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スプレッドシートの顔をしたノーコードツールは日本企業を救うか

スプレッドシートのようなUIを基本に、ノーコードによるプロセス自動化の機能や共有機能を持った「Smartsheet」が日本に上陸した。米国では熱狂的な人気を誇り、日本でも早速引き合いがあるというが、どのようなツールなのだろうか。

» 2024年03月11日 08時00分 公開
[指田昌夫キーマンズネット]

 Smartsheetは、2005年に米国ワシントン州ベルビュー市で創業した、ソフトウェアベンダーだ。プロジェクト管理プラットフォーム「Smartsheet」を中心に、その機能をサポートするツールを提供している。Smartsheetのユーザーは世界190カ国、1300万ユーザーに達し、「Fortune 500」企業の85%が導入しているという。ITをはじめ、建設や金融、マーケティング、コンテンツ制作など、幅広い業種で利用されている。

 Smartsheetは、スプレッドシートのようなUIを基本に、ノーコードによるプロセス自動化の機能やクラウドサービスならではのきめ細かい共有機能などを特徴とする。日本法人が立ち上がったのは2023年だが、使い慣れたUIや関数をそのままに情報のサイロ化やブラックボックス化、業務プロセスの複雑化といった日本企業の課題を無理なく解決できるとして引き合いが増えている。

 2024年2月の事業戦略説明会に合わせて米国本社から来日したマーク・メーダー氏(CEO)と日本法人Smartsheet Japanの社長執行役員である嘉規邦伸氏にSmartsheetを導入するメリットや他社製品との違いを聞いた。

大林組も利用するスプレッドシートライクなノーコードツールは日本企業を救うか

Smartsheet マーク・メーダー氏

 メーダー氏は、今後の同社の事業成長にとって日本市場は戦略上極めて重要なマーケットであるとし、嘉規氏の下、2024年から本格的に市場開拓を開始することを表明した。すでに米国本社と直接契約して利用している日本企業として大林組が挙げられる。

 Smartsheetは、普段から使い慣れたスプレッドシートに似たシート状のインタフェスを基本に、そこで蓄積された情報を複数人で効率的に共有、編集するプロジェクト管理プラットフォームだ。シートの情報はデータベースに格納され、ガントチャート形式やカンバン形式などに視点を切り替えて表示できる他、レポートやダッシュボードで可視化できる(図1)。マネジャーが未完了のタスクを可視化して戦略の意思決定に使うといったユースケースが考えられる。

図1 ポートフォリオダッシュボード画面(出典:Smartsheetの提供資料)

 特徴は何といってもそのインタフェースにある。普段使い慣れたシートのUIや機能をそのまま踏襲していることで、ユーザーは迷いなく利用し始められる(図2、3)。

 社内外での情報共有のしやすさにも配慮がある。アカウントを持たないユーザーに対してコラボレーター権限を与えることで、社内/社外を問わずコメントや情報の閲覧を許可できる。メンバーから効率的に情報を収集する「フォーム」機能も特徴的で、フォームで入力された情報を自動でシートに反映させることも可能だ。

 情報の受け渡しを自動化するワークフロー機能をはじめ、情報の編集や加工を自動化する機能も搭載されている。これらは無料のテンプレートが公開されていて、ユーザーはテンプレートをノーコードで設定、組み合わせることで、オリジナルのアプリケーションを構築できる。

 その他、「Salesforce」や「Box」といった他のクラウドプラットフォームとAPI連携し、より広範囲な業務プロセスの統合や効率化が可能だ。

 メーダーCEOは、業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)におけるSmartsheetのメリットについて、非IT人材である事業部門の従業員がセルフサービスでIT化を進められることで、IT部門がカバーしきれないデジタル化の要望を素早く実現できることを強調した。

 「多くの企業が、テクノロジーで解決しようと思っている以上のことをやらなければいけない現状があります。予算や時間には限りがあります。IT部門に関していうと、それは『ITリクエストのバックログ』という言葉に象徴されます。バックログとは積み残しの意味です。多忙なIT部門に社内から寄せられるリクエストは、どんどん遅れていきます。それを解消し、効率よく管理するためにSmartsheetが使われているのです」(メーダーCEO)

図2 ExcelライクなUI(出典:Smartsheetの提供資料)

マクラーレンF1レーシングチームの生産性を向上

 Smartsheetは、企業でどのように使われているのか。メーダーCEOは、米国のある映画会社の事例を紹介した。その企業では、映画の制作スケジュールの管理や映画の公開に合わせたプロモーション計画、宣伝予算の管理にSmartsheetを活用し、同時進行の映画プロジェクトを効率的に進めている。制作プロセスと社内リソースを単一のプラットフォームで管理できる点を評価している。

