IntelがAMD製品のある点に注目して「これは詐欺だ」と非難した。いきなり、なぜそんなケンカを売るようなことをしたのか?
長年CPU製品を市場に送り出してきたIntelとAMD。良きライバルでありながらも、技術の標準化において協力関係にある両社。製品の性能を比較することはあっても、これまで互いを罵り合うような関係ではなかった。
だが、IntelがAMDを公式に非難したとして話題になっている。しかも、その中で過激な言葉も使われたとか……。一体、両社の間に何があったのか?
IntelがAMDに対して「Snake oil」と罵ったことが始まりだった。これは、19世紀終盤から20世紀の初頭にかけて米国で使われていた言葉なのだそうだ。Snake oilとは効果がなかったり、効果を大げさにうたったりしている薬品や治療法のことを指し、そこから転じて「インチキ」「詐欺」といった意味を表す言葉として使われている。
Intelは2023年12月4日に「Core Truths」と題したスライドを自社のWebサイトに公開した。Snake oilという表現で直接的にAMDを攻撃したことが幾つかのメディアに取り上げられ、話題になった。
そもそも、なぜIntelはAMDを批判したのだろうか。Core Truthsを取り上げたメディアの一つ「Tom's Hardware」の記事によれば、スライドの主題はAMDがノートPC向けに開発し、2023年に発売したCPU「Ryzen 7000シリーズ」の一部製品を非難するものだという。
「Core Truths」の中で、Intelは最新の「Ryzen 5 7520U」に触れた。同社は「同製品はRyzen 7000シリーズのモデル名を冠しているにもかかわらず、2019年に開発された『Zen2アーキテクチャ』を搭載している」と指摘し、AMDが高性能をうたうシリーズの中に古いアーキテクチャを採用した製品を混ぜて販売していると批判した。
このときに「Snake oil」という表現が使われた。つまり「Ryzen 5 7520Uはインチキ製品だ」という主張だ。Intelはスライドの中で、製品のネーミングスキームについて指摘した。
Intelは「Ryzen 5 7520U」の製品名に含まれる「7520U」の3桁目の「2」という表記に注目した。これは「Zen 2アーキテクチャ」を採用していることを意味する数字だ。例えば「Ryzen 5 7640U」の「4」は「Zen 4アーキテクチャ」を示す。
本来であれば、このアーキテクチャを示す数字でその製品が最新であるかどうかが判断されるべきなのに、1桁目の「7」によって「これが最新のテクノロジーを採用していると消費者に誤解を与えかねない」というのがIntelの主張だ。また、Intelは「Ryzen 5 7520U」と同時期に販売された自社の第13世代CPU「Core i5-1335U」のベンチマーク結果を公開し、自社の「Core i5-1335U」が「Ryzen 5 7520U」よりも高性能であることを示した。
このIntelの主張を目にしたTom's Hardwareをはじめとする多数のメディアは「同じことをIntelもやってるじゃないか」と総攻撃した。また、Tom's Hardwareは記事で「Intelの第13世代CPU『Raptor Lake』シリーズは、一部の製品で第12世代CPU『Alder Lake』の設計を再利用している」と指摘した。
Tom's Hardwareは「こうしたことはCPUメーカーの生産効率を最大化する手法として当然のことだ」と述べ、さらにIntelが最新の第14世代CPU「Raptor Lake Refresh」シリーズについても「前世代の第13世代CPU『Raptor Lake』と比較すると、特筆すべき改善がない。ただのリネーム製品だ」と指摘する。
Tom's Hardwareは「Intelの主張は偽善的だ」と厳しく評価した。他の多くのメディアもこの件を「Intelは自分の戦略は棚に上げて、AMDを非難している」とほぼ一致した意見を述べた。これを受けてかどうかは不明だが、Intelは当該スライドを削除した。すでにその子細を確認することはできない。
まさに「人のふり見て我がふり直せ」を体現したような今回の騒動。Intelも思うところがあって過激な表現を含んだスライドを公表したのだろうが、効果がなかったどころか、世間にマイナスの印象を与えてしまったのかもしれない。
上司X: あのIntelがAMDをディスるようなスライドを作成してWebサイトにアップした、という話だよ。
ブラックピット: Core Truthsってタイトルもなんか恣意(しい)的ですけど、なんと言っても「Snake oil」ですか? 聞いたことのないディスり文句ですけどね。
上司X: 1800年代後半ぐらいの米国に「Snake oil」っていう漢方薬的なモノが中国から伝わったんだそうな。輸入された本物は本当に効いたらしいんだが、米国内ではそれをテキトーに作って、毒にも薬にもならないオイルを売って詐欺的な商売をする輩が横行したんだと。
ブラックピット: なるほど。伝統的な「インチキ」のスラングってことですね。
上司X: まあ、そこはいいとしてだ。今回のIntelの主張だよ。
ブラックピット: 最新のCPUのラインアップに古いアーキテクチャを採用したモデルを入れるな、それをネーミングでごまかすな、ということみたいですけど。
上司X: その指摘はある意味正しいのかもしれないけど、自社でも似たようなことをやってるという認識が薄かったのか。
ブラックピット: いわゆる「おまいう」案件ですよね。多くのメディアもそういう反応でしたし。スライドをサクッと取り下げてしまったのもなんだか……。
上司X: しかし、CPUのモデル表記ってその理屈を知ってる人には理解できるし理論的なのだろうけど、知らない人にとってはただの数字の羅列だもんなあ。数字が大きい方が新しくて高性能ぐらいの認識だろうし。今回の騒動でその認知も深まれば良いのかもしれないな。
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