この2年ほどで、テキストだけでなく画像やソースコードなど、生成AIで多様なコンテンツを生成可能になった。ビジネスでの活用という点ではまだ多くの課題が残るが、徐々に活用フェーズへと移りつつある。読者調査の結果を基に、業務での生成AI活用状況と課題を探る。
IDC Japanの「2023年 生成AIに関する企業ユーザー動向調査(国内と世界の比較)分析結果を発表」によれば、日本企業における生成AIへの投資意欲は、2023年3月と7月を比較すると「生成AIに投資する/している」「検討中」の割合が34.0%から50.0%へと伸び、16.0ポイント増となった。
まだ完全に活用フェーズに移ったとは言えないものの、明治安田生命保険や本田技研工業、アサヒビール、パナソニックホールディングス、中外製薬などの大手企業を中心に徐々に生成AIの活用事例が聞かれるようになったことは、企業の投資意欲向上を裏付けるものなのかもしれない。
キーマンズネットでは2023年に続いて「生成AIの活用意向と利用状況」に関するアンケートを実施した(実施期間:2024年5月24日〜6月7日、回答件数:219件)。本稿では調査結果を基に、利用割合の前年比較や利用している生成AIサービス、業務活用における課題などを紹介する。
キーマンズネットが2023年に実施した調査では、業務やビジネスで生成AIを「利用している」と回答したのは全体の11.6%にとどまった。その割合はこの1年でどう変化したのだろうか。
勤務先で生成AIサービスもしくは生成AIを取り入れた製品を利用しているかどうかを尋ねたところ「利用している」が26.5%、「試験利用中」が16.4%となり、これを合計すると利用を進めているとした割合は42.9%となった。この結果を企業規模(従業員数)別に集計し、それぞれの利用割合を示したものが図1だ。このうち、一部の層で利用の拡大が顕著であった。
1001人を超える中堅企業の半数以上が「利用している」と回答した一方で、1000人以下の企業帯では約3割にとどまった。2023年6月に実施した調査と比較すると、「利用している」とした割合は全体で前年28.0%から14.9ポイント増加した。1万人以上の企業規模では37.6%から67.4%へ、5001〜1万人の企業規模では24.0%から76.5%へと、この1年で大企業層を中心に利用の拡大がみられる。
関連して回答者の勤務先における生成AI活用への関心度合いを尋ねたところ、「大変関心がある」が37.9%、「やや関心がある」が41.1%となった1000人以下の中小企業層でも7割を超えるなど、関心度合いは企業規模で大きな差は見られなかった(図2)。
「(会社では認められていないが)個人的に利用している」(14.6%)が中堅・中小企業に集中していることから、実証実験や業務フロー、運用ルールの整備が追い付いておらず、利用意欲はあってもそこから先に進めない状況にあることが推測される。
次に、生成AIサービスを「利用している」「試験利用中」とした回答者に対して、現在業務で利用しているサービスを選択式(複数回答可)で尋ねた。「ChatGPT」(73.0%)以外では、「Copiot for Micrsooft 365」が39.7%、「Bing」が24.6%と続いた(図3)。
この結果を「利用状況」の結果とクロス集計すると、「試験利用中」とした回答者では「ChatGPT」「Copiot for Micrsooft 365」に続き「Gemini」(旧Google Bard)が、「(会社では認められていないが)個人的に利用している」とした回答者では、「ChatGPT」「Gemini」「Bing」に回答が集まった。
Microsoftは2024年5月に開催された開発者向け会議「Microsoft Build 2024」でチーム作業の生産性向上のための新機能「Team Copilot」を発表した。また、「Google Workspace」にGeminiが統合されるなどの動きもある。今後のベンダーの展開によっては、図3で示した数値が変動する可能性もありそうだ。
生成AIへの期待が集まる一方で、アウトプットの精度やデータセキュリティ、情報ソース、著作権などの不安要素もある。
現時点で、生成AIは業務やビジネスで活用できるレベルかどうかと尋ねた項目では、「未熟であり、活用できるレベルではない」(14.6%)は全体の約1割にとどまり、58.0%が「活用できるレベルである」と回答した(図4)。生成AIサービスは業務に「活用できる」とする見方が大半のようだ。
生成AIサービスを業務で「活用できるレベルではない」とした回答者に対してその理由を尋ねたところ、3つの意見に大別できる。
1つ目はアウトプットの正確性や精度に関する懸念だ。事実とは異なるもっともらしい誤情報を出力する「ハルシネーション」と呼ばれる現象は正誤の判断に影響を与えるため、そこに懸念を示すユーザーも多い。
2つ目は、従業員に生成AIを活用するための知識やノウハウが足りないという声だ。専門人材の獲得やツール教育の整備に懸念を示すコメントが寄せられた。
最後に3つ目は、そもそも活用方法や業務への適用イメージがわかないといった声だ。一部業務への活用はできるものの業績向上につながるかどうかがイメージしづらいとする声もあった。
前編では生成AIサービスの利用状況を概観し、ユーザーが業務で利用している生成AIサービスや業務活用における課題を紹介した。後編では、生成AIを利用している部署、部門や、適用業務など、より具体的な角度から利用状況を見ていきたい。
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