 また、マクラーレンF1レーシングチームはSmartsheetとともに「Brandfolder」というデジタル資産管理機能を利用している。

 F1マシンの車体には、多くのスポンサー企業のロゴが貼り付けられているが、スポンサー側のエージェントは、自社のロゴが写っているマシンの写真を宣伝などで使うため、チームに写真を要求する。それを受けたチームのマーケティング担当者は、その都度依頼のあった企業のロゴがきれいに写っている写真を探して、必要な点数を送らなければいけない。これまで、担当者は多数のスポンサーから頻繁に送られてくる問い合わせの対応に追われていた。

 「マクラーレンの画像コンテンツは、全てSmartsheetのBrandfolderに管理されています。クライアントから来たリクエストは、Smartsheetのアプリを介して担当者に通知されます。担当者がアプリで検索すると、Brandfolderに保存されている数千枚の写真から、AI(人工知能)がクライアントのロゴが写っているものを抽出し、アプリケーションを通じてすぐに送れます。マクラーレンチームは、2023年に最も多くのスポンサーを集めたF1チームでしたが、Smartsheetを活用することで、人員を増やさずクライアントの要求に応えられました」(メーダーCEO)

小さくはじめてスケールアップできる 中堅・中小企業にもフィット

 米国を中心に多くの企業の生産性向上に寄与してきたSmartsheetだが、日本企業の課題にもうまくフィットすると嘉規氏は話す。

Smartsheet Japan 嘉規邦伸氏

 「多くの企業は、情報がサイロ化して『何が最新の情報か分からない』状況に陥っています。これによって、情報のリレーに時間がかかったり、無駄な進捗(しんちょく)管理が発生したりしているケースをみてきました。こうした非効率な状況に対して有効なソリューションがあるにもかかわらず、改善をせずに放置するのは、いわばエレベーターが設置されているのに使わないことと一緒です」

 タスクやプロジェクト管理のためのSaaSは、日本でも浸透しつつある。先行するそれらの製品と比べて、Smartsheetの特徴は何か。メーダーCEOは次のように語る。

 「タスク管理に特化したシンプルなSaaSや、より大規模なプロジェクトに対応できる高価なクラウドサービスは存在します。対してSmartsheetの特徴は、我々が『ランド&エクスパンド』と呼んでいるように、小さな領域から始めて、利用を拡大できることです」

 Smartsheetは小さなチームで導入して、部署、全社、顧客やパートナーを含む組織にまで適応範囲を広げる際、セキュリティやレスポンスに問題が生じないような仕組みを備えている。こうした機能と性能が支持されて、海外では多くのユーザーを獲得してきた。

 ライセンス価格がリーズナブルであることもスモールスタートを後押しする。ビジネスライセンスの場合、1ユーザーあたり月額約3000円から利用でき、ノンライセンスユーザーもアクセスできることでライセンス価格をおさえられることが大きな特徴だ。大手企業だけでなく、中堅・中小企業からの引き合いも多いという。

 グローバルで拡大する大手のSaaSベンダーは現在、業種別ソリューションに力を入れている。Smartsheetは、医療や建設業界などで支持を集めつつあるが、業界特化型の垂直なテンプレートを強化する方針は打ち出していない。むしろ、どの企業にもある定型業務など、水平方向への取り組みを強化している。

 「Smartsheetが導入されている企業を業界別に見ると、最も多いのはテクノロジー業界ですが、そのシェアは15%です。それだけ、幅広い産業で使われています」(メーダーCEO)

 嘉規氏も、「Smartsheetの特徴は、業務別のユースケースに基づいたテンプレートを豊富に備えていることです。IT部門の担当者は、さまざまな職種の従業員からの問い合わせに合わせて、ぴったりとフィットしたプロセス自動化のテンプレートを紹介することができます。IT部門の負担を増やすことなく、分断していた業務をSmartsheetという共通基盤の上で進められます」と説明する。

 Smartsheetは日本市場への本格進出に際して、販売代理店による100%間接販売の方針を打ち出している。その第1弾として、SB C&Sとディストリビューター契約を結んだ。今後は全国のSB C&S拠点を通じて、その先の販売パートナーに対してSmartsheetの特徴を伝え、販売を支援する。

 使い慣れたツールへのこだわりが強い日本市場に対して、使い慣れた表形式のインタフェースの顔を持ちながら、情報のサイロ化やリレーションの無駄といった課題を解決し、強力なプロジェクト管理と業務プロセスの統合、自動化の機能を提供するSmartsheetへの期待が高まっている。

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