「ビジネスメール詐欺」は企業を主に狙うサイバー攻撃だ。Microsoft Teamsを利用した新しいビジネスメール詐欺が始まった。
「Microsoft Teams」(以下、Teams)は企業で幅広く使われているコミュニケーションツールだ。サイバー犯罪者がメールを利用したTeamsを狙う攻撃を仕掛け始めた。
企業向けメールを狙う攻撃は「ビジネスメール詐欺」(BEC:Business Email Compromise)と呼ばれている。BECとTeamsを狙う攻撃はどのような関係にあるのだろうか。なぜTeamsが危ないのだろうか。
Check Point Softwareのジェレミー・フックス氏(グローバルキャンペーンマネジャー、サイバーセキュリティエバンジェリスト)は、Teamsを利用した攻撃を「BEC 4.0」だとする。
同氏によればTeamsに対する攻撃が目立ち始めたのはここ数カ月のことだという。例えば「Storm-0324 Threat Group」がTeamsを利用してフィッシングやマルウェアのキャンペーンを展開し始めた。
だが、Teamsはまだ主要な攻撃手段にはなっていない。攻撃者はTeamsを利用したアカウント侵害やなりすましなどの従来のBECの手口を利用し始めたところだ。これらの攻撃は従来のBECとは異なるため、フックス氏はBEC 4.0のことを「ビジネスコミュニケーション侵害」とも呼ぶ。ではBEC 4.0はこれまでのBECと何が違うのだろうか。
最初期のBEC 1.0の内容は単純だった。犯罪者はただ単にメールの送信元ユーザーになりすますだけだった。例えば、「Gmail」のメールアドレスを使ってCEOからのメールだとした。詐欺の内容は緊急の依頼が中心で、例えば「すぐにギフトカードを購入してほしい」といった形だった。
BEC 2.0ではメールの送信元のアカウントを侵害し、その送信元からメールを送るというものだった。本人のアカウントから送信されているため、BEC 1.0よりも「強い」詐欺だ。「すぐに銀行口座を変更してほしい」という形が多かった。
BEC 3.0ではフィッシングメッセージを送信するために正規のサービスを利用する。「PayPal」やIntuitの会計ソフトウェアパッケージ「QuickBooks」のような人気のあるWebサイトなどで被害が多かったという。以上のような流れを実際のメール文面で示すと図1のようになる。
攻撃者はどのようにTeamsを利用してフィッシングメッセージを送信するのだろうか。
まずは図2のようなメッセージがTeamsから送られてくる。
メッセージが届いたとき、Teamsにはそれをユーザーに通知する機能がある。そのとき、件名は「××さんがメッセ−ジを送りました」となる。図2では灰色の網掛け部分に「1月のコンテストの当選者に選ばれた。賞品はAppleの『iPhone』だ」と書かれている。
このようなメッセージが知らないメールアドレスから送られてきたり、スマートフォンのSMSに表示されたりした場合、多くの人は「ああ、また詐欺か」と思うだけだろう。相手にするはずがない。
だが、このメッセージはTeams Surveyから送られており、これはTeamsに統合された正規のツールだ。メールの送信元「noreply@email.teams.microsoft.com」も正当だ。つまり、ユーザーが見た目で判断できないのはもちろん、何らかのソフトウェア処理でこのようなメッセージをはじくことはできない。
偽のメッセージの内容が「iPhoneが当選しました」ではなく、社内で通常見かけるメッセージと似ていたらどうなるだろうか。
なぜこのような攻撃が可能なのだろうか。それは侵害されたユーザーを利用しているからだ。
フックス氏によれば、まずあるユーザーが侵害されて、その後、Teamsの攻撃が始まるという流れが定番だ。例えば取引先企業のTeamsアカウントが侵害されて、ユーザーがだまされ、情報が共有されてしまう。
「Microsoft 365」アカウントを攻撃者が侵害した場合、最初に取りかかるのは、被害者がTeamsアカウントを持っているかどうかだ。
Teamsアカウントが攻撃者にとって価値が高い理由は、安全に偽のデータを送り込むことができるからだ。攻撃者はBEC 1.0からBEC 3.0までを経て、これまでの手法を熟知している。そこで従来のメールによるフィッシング手法を使って、まずMicrosoft 365アカウントを侵害する。なぜこのアカウントを侵害するのかと言えば、この認証情報がTeamsにも通用するからだ。
Teamsや「Slack」を媒介とする攻撃は、検知されることを避けるためにサイレントかつステルスになるよう設計されている。メールと比べて、ユーザーはTeamsやSlackのメッセージを信頼しやすい。そのため、TeamsとSlackは、攻撃者が組織内部に入り込むための手段として好まれている。
攻撃者はマルウェアやフィッシングURLを使って、社内の保護をバイパスする。組織内部にいったん侵入した後はもはや攻撃者を止めるものがない。攻撃者はそのような保護技術をよく理解しているからだ。Teamsを媒介とする攻撃でも、行動に移る前にMicrosoftが設けたフィルターにはじかれないかどうかを確認した上で実行している。
まとめると、Teamsを介した攻撃は実行がたやすく、大きな損害を与える可能性がある。
Teamsを使ったBEC 4.0から身を守るためにできることはあるだろうか。フックス氏によれば、社内のセキュリティ専門家は次に挙げる3点の対策を検討すべきだ。
(1)サンドボックス 全てのファイルをサンドボックスにダウンロードして、悪意のあるコンテンツがないかどうか検査する保護ソリューションを導入する
(2)ビジネスコミュニケーションの保護 Teamsを含む全てのビジネスコミュニケーションを保護する堅固なフルスイートセキュリティソリューションを導入する
(3)教育 見慣れないファイルが表示されたら、IT部門に連絡するようエンドユーザに促す
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