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NASだらけの創業約200年香料メーカーがBoxでDXした舞台裏

企業変革に取り組む塩野香料で、Boxは導入半年で全従業員の97%が毎日活用するツールとなった。しかし、導入当初はさまざまな壁に当たったという。どのように乗り越えたのか。

» 2024年07月22日 10時24分 公開
[平 行男キーマンズネット]

 塩野香料は1808年に創業した総合香料メーカーだ。食品や飲料、化粧品などに欠かせないフレーバーやフレグランスを提供している。

 同社では、会社資産となるデータがさまざまなシステムやNAS、個人のPCに散在していた。情報システム部門は、NASの故障時の復旧作業やユーザーの操作ミスなどによるファイル消失などの対応に時間を取られていた。その他にもデータの蓄積や共有にまつわる課題として、ストレージ容量の枯渇や、メールのPPAP運用に悩んでいたという。

 これに対し、同社はBoxの導入を決定した。しかし、同社は導入当初はBoxの活用がなかなか進まない、ITリテラシーがそれほど高くない従業員が新しいツールを使えるか不安といった課題が積み重なっていたという。どのような工夫で壁を乗り越えたのか。塩野香料の堀井亮太氏(コーポレート本部経営管理部課長)、枝木由希子氏(コーポレート本部経営管理部)が語った。

万全な導入体制かと思いきや、進まないBox導入 どう乗り越えた?

塩野香料 枝木由希子氏(左)と堀井亮太氏(右)

 「従来は、社内のNASの他、個人のPCが散在しており、その管理に苦慮していました。海外拠点や取引先のシステムもさまざまで、セキュリティ対策を強化する必要もありました」(枝木氏)

 こうした課題を解決するために導入したのが「Box」だ。導入時は、全社で役割を分担した。経営層は、トップメッセージを発信して、自ら積極的に活用する姿勢を見せた。従業員やマネージャーは、現場での活用促進を担った。情報システム部門は外部パートナーのサポートを受けて、幅広い役割をこなした。しかし、それでも最初は思ったように活用が進まなかったという。

 「体制は万全でしたが、そう簡単にいきませんでした。みなが日常業務に加えてさまざまなミッションやプロジェクトを抱え、Boxの活用に時間を割けない状況でした。そこで、極力シンプルな運用を目指しました」(枝木氏)

 塩野香料で運用しているフォルダは4種類で、個人用の「個人フォルダ」、管理職以上が任意のアクセス権を設定できる「非公開共有フォルダ」、所属部員が全員アクセスできる「部門共有フォルダ」、そして社外とのやり取りに利用する「社外共有フォルダ」だ。区分がシンプルなので、どのフォルダを使えば良いか分かりやすい。社内専用の3つのフォルダは、社外ユーザーの招待やオープンリンクの発行はできない。

Box基本構造/フォルダは4種類(出典:塩野香料の講演資料)

 「以前は業務別や取引先別に細かくフォルダを分けていましたが、Boxは検索性が良いので、フォルダの構造をシンプルにして、検索して探す運用に変更しました。アクセス権が一目で分かるので、迷うことなく安心して情報を共有できるようになりました」(枝木氏)

頻繁な情報発信で、身近に、素早く、日常に浸透

 導入時は、新しいシステムが使われなくなるのではないかという懸念もあった。そこで、2023年2月から半年間かけて段階的にフォルダを解放し、少しずつ社内の理解を深めたという。

「『ベイビーステップ』を合言葉にしました。まず個人フォルダでBoxに慣れてもらい、徐々に部門共有フォルダや非公開共有フォルダ、社外共有フォルダを解放した。段階的に導入を進めたことで、情報システム部門に問い合わせなどが集中することを回避でき、運用の検討や操作のフォローなどを並行できました」

 Boxを身近に感じてもらうために、導入前は「Boxの導入を検討中です」「Boxのライセンスを購入しました」といった進捗状況を、導入後には使い方などの情報を頻繁に発信した。

 「半年で50回以上もBoxの話題を発信していました。今もBoxに関するFAQや活用事例、セミナー動画などを発信しています。今後も続けたいと思っています」(枝木氏)

またかと思われるくらいの情報発信(出典:塩野香料の講演資料)

 運用ルールの設定時は、「なぜBoxを導入したのか」を共有し、「脱 やらされ感」を目指したという。フォルダ構造や権限設定なども全体で共有し、ユーザーが自ら工夫できるような環境を整えた。

 操作マニュアルは超初心者向けのレベルから応用編まで、「たまご」「ひよこ」「にわとり」「焼き鳥」と名付けた。この取り組みが社内で評価されたことで、全社のBox活用の機運が高まったという。

 ハンズオンセミナーはこれまで計4回開催し、それぞれ50人以上が参加した。セミナーの内容は録画ファイルで閲覧できるので、導入後に入社したメンバーも学習できる。

既存システムとの連携で、どこからでもBoxへ

 Boxが日常業務に溶け込み、定着したことで、新たな課題が生じた。「さまざまなシステムから直接Boxを使用したい」というニーズが出てきたのだ。

 この課題を解決するために同社では、API開発はせずに標準機能を応用することで各システムとの連携を構築した。これまで、「Salesforce」「Quip」「Microsoft Teams」「Microsoft Outlook」「Microsoft Office」「Tableau」などをBoxと連携させた。複合機とはメール転送機能を使って連携させている。

 「API開発は、開発の経験がないメンバーにとって難易度が高く、外部ベンダーへの依存にもつながるので、標準機能での連携にこだわっています。比較的簡単に設定できました」

Shiono Boxプラットフォーム(出典:塩野香料の講演資料)
よくある導入時の課題をクリアに(出典:塩野香料の講演資料)

活用のアイデアが活発に飛び交う 議事録などにも利用

 Boxを導入してから1年がたち、同社はさまざまな効果を実感しているという。

 「Boxに情報が集約されたことで、Boxで検索すれば全て見つかる状態になりました。導入当初はユーザーからの問い合わせもありましたが、現在はユーザー自身で解決できる環境が整っています。Boxは社外ユーザーとのコミュニケーションにもなくてはならないツールです」(枝木氏)

 情報システム部門を悩ませていた課題も解決された。メールの誤送信もその一つで、メールにファイルを添付するのではなく、Boxのリンクを挿入する運用に変えたことで、誤送信時はリンクをオフにして、アクセスログを確認することで対応している。

 「Box Notes」の活用もはじまった。議事録だけではなく、人事、総務からの連絡をまとめた簡易ポータルサイトや、情報システムに関する資料、FAQなどに利用しているという。

 Boxは頻繁にバージョンアップがあるので欠かさずチェックをしているという。先日リリースされた「Box AI」や「Box Hubs」もトライアル中とのことだ。

本記事は、Boxが2024年6月25日〜26日に開催した「BoxWorks Tokyo 2024」の内容を編集部で再構成した。

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