製造業では日々膨大な量のデータが生成される。それを適切に活用できるとどんなことができるのか。事例を基に効果を引き出すコツを探る。
生成AIの活用で成果を上げる企業が増えている。データの適切な収集、管理、分析は業務効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)、競争力の強化をもたらす。本連載では、事例を通してデータ活用がもたらすメリット、デメリットを具体的な事例を通して紹介する。
製造業におけるデータ活用では、データの大規模化やサイロ化、品質の確保が課題になります。生産現場ではIoT機器を設置してデータを取得しますが、産業用タービン1台では毎日1〜5TBのデータが生成されます。製造プロセス全体からペタバイト級のデータが次々に生まれる状況を想像してみてください。企業は膨大なデータを整理して適切に管理し、そこから洞察を引き出す難しさに直面しています。
製造プロセス全体のコンポーネントやシステム間の相互運用性が欠如していればデータのサイロ化も発生します。そんな状況では大規模言語モデル(LLM)のようなAIシステムやリアルタイムのデータ活用を満足に実現できないでしょう。業界標準や持続可能性に関するレポート、データセキュリティ要件など、増え続ける規制の順守にも整理されたデータが必要です。
今回は製造業界においてこれらの課題を解消した企業が、どんな成果を得られたのかを紹介します。
世界的な自動車部品メーカーA社では、提供したタイヤの状態を継続的に監視するサービスを提供するため、タイヤ内にセンサーを設置して空気圧や温度、走行距離、ミゾの深さを測定することにしました。取得したデータはハイブリッドクラウド環境に構築したデータプラットフォームで分析することで、プロアクティブなメンテナンス支援サービスを実現しました。
このサービスの提供でタイヤの故障数を83%削減できた他、燃費も向上し、月間で約747kgの燃料の節約につながったといいます。A社への営業時間外の呼び出しも95%削減されています。
A社はデータ活用で業務負担や環境問題の改善を実現しただけでなく、単なるタイヤ製造者からソリューションプロバイダーへの変貌にも成功しました。
自動車製造を手掛けるB社は、データプラットフォームの計算能力やストレージ容量、伝送能力などに悩んでいたといいます。背景には電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)などの新エネルギー車の急成長と法規制の影響により、車両モニタリングデータの量が指数関数的に増加し、複雑性も高くなったことが挙げられます。
B社は2017年にビッグデータ技術を活用した新しいデータ監視プラットフォームの構築をはじめ、2022年にハイブリッドクラウド環境へのアップグレードを完了しました。バッチジョブの性能は平均で2.5倍、最大で6.6倍に向上し、クラスタ全体のファイル数は75%最適化され、保存スペースも67%削減できました。
リソースに余裕ができたことで、リモートで車両の状態を確認してナビゲーションなどを提供する新サービスも展開し、利用者を獲得しています。
データのサイロ化や品質低下の要因としては、統合できていないクラウド環境の平行利用が挙げられます。Clouderaの調査では、ヨーロッパ、中東、アフリカの地域における製造業の74%がクラウドとオンプレミスの両方にデータを保存しており、そのうち81%が少なくとも2社のハイパースケーラーと連携していることが分かっています。
事例として挙げた2社はハイブリッドクラウド環境に単一のデータプラットフォームを構築してデータを統一しました。データを共通のデータレイクに集中させればサイロ化が解消され、AIやデータ分析人材に単一のソース(情報源)を提供できます。
データの適切な収集と管理、分析により、製造業は予知保全や製品の品質向上、需要予測などにAIやIoT技術を活用して現状の改善や新規ビジネスの開発を実施できます。製造業がデータとAIの力を最大限に活用し、競争力を高めていくためには、信頼できるデータ基盤の構築と、それを活用する組織文化の醸成が重要となるでしょう。
IT業界を中心に大手独立系メーカーや大手システムインテグレーター、外資系IT企業のマネジメントや数々の新規事業の立ち上げに携わり、20年以上の豊富な経験と実績を持つ。Cloudera入社以前は、SAPジャパン SAP Fieldglass事業本部長として、製品のローカル化や事業開発、マーケティング、営業、パートナー戦略、コンサルティング、サポートなど数多くのマネジメントを担当。2020年10月にClouderaの社長執行役員に就任。
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