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サポート窓口から売上を生む組織へ 一人きりの情シスが全リソースの90%を戦略業務に充てられた理由

終わらないヘルプデスク対応に追われ、経営貢献まで手が回らない。そんな課題を抱えていた一人体制の情シスが、全社業務改善(BPR)へと舵を切る。一人当たり売上前年比120%を達成した、泥臭くも本質的な取り組みのプロセスを追う。

» 2026年06月15日 07時00分 公開
[HubWorksキーマンズネット]

 社内に情報システム担当者(情シス)が1人しかいない企業は少なくない。その多くが日々の問い合わせ対応に追われ、経営に寄与する重要な業務にまで手が回らないという課題を抱えている。

栗岡智己氏

 登録ユーザー135万人を超える産直通販サイト『食べチョク』を運営するビビッドガーデンもまた、同様の体制を取る企業だ。同社でコーポレートエンジニアを担う栗岡智己氏も、かつてはその難しさに直面していた。

 しかし栗岡氏は、従来の「情シス=サポート窓口」という社内認知を覆し、全社的な業務改善(BPR)へと舵を切った。同氏は、情シス部門をいかにして会社の売り上げ、利益を創出する組織に変えたのか。

 本稿は、アイティメディアが主催したオンラインセミナー「変わる情シス 2026冬」(2026年3月16〜19日)で、ビビッドガーデンの栗岡氏(コーポレート部コーポレートエンジニア)が「一人情シスが売上・利益につながる仕事を創る取り組み」というテーマで講演した内容を編集部で再構成したものだ。

「優しい人」から脱却した理由と取り組み

 栗岡氏は「情シスはコストセンターだと言われるのが嫌だった」と語る。このような社内認知を変えるために、同氏は情シスを自ら定義することから始めた。

情シスに対する社内認知

 栗岡氏が情シスになった当時、情シスに対する社内外からの認知は図1のようなものだったという。

 図1 情シスに対する社内外からの認知(出典:栗岡氏の提供資料)

 こうした中、同氏が目指したのは「ITを使って効率化を進める人」「非効率なオペレーションを解決してくれる人」「ITで業務課題を解決してくれる人」という認知だ。「社内外の認知を変えるためには、想像の3倍は積極的にならないと伝わらないため、情シスの役割を自ら定義して実践することが求められた」と栗岡氏は話す。

優しい人からの脱却

 栗岡氏は、社内の認知を変えるために「優しい人」からの脱却に取り組んだ。当時は、「困ったら情シスに聞けばいい」という考えが社内に定着しており、終わりが見えないヘルプデスク対応がリソースを圧迫していた。

 そこで栗岡氏は、従業員が自力で解決できる環境をつくるため、徹底したマニュアル化へと乗り出した。ITに関する質問を受けた際には、あえてマニュアルのみを共有するなど、従業員が自分で調べる習慣の定着に励んだ。一方、業務改善や効率化につながる相談には手厚く対応した。

 これらの取り組みにより、問い合わせ対応の工数を削減し、「情シス=質問に答える人」という従来の認知を変えることにも成功した。

全社業務改善プロジェクト

 栗岡氏が、情シスに対する社内認知を最も大きく変える契機となったと語るのが「全社業務改善プロジェクト」だ。

 可視化に当たってはスイムレーンを活用した。当時は1部署当たり5〜6時間かけて手作業で作成していたという。このプロジェクトを通じ、栗岡氏は部門ごとに異なる「業務の癖」を把握できた。

 なお同氏は余談として、「現在であれば、AIツールの『Claude Code』と『MCP』を組み合わせることで、当時の手作業よりも早く、質の高いアウトプットが出せる」と、さらなる効率化の可能性についても触れる。

 図3 部門ごとの業務の癖(出典:栗岡氏の提供資料)

 その上で、小さな改善を次々と実施し、「情シスが業務課題を解決してくれる」という認知を形成していった。その結果、各部門から情シスへ能動的に業務改善の依頼が舞い込むようになった。

 こうした小さな改善を積み重ねるポイントについて、栗岡氏は次のように語る。

 「まずは『その業務は何のために存在するのか』と問いかけることが重要だ。本質を捉えることで、目の前の部分最適にとどまらない本質的な解決策が見えてくる」

 具体的な事例として、カスタマーサポート(CS)チームからの依頼を挙げる。当時、CSチームは1時間当たりの対応件数を示す生産性指標「CPH」(Call Per Hour)を「Google スプレッドシート」で管理しており、「関数を使わずに集計したい」という相談が情シスに寄せられた。

