メディア

AIエージェントで働き方はどう変わる? Zoomが語るAIと人間の新しい協業モデル

今、企業に求められているのは、AIを「導入する」ことではなく、AIと「協業する」という発想だ。Zoomが開催した働き方改革サミットでは、世界の第一人者たちが、AIと人間が共に成長するための新しいビジネスモデルを提示した。

» 2025年02月05日 08時00分 公開
[平 行男合同会社スクライブ]

 Zoomが日本でサービスを開始してから6年がたった。2024年には、AI機能を含めて3000以上の新機能をリリースするなど進化を続けている。同社は2025年1月23日、バーチャルイベント「働き方改革サミット――次世代AIを活用したビジネスの成長と成功に向けた実践戦略を探る」を開催し、生成AIを活用するユーザー企業やAI導入を支援するコンサル企業のキーパーソンを招き「人間とAIの協業の在り方」について議論した。

 「AIエージェントの活用元年」とも言われる2025年だが、人の働き方やサービスの在り方はどう変わるのか。専門家の展望とは。

本稿は、2025年1月23日にZoom Corporationが開催したバーチャルイベント「働き方改革サミット――次世代AIを活用したビジネスの成長と成功に向けた実践戦略を探る」の内容を編集部で再構成した。

AIエージェントで働き方はどう変わる?

 基調講演では、AIコンサルティング会社であるTomorrowのマイク・ウォルシュCEOが登場した。AIについて「これはテクノロジーの一過性のトレンドではありません。文明レベルの出来事であり、産業界や私たちのキャリアだけでなく、世界の基盤を変革するものです」と位置づけた。そして現在、イノベーションの焦点は生成AIからエージェントAIへと移行しており、2035年に向けて3つの重要な転換が進むと指摘している。

 第1の転換は、製品からプラットフォームへの移行だ。テスラの例を挙げ、「自動車ではなく、車輪のついたスマートフォン」と説明。テスラ車がソフトウェアアップデートで性能向上するプラットフォームとして機能していることを示した。

 テスラ車は、AI搭載センサーが運転者データをリアルタイムで分析し、リスクを推定して保険料を動的に設定している。このように自動車のビジネスモデルも、従来の単体製品から、データを収集・分析し複数のサービスを統合して新たな価値を生み出すプラットフォームへと変容している。

 この波は自動車産業全体に広がりつつある。「Waymo」は自動運転技術を核として、世界12都市でモビリティプラットフォームを展開した。単なる移動手段の提供を超えて、都市の交通システム全体を最適化するプラットフォームとして機能し始めているとしている。

 第2の転換は、取引から体験への移行だ。「Uber」は料金よりも到着時間が重視され、「Spotify」は個別の音楽購入ではなく全体的な体験を提供するサービスへと変化している。これと同様に、検索エンジンも、多数の検索結果を表示する代わりにAIが直接的な解決策を提供する方向に進化するとウォルシュ氏は予測する。デートアプリにおいてもAIが好みを学習し、実際の出会いの前にAI同士が相性を判断する時代が近づいているとの興味深い予測も示した。

 第3の転換は、アプリからエージェントへの移行だ。ウォルシュ氏は将来のWebトラフィックの大半がAIエージェント同士の通信になると述べ、子供たちの世代には専用アプリを使った生活が当たり前になると話した。

 これに伴って企業システムとのインタフェースも質問応答型に進化し、人事システムやCRM、財務システムをAIエージェントが統合的に管理する時代が到来するという。特に注目すべきは、現在のダッシュボードや複雑なインタフェースが、シンプルな質問応答型のインタフェースに置き換わっていく可能性だ。

 こうした変革の中で、組織はより機動的になるという。「たった1人で10億ドル規模の会社を作ることができます。もちろん1人で仕事をするのではなく、数千から数百万のAIエージェントを活用するのです」とウォルシュ氏は話した。

 実際、化粧品業界では新興の独立系ブランドが従来の大手企業を脅かしており、軽量で俊敏な新しい種類の組織が台頭している。例えば、ファッション業界では従来の6〜8週間の商品開発サイクルが、AIの活用により6〜8日まで短縮された事例も出現している。

 新時代のリーダーシップについて、ウォルシュ氏は3つの事柄を提言した。「人員削減ではなく人材の再教育とスキルアップに注力すること」「メタ認知に焦点を当てて仕事のプロセス改善を考えること」、そして「人間ならではの視点とAIを組み合わせた競争優位性の確立」だ。

 具体例として、建築分野ではAIが生成する無数のデザイン案から、人間の美的感覚と経験に基づいて最適な案を選び出す新しい設計プロセスが確立されつつあることを紹介した。

 最後にウォルシュ氏は、1831年の発電機発明から82年後にヘンリー・フォードが電気を利用して工場を変革した歴史になぞらえ、「私たちは再び同じような瞬間にいます。AIツールを使って、仕事そのものも再定義する時に直面しています」と語った。

Tomorrow マイク・ウォルシュ氏

BCGとCienaの生成AI活用事例

 次にZoomのアパルナ・バワ氏(最高執行責任者)が登場し、生成AI導入の事例について、BCGのネコール・ジャクソン=デジョワイ氏(グローバルエグゼクティブディレクター兼プロダクトポートフォリオリーダー)と、Cienaのクレイグ・ウィリアムズ氏(最高デジタル情報責任者)に、生成AIの活用事例を聞いた。

