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Copilotの業務利用で著作権を侵害したら? 利用時に気を付けるべきことリスト

生成AIによって作成されたコンテンツに、著作権法をどのように適用すべきかについてはいまだに不明確な点が多い。企業は、Microsoftによる著作権保護のためのガイダンスを参考にすべきだ。

» 2024年09月03日 08時00分 公開
[Marius SandbuTechTarget]

 Microsoftは、ソフトウェアやサービス全体にさまざまなバージョンの「Copilot」を統合している。これらの生成AIツールが機密性の高いビジネスデータやプライベートデータにどのように関わるのかについて懸念を抱いている企業もあるだろう。データソースや機能はCopilotごとに異なるが、共通しているのはMicrosoftのデータセンターから配信されるOpenAIの大規模言語モデル「GPT」を使用していることだ。

 ユーザーによるプロンプトに対して、GPTはユニークな返答を作成できるが、生成されたコンテンツの中には、オンラインで見つかった既存の情報に似ていたり、複製されていたりするものがある。企業は、Copilotを利用する際にどのような点に気を付けなければならないのか。守るべき4つのリストを紹介する。

企業におけるデータプライバシーとLLM

 「ChatGPT」のリリース以降、大規模言語モデル(LLM)は著作権との関係で改善されつつあるが、これらのLLMとそれが生成するコンテンツは、完全にオリジナルというわけではない。GPTや他の大規模言語モデル(LLM)は、インターネットの大規模なテキストデータセットをはじめとして、さまざまな情報源から公開されているデータに基づいて訓練されている。この訓練データからパターンや言語構造を学び、人間らしい応答を生成している。

 ユーザーによるプロンプトに対して、GPTはユニークな返答を作成できるが、生成されたコンテンツの中には、オンラインで見つかった既存の情報に似ていたり、複製されていたりするものがある。ユーザーが大規模言語モデル(LLM)に架空のストーリーを作成するよう促した場合でも、学習に使用したさまざまなデータおよびソースから得た広範な知識を利用する可能性がある。

 Copilotは、他の生成AIサービスと同様の問題を抱えている。それは、データの出所が同じ可能性があるというものだ。この問題は、深層学習モデル「Dall-E」を介したCopilotによる画像やビジュアルの生成にも及ぶ。Dall-Eのモデルは、ユーザーのプロンプトに基づいて画像を作成するが、大部分は学習させたデータソースから取得する。

 ユーザーがCopilotを使用して画像を作成し、組織のWebサイトで公開するというシナリオを想像してほしい。その際、Copilotで作成した画像が他の組織のロゴやデザインと似ており、著作権の侵害を理由とした訴訟に直面するというシナリオも考えられる。このような状況で「Microsoft Copilotの著作権に対するコミットメント」が重要な役割を果たす。

「Microsoft Copilotの著作権に対するコミットメント」とは

 「Microsoft Copilotの著作権に対するコミットメント」は、知的財産権の侵害に関する懸念への対処を目的として、2023年9月に開始された。

 著作権に対するコミットメント(Microsoftでは「Customer Copyright Commitment」とも呼ばれている)の一環として、Microsoftは知的財産権に関するクレームから顧客組織を防御し、関連する全ての法的費用を負担するとしている。これは、Copilotから生成された画像などのコンテンツを使用または配布した顧客に適用される。ただし、Microsoftから法的支援を受けるためには、幾つかの条件を満たす必要がある。

  • 顧客は、製品に組み込まれているコンテンツフィルター、またはCopilotの一部であるその他の安全システムを無効にしたり、回避したり、妨害したり、干渉したりすることはできない。現時点において、これらの安全機構を無効にしたり変更したりするオプションはない。
  • 顧客は、第三者の所有権を侵害したり、著作物を不正に流用したりする可能性があることを知りながら、または、知ることができたと合理的に判断される方法で、出力されたコンテンツを変更、使用または配布してはならない。他の組織が著作権を所有することが明らかなソースコードやテキスト、情報、ビジュアルを意図的に使用することは、この条件に違反することになる。
  • 顧客は、Copilotに使用される入力データを利用する十分な権利を持っていなければならない。これには、クレームの対象となるコンテンツを生成したモデルをカスタマイズするために使用された顧客データも含まれるが、それに限定されない。
  • クレームの中で、商取引やビジネスの中で使用された出力コンテンツが第三者の商標や関連権利を侵害しているという主張がなされる場合、このコミットメントは適用されない。例えば、顧客がCopilotを使ってマーケティングのための資料を作成し、その中に独自性のあるロゴを使用したつもりで、それが偶然に既存の商標ロゴに似てしまった場合、このケースはコミットメントの対象外となる。

 Microsoftの同コミットメントは、有料版のCopilotのみを対象としている。具体的には、「Microsoft 365」向けのCopilot、仕事用IDで使用される「Windows Copilot」「Bing Chat Enterprise」が含まれる。現時点では、「Copilot Studio」などのカスタム構築されたCopilotサービスやその他の無料サービスは対象外だ。これらのサービスには、同じ安全機構が組み込まれていない。

 同コミットメントは、顧客がサービスに適切な設定とメタプロンプトを追加している限り、Azure OpenAIの上に構築されたサービスにも適用される。

 Microsoftがこのようなコミットメントを発表した理由は、多くの組織が生成AIの活用に関連する法的な問題を恐れているためだ。生成AIを使用してコンテンツを作成すると、既存の知的財産を侵害するアウトプットが生成される可能性がある。

 このリスクを軽減するために、Microsoftのコミットメントはセーフティネットとして機能し、これらのAIツールを導入し使用する際に、顧客にある程度の安全性と安心感を提供する。この積極的なアプローチは、法的な影響を恐れずに、AI技術の革新や利用の促進を図ることを意図している。また、当然ながら、Microsoftはこれらの新しい機能に関するリーダーとしての地位を確立したいと考えている。

企業における「Copilot Copyright Commitment」の意味とは何か

 企業は、Microsoftによる「Copilot Copyright Commitment」をリスク管理の一環として認識すべきだ。これは、知的財産に関する法的問題が発生した場合、Microsoftがその製品だけでなく、その製品を使用するユーザーもサポートすることを保証するものである。

 しかし、このコミットメントの範囲を理解することも重要だ。この保護は、ユーザーが特定のガイドラインを順守することを前提としており、企業はCopilotの使用をこれらのガイドラインに合わせる必要がある。

 さらに、Googleなどの競合するクラウドプロバイダーも同様のコミットメントを生成AIサービスに対して定めており、こうした保護策の必要性が業界全体で認識されていることは明確だ。

 特に「Microsoft 365」向けCopilotを利用するIT担当者にとって、このコミットメントは、組織内でCopilotを実装、管理する際の注意を喚起するものだ。IT専門家は、Microsoftのガイドラインに従って設定を行い、Copilotとの全てのユーザーインタラクションがコンプライアンスを順守しているかを監視しなければならない。

 これには、Copilotに供給されるデータの種類の監視や、組織内のさまざまなプラットフォームでの出力の管理が含まれる。これは難しい作業であるが、Microsoftはこれらのインサイトを提供する新しいメカニズムやダッシュボードの提供を約束している。

 また、IT担当者は、Copilotで使用されるAIモデルの最新の更新や改善について情報を常に把握し、モデルのトレーニングデータや機能の変化がコンプライアンスやこのコミットメントにどのように影響するかを理解する必要がある。これにより、潜在的な法的問題を未然に防ぎ、Copilotの使用が企業の方針および広範な法的基準に合致していることを保証できる。

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