Windows 11への移行に当たっては事前準備を進めるだけでなく、アップグレードファイルの展開が失敗した時にも備える必要がある。
「Windows 11」への移行を本格的に考えるべき時に来ている。オフィス外で作業をするケースが増えた現在、これまでのように社内ネットワークを介したアップグレード以外の方法も模索しなければならない。ネットワーク帯域の問題や、全台のPCでアップグレードが完了するまでの個別フォローなど考慮すべきことは多岐にわたる。また、PCのリプレースやソフトウェアの更新、入れ替えなどを行うインプレースアップグレードも同時に検討する必要がある。
日本ビジネスシステムズの下山敏弘氏(クラウドマネージドサービス事業本部 エンドポイントサービスセンター アシスタントマネージャー)の解説を基に、Windows 11へのアップグレードをスムーズに完了させるために注意すべきポイントや、理想的なアップグレード方法を解説する。
Windows 11へのアップグレードに際して最も重要なことは、業務が滞りなく進められるかどうかだ。既存端末の調査や利用しているアプリケーションの互換性チェック、検証のスケジュールとリプレーススケジュールの策定、展開後の運用までを考える必要がある。
アップグレードの際に、最低限考慮したいポイントが以下の4つだ。
パッチ管理システムが社内のPCにしか対応していない場合、社外のPCはパッチが未適用の状態になる。VPN経由で展開する方法もあるが、コストがかかり拡張までに時間を要する。
年に1回リリースされる「Feature Update」のファイルは容量が大きいため、展開時に帯域を制限しなければネットワークが圧迫されて通信が不安定となり通常業務に影響を及ぼす可能性がある。
アップグレードに失敗したPCを特定するためには、何台のPCにアップグレードファイルを配信し、何台が失敗したのか。失敗した端末のホスト名や利用者名などの情報を収集する必要がある。展開が完了していないPCが0台になるまで、もしくはPCを対応機種にリプレースするまで再配信を繰り返す必要がある。失敗原因の把握を手作業で対応する場合は、そのPCを利用する従業員に出社を依頼しなければならない。
端末の空き容量などの基本的な内容に加えて、TPM2.0(Trusted Platform Module 2.0)に対応していることやファームウェアとしてセキュアブートが有効になっているかどうかも確認する必要がある。これらの他にも、ファイル配布が度々失敗してしまうことや、端末が起動できなくなるなどの問題もある。
これらの課題を解決する「アップグレードの理想形」について、4つのポイントに絞って解説する。
PCがどこで利用されていたとしてもアップグレードファイルの展開や、パッチを適用できるようにする必要がある。
通常業務に影響を与えないためには、アップグレードファイル展開時に使用するネットワーク帯域を制限することがポイントとなる。これらのコントロールを簡単かつ自動的に設定できることが望ましい。
アップグレードが失敗する可能性も考慮する必要がある。レジューム機能によってファイルを送信途中で中断してしまった場合でも中断した地点から再開できる。リトライ機能によって何らかの要因によって失敗した場合でも自動的に再適用できる。これらの機能が実装されていることが望ましい。
システム要件を満たしていないPCについては、設定変更によって要件を満たした上でアップグレードするか、またはPCをリプレースするかどうかの判断が必要になる。
PCがどこにあってもネットワークを制御しながらファイルを展開し、アップグレードが失敗したとしても再適用などのフォローをすることで適用率を高める必要がある。これをサポートするものとして、下山氏は「Microsoft Intune」(以下、Intune)とJBSの「Managed Endpoint」を挙げた。
IntuneはMicrosoftが提供するMDM(Mobile Device Management)およびMAM(Mobile Application Management)を包括し、PCおよびモバイルデバイスとそのアプリケーションを一括して管理できる。Intuneで設定し、「Windows Update for Business」を介してPCに更新プログラムやアップデートファイルを適用する。
Managed EndpointはMicrosoftが配信するセキュリティパッチの適用や、それらを実施するための設定変更作業をアウトソースするJBSのクラウド型のマネージドサービスだ。アップグレードをアウトソースすることでIT管理者の負担軽減が期待できる。
下山氏はIntuneとManaged Endpointを比較するに当たって3つの課題に着目した。
1つ目はネットワークの遅延やダウンが起きる点について、2つ目はPCのシステム要件の確認、そして3つ目はOSのバージョンや更新プログラムの適用状況が不明な点についてだ。
Intuneがこれらの課題をどのように解決するのか。1つ目の課題については、ダウンロード時の帯域幅を制限することでネットワークの窮迫を解消する。また、P2P(Peer to Peer)の機能を活用して、インターネット通信を行わずに近くのPCからアップグレード用のファイルを取得する。
2つ目の課題に対しては、PCのインベントリ情報を取得して状態を確認し、Windows 11の要件を満たしているかどうかを自動的に判定する。Windows 11にアップグレードできるPCとそうでないPCを把握できる。
そして3つ目の課題に対しては、Intuneで管理しているPCを一覧で確認できる。適用状況を容易に確認できる仕組みになっている。
Managed Endpointは3つの課題をどのように解決するか。1つ目の課題に対しては、リレー機を中心とした送受信の帯域制御を設定することで、履歴単位でIntuneよりもさらに細かい帯域制御が可能になる。
2つ目の課題に対しては、Intuneと同様に端末のインベントリ情報を取得して状態を確認し、Windows 11の要件を満たしているかどうかを自動的に判定する。判定した結果はWebサイトで確認可能だ。
3つ目の課題に対しては、適用状況や未適用状況を一覧で確認できるWebページが提供される。適用率など全体の確認から端末ごとの適用状況までを確認できる。
では、IntuneとManaged Endpointのどれを選択すればいいのか。下山氏は、自社のニーズに当てはまるソリューションを選択できるよう、それぞれの特徴を示した。
下山氏によれば、セキュリティ機能の利用や端末ライフサイクルなどの運用を視野に入れる場合はIntuneが適していて、配信管理システムの運用保守にかかる工数を軽減したい場合はManaged Endpointを選択するのも一つの手だという。
本稿は「Windows 11 の適用率 100% を目指せるアップグレード手法を解説」(主催:日本ビジネスシステムズ)の講演内容を基に編集部が再構成した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。