ERPは組織を支えるバックボーンだ。しかし適切にメンテナンスしなければ、事業環境の変化に追いつけず、十分なメリットを引き出せなくなる。メンテナンスのヒントを5つ紹介する。
ERPは組織を支えるバックボーンとして機能している。ERPをうまく活用できていれば、経営資源を経営判断に生かすことができ、顧客満足度の向上や意思決定の改善などに役立つ。
企業が持つ他のミッションクリティカルなIT資産と同様にERPも定期的なメンテナンスが極めて重要だ。ERPを立ち上げて稼働させるまでに多くの時間と資金を投じただろう。そうして構築したERPの投資対効果を最大化し、スムーズに稼働させ続けるには、将来のことも考えながら健全性を維持する必要がある。
データの品質とパフォーマンスは時間の経過と共に低下していく傾向がある。「業務の要件が変わる」「社外アプリケーションの導入や廃止によって新たな統合要件が生まれる」「新たなサイバーセキュリティ脅威が登場する」──このように絶え間なく変化する環境では、先を見据えたメンテナンス計画が必要だ。
他方で、ERPベンダーも自社製品のアップデートや機能追加で、プロセスの合理化やサービス品質の向上、コスト削減を実現する機会を生み出している。業務要件の変化に応じてERPの機能を定期的に見直すことは全面的な保守計画の貴重な構成要素だ。
ERPのメンテナンスに関するヒントとベストプラクティスを幾つか紹介する。
何よりも必要なのは、ERPが適切かつ確実に稼働しているかを確認することだ。技術的な仕様や制限を確認できる計画書を作成し、どのような潜在的問題が表面化しても先手を打てるようにする。
例えば、ERPはディスク容量が不足しそうになると正常に機能しなくなる可能性がある。最悪のシナリオは問題が起きてからその事実を知ることだ。特に問題が業務活動のピーク時に発生すると大変なことになる。
セキュリティパッチの適用を怠っても危機的状況に陥る可能性がある。現在、中小企業を狙うサイバー犯罪者が増え、ERPデータベースがランサムウェアの格好の標的になっている。定期対応と問題が起きそうな領域のチェックリストに従って作業していれば、怠慢によって発生する悩みの種を回避できる。
ERPは初めて稼働したときと変わらず今も機能しているだろうか。ERPの実装プロジェクトは開始時期と終了時期が明確に定められるのが一般的だ。しかし業務要件は変化し、ERPベンダーはソフトウェアの新バージョンをリリースする。そのため、時間の経過と共にERPの調整を検討する必要がある。
関係者と定期的に話し合い、変わったことがないかを調査する。「新しい業務プロセスが誕生していないか」「既存のプロセスが変更されていないか」「自社にメリットがありそうな新機能がERPベンダーからリリースされていないか」「手作業のプロセスや回避策でスタッフの貴重な時間が浪費されていないか」「社外のシステムが変更され、新しい統合ポイントが必要になっていないか」「準拠しなければならないコンプライアンス基準の施行が迫っていないか」といったことを調べる。
3〜6カ月ごとに部門の責任者に接触してこうした質問を投げかけることで、自社のニーズに合わせてERPの機能をより適切に調整できる。
社内の誰かが、ERPベンダーから提供されるソフトウェアパッチやメジャーバージョンへのアップグレード、今後リリースが予定されている機能に関する情報をメールで受け取っている可能性がある。うした情報の多くは自社とは無関係に思えるかもしれないが、詳細を掘り下げてどのような変化が迫っているかを理解するのが重要だ。
セキュリティに関する情報は特に重要だ。特定のテクノロジーや統合のサポート終了が迫っているという通知も同じく重要だ。こうした情報を把握することで対策を講じる時間を十分確保できる。
当然だが、ERPのデータは1日1回以上バックアップすべきだ。また、こうしたバックアップがいざというときに役立つことを理解する必要がある。
数週間以上前の状態に復元する必要がある場合に備えて、古いバックアップも維持する必要がある。ランサムウェアは長期にわたって検出されずにデータベース内に潜んでいることもあり、最新バックアップでは役に立たない可能性がある。
多くの企業にとっては災害復旧(DR)も重要な検討事項になる。洪水や火事、破壊行為などのインシデントによってシステムが機能しなくなった場合、どうすればいいだろうか。DR計画を策定して定期的にテストし、必要なときに適切に機能するようにすべきだ。
自身が担当する業務は自身や社内チームが一番知っている。しかし、ERPに関してはそうとはいえない。大半のERPは複雑で、常にERPに専念している社外の専門家のほうがERPの機能を把握しているだろう。
ERPの変更を常に把握し、自社の業務要件に合わせてシステムを調整し、新しい価値を生み出すのに十分な能力を自社で賄える企業も多い。
しかしそのような場合でも、専門知識を有するサードパーティーのコンサルタントに支援を要請する方が理にかなっている場合はある。ERPサービスパートナーと強力な関係を築き、サービス品質保証(SLA)の履行に関して豊富な実績を持つ企業を探すのがいい。
純粋なクラウドERPを運用している企業にとっては、本稿で挙げたメンテナンス作業の幾つかは当てはまらないかもしれない。例えば、従来のオンプレミスシステムやホスト型システムならハードウェアの規模を定期的に見直すのが適切だ。
バックアップがクラウドERPサブスクリプションの一部として提供される場合もある。ただし、バックアップされているから安心だと思い込まないようにする。これらのバックアップがスケジュール通りに実行され、必要なときにバックアップを引き出せるという確信を得ておく必要がある。
データのバックアップやデータベースの最適化、機能の定期的な見直しといったメンテナンス作業は、ERPのメリットを最大限に高め、パフォーマンスを最適化してシステムダウンを防ぐのに役立つ。ERPのメンテナンスで重要なのはソフトウェアをただ稼働させ続けることではない。肝心なのは、絶えず変化する環境下でERPが業務を常にサポートするよう維持することだ。
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