ダスキンは、ノーコード開発ツールで内製化体制を構築し、会計システム周りの業務の標準化やペーパーレス化、電子帳簿保存法対応を一気に成し遂げた。担当者が3つの成功の秘訣を語った。
ダスキンは、清掃・衛生用品のレンタルや販売、役務サービスを提供する訪販グループと、ミスタードーナツを運営するフードグループの2つの事業を展開する企業だ。
会計システム周りの業務の効率化が課題だったが、非IT人材が自らノーコード開発ツールを利用して業務の標準化やペーパーレス化を成し遂げ、電子帳簿保存法の対応も実現した。システム構築を内製化したことによるシステム構築費用の削減など、定量的な効果も上げたという。現在は、取り組みの範囲の拡大を検討、実施している最中だ。ダスキンの沼波昭男氏(シェアードサービスセンター部長)が現場主導のデジタル化のコツについて語った。
ダスキンは従来、本社各部門でオペレーション機能が重複しているという課題を抱えていた。オペレーション機能を一部門に集中させるために2019年にシェアードサービスセンターを設置し、「シェアード化推進計画」に則って進めている。これは3つのフェーズから成る。フェーズ1から2にかけて、グループ全体で複雑化していた会計システム周りの業務を標準化し、紙ベースで進めていたプロセスはノーコード開発ツールでデジタル化してきた。
「従来利用していた会計システムはスクラッチ開発したもので、業務が標準化されていないなど多くの課題がありました。解決の方針として、業務フローを標準化し、入力の手間やミスをなくすために入力インタフェースの整備をしようということになりました。電子帳簿保存法やインボイス制度への対応も急務でした」(沼波氏)
当初の構想は、以前から利用していた「ワークフロー」をベースに、請求書管理などを行う別システムを取り入れるというものだった。しかし、システム間の転記作業などで手作業が発生することや、マスター連携や複数仕訳、請求書以外の保存要件に対応できないといった課題が発生した。この構想は整備が難しく、急いで次の案に向けて動き出した。沼波氏は経緯を次のように語る。
「情報システム部門に相談したところ、工数を考慮してシェアード部門だけで導入できるツールを検討した方がいいとのアドバイスを受けました。そこで、ノーコード開発ツールの検討を開始しました」
製品選定時は、操作性の高さや、シェアードサービスセンターの非IT人材でも開発できること、グループ横断での利用や電帳法に対応しているといった観点でさまざまなツールを検討し、最終的に「SmartDB(スマートデービー)」を採用した。
SmartDBを導入後、早速幾つかの業務のデジタル化に着手した。その一つが支払依頼業務だ。紙の伝票を使った業務フローで担当者の負荷が高かった。
現場担当者は取引先から受領した請求書を、紙ならスキャン、電子データならそのままの状態でSmartDBに登録する。次に、請求書の内容を基にSmartDBの申請画面で会計情報を追記し、支払申請をする。申請情報は責任者に通知され、責任者が承認する。ここまでが現場のフローだ。
次にシェアードサービスセンターは、現場責任者が承認した内容が会計情報として問題ないかどうかを精査し、承認する。並行して、データは電子帳簿保存法に従って保管される。承認後のデータは会計システムにAPI連携され、銀行のシステムにデータが引き渡されて、支払い手続きが完了する。
入力画面の仕様は、ユーザーの使いやすさを考慮した。入力補助機能を随所に組み込んで手間をできるだけ減らし、支払先などのマスター情報は会計システムのデータをAPI連携で取得した。ユーザーは項目を選択するだけで正しい情報を入力できる。
消費税額は税抜き金額を入力すると、税区分に従って自動計算される。仕訳情報も、API連携で取得したマスター情報から税率を自動で反映する仕組みを作った。また、テスト利用の際に登録したデータをそのままプリセットデータとして活用したことで、項目数の多い経理伝票を一から入力せずに済むようになり、入力の負荷とミスを低減できた。
SmartDBで業務をデジタル化できたことは、伝票入力を担当している現場担当者にも好評だ。
「ペーパーレス化によって、毎月5〜6時間を費やしていたファイリングの時間が4分の1程度に抑えられた」「SmartDBを起点に本店と支店がコミュニケーションをとれるようになった」「SmartDBで伝票1枚1枚にコメントを付けられるので、電話連絡する時間を削減できた」といった声が寄せられている。
プロジェクトの推進にあたっては、以下の3点をポイントに考慮した。
まずは、レベルアップのための取り組みだ。会計システム周りの業務のデジタル化は、難易度が高く初手には向かない。ドリーム・アーツによるハンズオントレーニングなどを受けた後、シンプルな業務の改革からはじめて、徐々に開発のレベルを上げた。
メンバー内で認識の齟齬(そご)がないように、定期的にプロジェクト全体の方針や、SmartDBでの開発方針のすり合わせのためのMTGを設けた。その他、メンバーが同じ場に集まって開発に取り組み、その内容を共有する「もくもく会」を開催して情報共有も活性化できた。このチームミーティングは毎週続けているという。
ポイントの2つ目は、「28(ニッパチ)精神」という開発の考え方だ。これは、2割の時間で8割の完成度を目指すというもの。最初から完璧を求めず、とにかく着手して少しずつブラッシュアップする方法は、「とにかくやってみる」「問題が起こったときがチャンス」という創業者の考え方にも近く、共感をもって開発に取り組めたと沼波氏は話す。
ポイントの3つ目は、SmartDBの認定制度「SCS」(SmartDB Certified Specialist)を使った業務デザイナーの育成だ。同社はデジタル人材の育成に取り組みたいと考えていたことから、人材のスキルを可視化できるSCSは分かりやすい指標になると考えたという。プロジェクトメンバーの全員がSmartDBの基本操作をマスターした人に与えられる「ブロンズ」を取得した。メンバーの中には、よりSmartDBの活用拡大や管理統制の中心人物に与えられる「シルバー」や「サファイア」などの認定を取得した者もいる。
こうした取り組みもあって、SmartDBでアプリケーションを構築し始めてからテストリリースまでに約8カ月、テストリリースから約3カ月で全社への本番リリースを実現したという。
SmartDBの導入効果は幾つもあった。定性効果としては、リスキリングの促進が挙げられる。シェアードサービスセンターのメンバーは経理などのデスクワークに従事していたが、SmartDBを活用することで新たな技能を獲得した。前述の認定制度の取得を推進することで、個人が自ら目標を設定し、それに向かって取り組む機運が高まった。ITの基礎知識を身に付けたことで、メンバー同士の会話も質も変わったという。
メンバーは、プロジェクトを通じて他部署を巻き込みながら業務を進めることを学び、社内のコミュニケーションも活性化した。SmartDBで電子帳簿保存法に対応できたことも大きな収穫だった。
定量効果としては、請求書支払いや振替伝票処理にかかっていた時間を1件当たり15分から10分に短縮し、年間21万件の合計として1万7500時間を削減した。業務のデジタル化によって、紙の伝票のコピー代と保管のための倉庫費用の削減が可能になった。加えて、開発を内製化したことによるシステム構築費用も大幅に削減できたと試算している。
現在はダスキングループ全体で複数の経理業務に、SmartDBの適用を広げている。沼波氏は今後の展望について次のように語る。
「将来的には、経理業務だけでなく全社業務に応用範囲を拡大する計画です。最終目標としては、グループ会社の業務を現場主導でデジタル化できることを目指しています」
本記事は、ドリーム・アーツが2024年2月27日に開催したオンラインイベント『デジタルの民主化DAY』の内容を編集部で再構成した。
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