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「Wi-Fiを発明したのはオーストラリア」はホントかウソか?:795th Lap

多くで「オーストラリアがWi-Fiの発祥」と言われているが、「それは違う」と物言いが入り、ちょっとした騒動となった。発明した国は、結局どこなの?

» 2024年09月13日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 Wi-Fiについて「我が国が発明した」と主張している国があるのをご存じだろうか。これは知られた話ではあるが、Wi-Fiを発明し「起源の国」とされているのはオーストラリアだ。

 確かにWi-Fiに関する雑学をひもとくと、「その出自はオーストラリアにある」と説明されていることが多い。だが、それに異を唱える記事が掲載され、話題になっている。一体、どんな主張なのか?

 そもそも、なぜWi-Fiの起源がオーストラリアだと言われているのか。それは、オーストラリア政府が運営する国立の科学研究機関、CSIRO(Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation:オーストラリア連邦科学産業研究機構)がWi-Fiの基礎を発明したからだという。

 それについて異論を唱えたのが技術系メディア「Hackaday」だ。2924年8月20日(現地時間)に「Australia Didn’t Invent Wi-Fi, Despite What You’ve Heard」(オーストラリアがWi-Fiを発明したわけではない)というタイトルでWi-Fiの発明にまつわる事情をまとめた記事を掲載した。

 記事によれば、CSIROは「Wi-Fiを発明した」と強く主張しているという。さまざまな分野の研究を行なっている機関なのだが、1990年代に流力されていた無線技術の研究がWi-Fiの発明に結び付いたのだそうだ。

 Wi-FiはIEEE(nstitute of Electrical and Electronics Engineers:電気電子技術者協会)のワーキンググループの一つ「802.11」によって標準規格が策定された。そのため、無線LANの正式な規格名は「IEEE 802.11a」「IEEE 802.11b」「IEEE 802.11n」「IEEE 802.11ac」などとなっている。

 「Wi-Fi」という名前は1999年に誕生し、「IEEE 802.11○○」という規格名をより分かりやすくして消費者にアピールしようというマーケティング的な狙いがあった。これはブランドコンサルティング企業のInterbrandが提案したもので、「Wireless Fidelity」(無線の忠実性)を略した造語なのだそうだ。ちなみに、現在主流の「Wi-Fi 6」の正式な規格名は「IEEE 802.11ax」だ。

 そして、IEEE 802.11が初めて標準規格に定められたのが1997年で、「IEEE 802.11-1997」だ。これこそが Wi-Fiの始祖なのだが、その大本となる技術をオランダの研究所でNCR CorporationとAT&Tが1991年に開発した。それをさらに実用化に近づけたのがLucent TechnologiesとNTTの研究で、IEEE 802.11を標準規格化して誕生したのが「IEEE 802.11-1997」だ。

 Hackadayが主張しているのはこの部分だ。IEEE 802.11にはここで言及した研究機関や企業が多数参加して標準化を進めていたが、そこにCSIROは加わっていなかった。では、なぜCSIROは「われわれの発明だ」と主張しているのか。それは特許の問題なのだとHackadayは解説している。

 CSIROの研究チームは、ワイヤレスネットワークの研究を重ねる中で、1993年11月10日に「Invention: A Wireless Lan.」という特許を申請した。この特許の核心は「屋内環境でのマルチパス干渉を回避するためにマルチキャリア変調を使用する」といった内容で、特許は1998年に米国で取得された。

 この特許には、CSIROの研究チームがワイヤレスネットワークを実現したことについても含まれていた。だが、速度は数Mbpsで「10GHzを超える周波数で動作する」とも記載されている。ご存じの通り、Wi-Fiの周波数帯は2.4GHz帯か5GHz帯(Wi-Fi 6Eからは6GHz帯も使用し始めた)だ。IEEE 802.11の規格とは異なる。

 CSIROは自身の技術の実現に向けて検討したものの失敗に終わった。正式な規格化も製品化もできなかった。だが、2000年代に入ってから、IEEE 802.11の標準規格に沿った製品を開発していた企業に対して「CSIROが保有する特許技術を使用している」と主張した。デバイス1台ごとの特許使用料を求めた他、一部の企業を特許侵害で訴えた。

 日系企業であるBuffalo Technology(メルコホールディングスの子会社)も訴えられていて、裁判の結果、2006年にCSIROに有利な判決が下され、同社は和解金を支払うことで決着した。他にも数社が同様に和解金を支払う結果となり、CSIROは全般的に勝利した。CSIROが、そしてオーストラリアがWi-Fiの起源とされているのはそういう事情があったからだ。

 Hackadayは「その裁判に関わった陪審員がワイヤレスネットワークに明るくなかったのでは」とコメントしたが、「特許とはそういうものだ」とも述べ、訴訟の正当性については否定していない。ただ記事では「CSIROがWi-Fi を発明したことを意味するものではない」と明記されている。CSIROも心得ているのか、前出の功績をたたえるWebサイトでも「ワイヤレスLANの発明」と表記していて、直接的に「Wi-Fiの発明」とは明言されていない。

 結局、「Wi-Fiに採用されている一部の技術に関する特許を保有し、その発明に関わっている」というのがCSIROの主張であり、それは公に認められていることだ。その状況から「Wi-Fiを発明したのはオーストラリア」と結論づけているのは、われわれユーザーなのだろう。

 結局のところ、どこの誰が発明したとしてもユーザーが問題なく利用できていればそれでいい話だ。


上司X

上司X: 「Wi-Fiを発明したのはオーストラリア」というある種の常識に対して物言いがあった、という話だよ。


ブラックピット

ブラックピット: Wi-Fiの機能の一部の特許を持っていて、それが訴訟で認められているから発明者であると。なるほど。


上司X

上司X: そんなうがった見方をするんじゃないよ。実際に訴訟の判決も出てるんだしな。


ブラックピット

ブラックピット: じゃ、そういうことでいいんじゃないですか。ユーザーとしてはどちらでもいい話です。


上司X

上司X: そんな仏頂面のキミにクイズだ! 「世界で初めてWi-Fiを搭載したPC」ってなーんだ?


ブラックピット

ブラックピット: んー、なんでしょう。知りませんね。いつの間にか無線LAN機能って搭載されていた気がします。


上司X

上司X: うふふ、正解はAppleの「iBook G3」さ。1999年にあのスティーブ・ジョブズが自慢気に発表してたんだぜ。


ブラックピット

ブラックピット: へー。そうなんですね。じゃあ、言ってみたらジョブズがWi-Fiを普及させた第一人者ってことにもなりそうですね。


上司X

上司X: そうかもな。ちなみにAppleはWi-Fiを最初は「AirPort」(日本名「AirMac」)」と呼んでたんだけどね。でも、それまでノートPCでもネット接続は有線なのが当たり前な時代だったからな。本当のイノベーションってヤツだよ。それを考えたら、今さらオーストラリアが発明したとかは本当どうでもいいかも……なんて思う今日この頃さ。

川柳

ブラックピット(本名非公開)

ブラックピット

年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)

昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。

上司X(本名なぜか非公開)

上司X

年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)

中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。


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