 栗岡氏が業務の目的を深掘りすると、メンバーの評価や数カ月スパンでのモニタリングに使いたいという真のニーズが見えてきた。しかし実際の業務プロセスでは、チケット管理システムの「Zendesk」から重いCSVデータを出力してスプレッドシートで処理しており、関数の破損によるエラーが頻発していた。

 「スプレッドシートの関数を別手段に置き換えるだけでは、データの信頼性や時系列でのモニタリングという本来の目的は達成できないと分かった。そこで、ZendeskからAPI連携で直接『BigQuery』にデータを格納し、BIツールでダッシュボード化する仕組みへと作り変えた」

 このようなアプローチで改善を進めた結果、全社で2〜3人月分の工数削減を実現した。業務プロセスや各メンバーのITリテラシーを把握できたことは、その後のAI推進にも役立った。

 「従業員がAIをビジネスシーンでどう使えばいいかイメージが湧いていないという課題に対し、まずはAIに対する意識レベルを壊す目的で『生成AI活用LT(ライトニングトーク)大会』を開催した。また、AI活用で重要なRAG(検索拡張生成)の仕組みを理解してもらうため、『NotebookLM』の講習会も実施した。全社の状況を俯瞰できていたからこそ、効果的な研修や、社内イベントをスムーズに企画、実行できた」

ボトムアップからトップダウンへ

 各部門と密にコミュニケーションを重ね、小さな改善を積み上げてきた栗岡氏。しかし、そうした取り組みを続ける中で、ボトムアップによる改善の限界にも気付く。

 ボトムアップ型の改善は、ビジネスモデルや組織の変化によって業務そのものが変わった際、ツールやシステムが使われなくなるリスクをはらむ。現場作業の効率化にはつながっても、経営全体の売上や利益に対するインパクトは限定的だ。

 そこで同氏が目指したのが、経営における「あるべき姿」から逆算してプロセスを設計する、トップダウン型の改善へとシフトすることだった。

 トップダウン型の改善を実践するに当たり、栗岡氏は事業KPIに直結する領域に着目した。その一環として、自社のバリューチェーンに潜む課題の解決に着手した。同社が展開する食べチョクのバリューチェーンは、主に次の5つの要素で構成されている。

  • 購買物流: 生産者と出品商品を集める活動
  • 製造: Webプラットフォームへの掲載
  • 出荷物流: 注文が入ったら届ける活動
  • 販売・マーケティング: 顧客に購入してもらうための活動
  • サービス: 購入後の関係値を築き、リピートにつなげる活動

 これら一連のバリューチェーンを最適化することが、最終的な企業の利益創出へとつながる。当時、栗岡氏は各マネジャー層と対話を重ね、まずは「購買物流」のプロセスに焦点を当てた。具体的には、登録生産者や出品商品に関する統計データを分析し、どの数値を動かせば売上拡大に直結するかを議論した上で、業務とオペレーションの改善をトップダウンで実施した。

 また、SaaSツール中心の環境から脱却し、社内システムの内製化を推進することでコスト削減とデータの自社保有を進めた。

 図4 購買物流に対する改善(出典:栗岡氏の提供資料)

 「これらの取り組みの結果、登録生産者や出品商品に関連する主要KPIを約80%改善することができた。現状の数値をモニタリングしている限りでは、売り上げに対しても数百万円単位での貢献が見込まれている」

トップダウンとボトムアップの両方が重要

 栗岡氏は一人体制の情シスであっても売り上げや利益に貢献できるように取り組みを進めてきた。その成果は明確な数字としても表れており、1人当たりの売り上げは前年比120%に向上。労働分配率も前年比で約30%改善されたという。

 同氏は、従業員のスキルや意識を底上げする「ボトムアップ型」と、抜本的な変革で経営インパクトをもたらす「トップダウン型」の改善を、双方バランスよく進める重要性を強調する。

 「トップダウン型の改善を形にできたのは、それまでのボトムアップ型の取り組みを通じて、社内の信頼を獲得していたからこそだと考えている」

 もっとも、最初から全てを想定して動けたわけではないと振り返る。現場への提案が的を外したこともあれば、Claude Codeを使った開発プロセスでは、社内のエンジニアにフォローを仰ぐ場面もあった。また、取り組みを推進する上では、上長やマネジャー層からの後押しも非常に大きかったという。

 講演の最後に栗岡氏は「周囲の協力を得ながら、目の前の課題に泥臭く向き合い続けたからこそ、一人体制の情シスに対する認知を変え、最終的に売上や利益という経営指標に貢献することができた」と結んだ。

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