Asanaが「AI Studio」の提供を開始した。業務のワークフローにAI機能を組み込み、さまざまな作業を自動化できるという。一体どのようなものなのか。
アサナジャパンは2024年10月30日にオンライン記者会見を開催し、ノーコードでワークフローにAIを組み込める新機能「Asana AI Studio」を発表した。
この機能は、10月22日より中小企業および大企業向けの「Enterpriseプラン」および「Enterprise+プラン」契約者に対してアーリーアクセスとして提供されている。さらに、今後は小規模チーム向けの「Advancedプラン」年間契約者にも提供される予定だ。仕事をどのように変えるのか。
アサナジャパンの内山 雄太朗氏(ソリューションエンジニア リード)は、現在の企業の課題について次のように語った。
「コロナ禍をきかけに働く場所の改革は進んだが、働き方は変わっていない。クラウドでファイルを扱えるようになっても、依然として『Microsoft Excel』を使った管理や、電子メール、チャット、会議などでの進捗確認が残っている。ある調査によれば、週に3日が、“調整”という雑務に費やされている。Asanaはこの問題の解決を目指す」
部署ごとに異なる管理方法が生まれた結果、他部署との連携が難しくなるという問題がある。例えば、Aチームからの依頼を受けたBチームの業務がCチームに引き継がれた場合、Cチームのメンバーが依頼の背景や意図を把握することは難しい。
このような課題を解決するのがAsanaだ。組織内のあらゆる業務を「誰が、何を、いつまでに、なぜやるのか」という要素で管理し、タスクからプロジェクト、さらにポートフォリオ、組織目標まで包括的に連携させる。個々のタスクはプロジェクトの一部として管理され、ユーザーはプロジェクト間の依存関係や相関関係、包含関係なども明確に把握できる。
組織の目標からタスクまでがひも付けられることで、メンバーの作業が組織全体のどの目標に寄与しているのかを、直感的に理解できるようになる。Asanaは単なるプロジェクト管理ツールの枠を超え、組織全体の業務を包括的に管理する「ワークマネジメントプラットフォーム」としての役割を果たしていると内山氏は話す。
Aasanaの世界観を支援するのがAIだ。「AIはもはや単なるツールではなくて、チームメイト、つまり同僚だ」と内山氏は語る。
「優秀なチームメイトには3つの特性がある。的確なアドバイスをくれること、必要なアクションを取ってくれること。そして状況に応じてくれることだ」
Asanaは過去1年間で多くのAI機能をリリースしてきた。特に人気が高いのは「スマートステータス」機能だ。プロジェクトやポートフォリオ、目標の各レベルでステータス報告の下書きを自動生成できる。これにより、従来約1時間かかっていた報告書の作成が、数分で完了するようになったケースもある。
今回発表された「AI Studio」は、従来AI機能をさらに発展させたものだ。ワークフロー全体に組み込んだAIエージェントに、面倒な作業を肩代わりさせる。
AI Studioは、業務受付から始まる一連のワークフローで効果を発揮する。例えば製品リリース業務の場合、改善要望の受付やリリース計画の立案、実行、リリース後の報告といった主要なステップがある。その中で、「事前確認」「市場調査の実施」「ローンチ・ブリーフの草稿作成」「法務レビュー」「報告用データの準備」といったタスクをAI Studioに任せられる、
一方、人間は、「優先順位の承認」「最終決定と発表」「製品リリースの成功を共有」などのタスクを担う。
他にも、プロジェクトの立ち上げと遂行、製品リリース、クリエイティブ制作、キャンペーン管理など、さまざまな業務でAI Studioは高い効果を創出するという。
記者会見のデモンストレーションでは、架空の製品を題材に、ユーザーからの2件のサポートリクエストをAI Studioが処理する事例が紹介された。1件は「オンライン支払いのエラー」、もう1件は「Microsoft Teams連携の設定」に関する問い合わせだ。それぞれの問い合わせ対応をAI Studioが支援し、「トリアージ」「調査」「回答」「解決済み」の各フェーズへと導いた。
AIはまずトリアージとして、問い合わせ文面から「オンライン支払いのエラー」があったことを判断して、最優先で対応が必要な「P0バグ」のカテゴリーに分類し、過去の類似案件の対応実績から、該当分野に詳しいスタッフを担当者としてアサインした。一方、「Microsoft Teams連携の設定」に関する問い合わせについては「手順紹介」のカテゴリーに分類し、別の担当スタッフを割り当てた。
その後、各案件は「トリアージ」から「調査」フェーズへと移行した。AIは既存のバグ追跡プロジェクトや技術文書を参照し、関連する情報を自動で抽出。「回答」フェーズでは、収集した情報を基に回答文案を自動生成した。担当スタッフはこの文案を確認し、顧客に送付することでサポートが完了した。
AI Studioを使用することで、問い合わせ受付から回答作成までの一連の作業を大幅に効率化できることが示された。特に重要なのは、これらの自動化ワークフローを全てノーコードで構築できる点だ。
「タスクのタイトルを設定する」「カテゴリーを判定する」「担当者を割り当てる」といった自動化の処理も、自然言語での指示だけで設定できる。既存の文書やガイドラインをAIに読み込ませることで、より正確な判断基準を設定することも可能だ。
AI Studioのアーリーアクセスとしての提供に先立ち、全世界の主要顧客10数社でβプログラムが実施された。
導入事例として、米国の金融情報サービス企業Morningstarが紹介された。同社では、業務受付時に必要な情報をそろえるまでに2週間を要していたが、AI Studioで構築したスマートワークフローを適用することで、この工程を2日間まで短縮した。その結果、年間約76万ドル(約1億円)のコスト削減に成功した。さらに、業務スピードや予測精度の向上など、多様な効果があった。
内山氏は最後に、AI Studioの価値について次のように強調した。
「情報検索やデータ分析など、特定用途向けの生成AIは数多くあるが、私たちは仕事をする場所そのものにAIを組み込み、ワークマネジメントと生成AIを一体化させることを目指している。ITや生成AIの専門知識がないビジネスユーザーでも、簡単にAIワークフローを構築できる点もAI Studioの大きな特徴だ」
会見では、業界初の試みとなる「Asanaコラボレーティブワークマネジメント認定資格プログラム」の開始も発表された。基本的なスキルを証明する「Asana基礎」、ワークフローの構築・運用に特化した「ワークフロースペシャリスト」、AI機能の活用に焦点を当てた「Asana AIスペシャリスト」の3種類が用意されている。現在は「Asana基礎」のみ日本語で受講可能だが、2025年には残り2つの資格も日本語化される予定だ。
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