知して許可を得る必要がある。雇用主は、AIが仕事に必要な能力だけを測定していることを確認すべきとも記されている。
さらに、同ガイドラインでは、第三者機関からのバイアス監査を定期的に受診しているサービスの利用を推奨している。前述したように、人事データは必ずしも「ビッグな」データとは言えず、人のバイアスが多分に含まれているというリスクも付随する。
表情分析を行う録画AI面接を利用した例では、同じ候補者がラフな服装の時よりも、スーツを着ていた方が高いスコアを得たケースがあった。これは、教師データのハイパフォーマー候補者の多くがスーツを着ていたことに起因する可能性が高いという。面接時の背景も雑然とした部屋よりも本棚のある書斎の方がスコアが上がったという報告もある。
自社の人事データを利用して学習モデルのチューニングを行う際には、バイアスをなるべく排除できるように外部の監査を入れるべきだと中村氏は話す。
AI採用サービスをどのように選ぶべきだろうか。まずは、前述したAIによるアセスメント機能の4パターンを認識して、自社の課題に合った方向性を探ることが重要だ。
製品選定時には、システムの安定性やセキュリティ、対象とする企業規模のボリュームゾーン、他言語対応といった一般的な要件の他、その製品がどのアセスメント機能を提供しているのか、AIが分析する対象は表情や雰囲気、話の中身、行動特性のどれか、といったこともチェックすべきポイントになる。
デジタル技術が企業の採用プロセスを根本的に変えようとしている。とはいえ、全てをAIが判定できるわけではない。採用担当者は人間とAIの得意領域を見極め、AIのメリットを生かすことで、採用業務の効率化と精度の向上を両立できるはずだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。