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日本に足りないのはAIではなくGPUか 解決の鍵を握る「GPUクラウド」とは

現状、AI時代に十分な計算資源を確保するのが難しい日本において、GPUサーバレンタルサービスが続々登場している。本稿ではその一つであるオリックス・レンテックに、計算資源確保の現状を聞いた。

» 2025年05月28日 10時00分 公開
[キーマンズネット]

 AI関連技術の急速な進化は今なお継続中だ。2022年末のOpenAIによる「ChatGPT」リリースから始まった爆発的な生成AIブームから、現在は「AIエージェント」(Agentic AI)に注目が集まっており、人間がこれまで担ってきたさまざまなタスクをAIが処理してくれることに対する期待が高まっている。業種業態ごとにさまざまなAIエージェントを開発する動きも活発化しており、そのための膨大な演算処理を支えるハードウェアリソースであるGPUのニーズも依然として高い。

 数年前には暗号通貨のマイニング用途でGPUをかき集めるような業者が多数出現したことでGPUの奪い合いともいえるような状況になった。さらにNVIDIAの最新世代GPU「Blackwell」の量産出荷が当初予定されていた時期から遅れたこともあって「GPUがほしいのに手に入らない」という声をあちこちで聞くようになった。

 2025年3月18日(米国時間)に開催されたNVIDIAの年次イベント「NVIDIA GTC」の基調講演では、同社CEOのジェンスン・フアン氏がBlackwellの量産出荷に関連して「フル生産体制に移行した」と明言したこともあって、今後入手性が改善される期待もあるが、同時に改良となる「Blackwell Ultra」や次世代アーキテクチャとなる「Rubin」「Rubin Ultra」、さらに次の世代の「Feynman」の投入も予告されており、GPU獲得競争は当面続くものとも考えられる。

 GPUに関しては必ずしもユーザー企業が購入する必要はなく、クラウドで提供されるGPUサーバを利用することも可能だ。だが、残念ながら国内のクラウド事業者などでは海外との入手競争に競り負けることが多いという話もある。実際に、GPUをクラウドで提供する事業者に問い合わせても予約待ちになることが多く、すぐに使い始められない場合もある。日本の経済力の低下を端的に示す「競り負け」という言葉は海産物などに関して一般に使われ始めているが、GPUに関しても事情は同様のようだ。しかしここにきて、GPUクラウドサービスの発表が相次いでいる。

日本はGPUを確保しにくい地盤がある

 その一つがオリックス・レンテックがパートナーとして提供する、シンガポールのサービスベンダーCloud4CのGPUクラウドサービスだ。日本初の測定器レンタル会社として創業したオリックス・レンテックは、現在ではICT機器レンタルやICT関連サービスなどにも業容を拡大している。同社は2025年3月にCloud4Cとパートナー契約を結んだ。ユーザー企業毎に専用のプライベートクラウド環境が用意され、GPUを含むITインフラの構築と運用サービスをパッケージにして国内企業向けに提供する。このサービスのポイントは、海外のデータセンターを利用している点にある。

 Cloud4CはインドのCtrlSというデータセンター事業者のグループ企業で、著名なクラウド企業の運用を引き受けており、グローバルでは知名度のある企業だ。

 オリックス・レンテックで本サービスを担当する石原氏は現在のGPU調達状況に関して、「米国やインドではGPU専用の大規模なデータセンターを建設するのが主流ですが、日本では国土の狭さや電力供給の問題もあってこうしたトレンドに追い付いておらず、GPUの調達力も劣後しています。CtrlSは大規模なデータセンターをいくつも持っており、グローバルでもGPUを優先的に調達できる事業者です」と語る。

 今回のサービスでは、プライベートクラウドとして提供可能という点が特徴だ。データセンター自体はインドに立地しているが、その中にユーザー専用の区画を設けてGPU搭載サーバを占有で利用するイメージだ。

 サービス自体はユーザーニーズに応じて柔軟な対応が可能となため、ユーザーが希望すれば日本国内のデータセンター運用も代行できる。とはいえ、エンジニアの多くはインドの拠点に在籍し、コスト面でも国内に大規模な設備を構えるより、インドの方が優位とされている。同サービスに利用されるデータセンターは稼働率で99.99%以上が想定される最高ランクのTier4に格付けされている施設であり、十分の発電能力を備えた広大な太陽光発電設備もある。

 海外拠点という点で、セキュリティに不安を抱くユーザーもるかもしれないが、プライベートクラウド環境なのでユーザーが希望するセキュリティを導入できるため自由度は高いといえる。

さまざまな事業とのシナジーも

 オリックス・レンテックはもともとGPUのレンタルを事業として展開しており、こちらも順調に成長しているという。レンタル用のGPUはあらかじめまとまった量を確保するため、ユーザー企業が入手困難な場合でもレンタルなら借りられるという状況もあってニーズが高まっている。だが、ユーザー企業によっては「レンタルでモノが借りられてもそれだけでは解決できない課題もある」という。

 GPUを適切に運用するにはさまざまなノウハウが必要になるが、Cloud4Cはマネージドサービスプロバイダーとしてそうしたユーザー企業を支援できる。

 現在のAI技術の発展は検証段階から実社会での問題解決へと向かいつつある。工場や生産ラインをAIで、ロボットやドローンをAIでコントロールして人間の代わりに作業を実施するなど、これまではSFの中で語られていたようなユースケースが次々と実現しつつある。GPUサーバもこうしたユースケースのために活用されていることが想定される。

 オリックス・レンテックは今後の展望として「お客さまのニーズが多様化する中、モノだけをお貸し出しするのではなくサービスにも注力していく方針です」と語る。また「従来はクライアント領域のサービスが中心でしたが、今回のようなIaaSを軸としたサービス展開は、当社にとっても新たな挑戦であり、今後はより注力する考えです」との声も聞かれた。

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