著作権の教育を怠ると、事業にも影響を与えるようなトラブルが起きかねません。今回は社内の著作権教育についてトラブル事例と教育のポイントを紹介します。
「IT百物語蒐集家」としてITかいわいについてnoteを更新する久松氏が、情シス部長を2社で担当した経験を基に、情シスに関する由無し事を言語化します。
情シスの業務領域の一つにセキュリティがあります。その中には従業員のITリテラシーを向上させるための教育も含まれます。そして、世間一般でITリテラシーが指すものの一つに著作権意識の向上があります。
情シスの方が業務として著作権関係に関わっているケースは少ないかもしれません。しかし、問題が生じると巻き込まれることが多々あるため、プロアクティブに行動した方が将来の仕事(厄介ごとへの対応)が減ります。今回は社内の著作権教育について、トラブル事例や私の経験も含めてお話しします。
最近起きた問題として、ファミリーマートの「X」(旧Twitter)投稿の問題があります。投稿画像にウォーターマークが見えることから、「Adobe Stock Photo」の有料画像プレビューをキャプチャーしたのではないかと疑われました。結果として、ファミリーマートは問題ないと声明を出すに至りました。
情シスは、Adobe Stock Photoのライセンス管理について調査が必要になります。厳しく対応するなら、資産管理システムなどから操作ログを拾って証明する必要もあり得るでしょう。
有事の際は呼ばれることが想定されるため、事前に手を打つという観点で、定期的に社内向けに実施するセキュリティ教育の一環で著作権教育も実施してしまうのが効率が良いと考えています。
社内のITリテラシーは、著作権という観点から見ると絶望的に低いと考えてよいでしょう。情報系大学でも講義内容として取り上げる機会は少なく、私の通った大学では1年目の基礎授業のうち1時間だけ講義を受けた程度でした。著作権については新卒入社した会社の新入社員研修で学べればよい方でしょう。ITリテラシーが高くても、著作権に関する意識は絶望的と捉えて教育に取り組むべきです。
それでは、事業にも影響を与えるような著作権に関するトラブル事例を紹介します。
自社公式アカウントや従業員個人アカウントを問わず、著作権意識が低いケースが多く見られます。役員や社名を出した実名のアカウントでも、アニメアイコンや漫画の著作物を使用している例は珍しくありません。
2022年にスタジオジブリが「常識の範囲内で自由に使ってください」と公開した画像を目にした方も多いと思います。ただし、「常識の範囲内」という言葉に甘える人も確認されており、フォロワーやインプレッションを増やす目的などで商用利用するとさすがに危うくなるでしょう。「インプレッションが上がれば正義」というスタンスの担当者も存在し、炎上リスクもあります。注意しましょう。
無法地帯のようなスタンプ文化を、特に「Slack」で見かけます。芸能人や漫画、アニメの画像がスタンプとして使用されている例です。
「Slack コネクト」で他社とつながることも増えており、著作権侵害をしたスタンプが使われることで取引先からの信頼を損なうリスクがあります。大手企業はこうしたリスクを考慮し、カスタマイズ登録されたスタンプを削除する取り組みも進んでいます。
2017年頃、当時流行していたキュレーションサイトの写真が「Instagram」などから無許可で転載されていたことが問題になりました。
私もプライベートでは写真撮影が好きで、過去にはよくInstagramの更新していました。ある日、日光で撮影した写真が当時の大手旅行系キュレーションサイトに無断掲載されていました。Instagramの写真は、無断掲載というよりは「紹介してあげている」というマインドで転載されることも多いでしょう。
こうした事象を重く見たカメラ雑誌が、「写真を無断使用する“泥棒”を追い込むための損害賠償&削除要請マニュアル」を掲載したことがあります。弁護士を介さなくても解決できることが多いため、この記事を掲載した号の売れ行きは好評で、その後ムック化されたほどです。
私の観測範囲では、各社が展開するSEO記事が危うい状況です。自社が展開するサービスに関するブログ記事を量産し、検索エンジンからの流入を期待する施策です。記事を量産することが目的のため、外部ライターを使うことが多くあります。
古くは「WELQ」の問題から始まり、他社サイトのまねや軽微な改変などは定期的に話題になります。疑わしい記事が多すぎるため、Webサイト閉鎖につながることもあります。
SEO記事は数が多いために社内チェックをしていないケースが多々あります。また、SEO記事同士で文書をコピーし合うことが黙認状態になっているメディアもあります。そのため、同一文書が複数サイトで確認されるケースもあります。私は知人の企業が危うい記事を出していたら指摘することにしています。
また最近は、生成AIの登場によって剽窃が一般化しています。例えば、1000件程度の口コミをスクレイピングし、生成AIで表現を変えて公開した事例が問題となっています。
私もこうしたSEO記事に業務として向き合ったことがあります。メディアの責任者は記事公開数をKPI(重要業績評価指標)として持つことが多いため、品質についての優先順位は低いものでした。こうした状況に対応するため、法務とも連携した上でコピペチェックツールを使用してチェックしました。再帰的ダウンロードを実施するスクリプト、本文抽出スクリプトがあれば利用できます。類似ツールは幾つかありますので、比較検討するとよいでしょう。
プロアクティブな対応としては、社内教育が挙げられます。セキュリティ研修と合わせて実施すると効率的です。
座学で著作権侵害の実例を提示し、訴訟に発展した事例やサービス停止に至ったケースを共有するのが効果的です。自社が展開するものに近い事例があればより真剣に耳を傾けてもらえます。一方向の座学だけでなく、チェックテストを含めることで従業員の意識向上を図りましょう。
エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で大学教員を目指した後、ワーキングプアを経て、ネットマーケティングで情シス部長を担当し上場を経験。その後レバレジーズで開発部長やレバテックの技術顧問を担当後、LIGでフィリピン・ベトナム開発拠点EMやPjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを行う。
2022年にエンジニアリングマネージメントを設立し、スタートアップやベンチャー、老舗製造業でITエンジニア採用や研修、評価給与制度作成、ブランディングといった組織改善コンサルの他、セミナーなども開催する。
Twitter : @makaibito
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