 BCGは2023年初頭に生産性向上を目的として生成AIを導入した。まず、テクノロジーの進化を理解し具体的に提案できる人材を確保し、適切なツール選定と戦略立案をした。

 具体的なツールとして、BCGのナレッジベースを活用して調査や提案を簡素化するチャットbot「Navi」を開発し、週5500時間の時間節約を実現。また、スライド作成を数分で完了させるツール「Deckster」も開発した。これらの取り組みにより、従業員の時間を約15%節約し、満足度も向上させたという。

 新システム導入における課題として、「従業員からは『自分のデータは大丈夫か』『システムに入力するのが不安』『経営パートナーはズルをしていると思われないか』といった不安の声が上がりました」と振り返った。

 この解決のためトップダウンとボトムアップの2つのアプローチを採用した。トップダウンでは経営パートナーにツールのトレーニングを実施し、ボトムアップでは1000人以上の生成AIブラックベルトと呼ばれる変革推進者をオフィス全体に配置した。

 一方、Cienaは従業員のアイデアを取り入れることから始め、オペレーションとエクセレンス、ビジネス変革、カスタマー経験、従業員経験の優先順位を定めた。「問題が何なのか、適切なツールは何なのかを決めつけずに、まず従業員の声を聞くことから始めました」とウィリアムズ氏は語る。その結果、チケット数を70%削減し、250以上のAIアイデアを評価・優先順位付けすることに成功したという。

 実装プロセスにおいては、セキュリティとデータ保護、責任あるAI、法務チームからなる業務グループを設置し、ポリシーとガイドラインを整備。パイロットプログラムを実施して「ツール小屋」と呼ばれる承認済みAIツール群を整備し、従業員が試用できる環境を整えた。

 「生成AIは単なるテクノロジーではなく、ビジネスの在り方を見直し、競争優位性をもたらすもの」と両氏は強調する。重要なのは人材への注目とイノベーションの文化を育むことであり、これが生成AI導入の成功に寄与する。トレーニングの提供や意欲的な人材の鼓舞、リーダーと従業員のニーズのバランスを取ることで、組織全体での効果的な導入を実現している。

左からZoomのアパルナ・バワ氏、BCGのネコール・ジャクソン=デジョワイ氏、Cienaのクレイグ・ウィリアムズ氏

スキルと自信を高める、人を中心としたAIトレーニング

 最後のセッションでは、Zoomのエイミー・ロバーグ氏(グローバル・コンタクトセンター・ソリューション開発責任者)が、AIと自動化の専門家パスカル・ボルネ氏、PwCのアンソニー・アバティエロ氏(CEOアドバイザー兼労働力変革プラクティスリーダー)を招き、組織へのAI導入におけるリーダーシップの重要性について議論を展開した。

 アバティエロ氏はまず、「リーダーはAIのリスクを理解することから始める必要がある」と指摘。リスクコントロールのマトリックスを理解し、その使用方法と境界を示すことが求められると語った。特にデータセキュリティの重要性は過小評価できない。AIの登場により、自社データだけでなく顧客データも含めたセキュリティとプライバシーへの対応が不可欠となっている。

 一方ボルネ氏は、BCGの最新レポートを引用し、「AI導入の成功要因は、人が70%、テクノロジーが20%、AIは10%に過ぎません。どんなトランスフォーメーションでも、人を中心に進めるべきなのです」と強調した。

 従業員の懸念に対しては、情報提供と対話から始めることが肝要だ。テクノロジーが従業員の役割をどう変えるのか、透明性を持って説明し、その後トレーニングを提供する。世代による認識の違いにも考慮が必要だ。ベビーブーム世代やX世代は雇用喪失を懸念する一方、ミレニアル世代やZ世代は業務推進のツールとして前向きに捉える傾向がある。

 アバティエロ氏は実践的なトレーニング方法として、「プロンプトパーティーを開催し、さまざまな専門家が集まって、クライアントや社内での活用事例を共有することで、強力なスキルアップの機会となります」と具体例を示した。また、従業員には時間の15%を自己アップデートに使用することを推奨した。

 企業の41%が既にAIによって顧客とのやりとりを改善している中、経営層の70%がAIを使用しているのに対し、一般従業員の使用率は20%にとどまっている。ロバーグ氏は「今はトップダウンではなく、最終ユーザーから始まるイノベーションが必要。個人レベルでの効果を設計し、それを繰り返して、より幅広い人たちを変革に取り込むのです」と述べた。

 最後に、AI導入の4つのステップが示された。1つ目は「経営層からの支援確保」、2つ目は「従業員の懸念に真摯に向き合う信頼文化の醸成」、3つ目は「継続的な適応型トレーニングプログラムの提供」、そして四つ目は「イノベーションとAI機能の人との連携」だ。

 ボルネ氏はスターバックスの例を挙げ、「コーヒーの提供は自動化できるが、顧客との人間的なつながりこそが価値を生む」と指摘。AIはパートナーであり、ビジネスの中心は依然として人である。この認識を基に、組織はAIの効果的な導入とビジネス成長の実現を目指すべきであると主張した。

左から、Zoomのエイミー・ロバーグ氏、パスカル・ボルネ氏、PwCのアンソニー・アバティエッロ氏

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。