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AIを使っても「売上増」は2割以下? 優秀なAIを「無能な部下」にする企業の共通点

資料作成や情報収集など、生成AIによる業務効率化は多くの企業に浸透しつつある。しかし、AIへの投資を「売り上げ拡大」という本来のゴールへとつなげている企業はわずかだ。AIから事業成長に直結する回答を引き出すには何が必要なのか。その質を大きく左右するデータ整備の核心をエキスパートが解説した。

» 2026年06月22日 07時00分 公開
[名須川竜太キーマンズネット]

 ビジネスの現場で生成AIの導入が進む中、「調べ物や資料作成など、日常業務の効率化にとどまっている」と悩む担当者はいまだ多い。経営層が求める「売り上げ拡大」や「事業成長」といった成果につなげるには、AIが判断材料とする「自社固有の情報」(企業独自データ)が整備され、参照できる状態になっていることが不可欠だ。

 では、企業独自データはどのように整備し、AI活用につなげればよいのか。Sansanの藤田祐樹氏(Sansan事業部SMB第2営業部 シニアマネジャー)がその具体的なアプローチを示した。

「会社の稼ぎ頭」にするためのAIの使い方

 藤田氏は初めに、企業のAI活用の現状を述べた。Sansanが2026年2月に実施した「企業のAI活用に関する実態調査」によれば、AIツールの導入による具体的な成果として約6割が「調べ物や情報収集が効率化された」と回答するなど、AIによる業務効率化はすでに当たり前となりつつある。だが一方で、「受注率/単価が向上し、売り上げにつながった」と実感している企業は18.9%にとどまり、全体の2割にも満たない。

Sansan「企業のAI活用に関する実態調査」具体的な成果の回答内容(提供:Sansan)

 AI導入では、ツール利用料の他にデータ整備やシステム連携、運用体制の構築など、さまざまな費用が発生する。それらの投資を回収するためにも、「便利になった」だけで終わらせず、営業戦略や意思決定を高度化し、事業成果にどれだけ寄与できるかをAI投資のゴールとしなければならない。だが、藤田氏は、その前には解決すべき課題が残されているとの見方を示す。

 藤田氏は、「ゴールへの到達を阻むのは、AIの精度や使い方などの問題ではありません。実はその手前に課題があります。それは『AIが的確な回答を導き出すために必要なデータが整備されていない』という問題です」と語る。

AIの回答の具体性を左右する「2つのデータ」

 AI活用を売り上げの拡大につなげるためには、どのようなデータが必要なのだろうか。生成AIが回答を導き出すために読み込ませるデータは、大きく2種類に分けられる。

 一つは「一般公開データ」だ。これは、企業のWebサイトやニュースリリース、有価証券報告書など、不特定多数がアクセスできる公開情報を指す。そして、もう一つが「企業独自データ」。これは企業活動の中で蓄積される、各社が独自に持つ唯一無二の情報だ。

 一般的なAIサービスは、標準の状態で使う場合、与えられたプロンプトについて一般公開データから類推し、統計的に確からしい答えになるよう回答を組み立てる。これは誰もが汎用(はんよう)的にAIを扱えるように設計された結果であり、決して悪いことではない。

 しかし、ビジネスの実務において、売り上げを増やすための具体的な営業戦略や意思決定にAIを利用する場合、標準状態のAIが生成する情報は具体性に欠け、不足を感じてしまう。それぞれの企業にとって的を射た回答をAIに導き出させるには、一般公開データに加えて、自社固有の情報である企業独自データをAIが参照できるようにして、まずは「自社について知ってもらう」必要がある。これが生成AIの回答の有用性を高めるための最重要ポイントだ。

顧客との「接点データ」の蓄積はなぜ難しいのか?

 AIに参照させる企業独自データとは、具体的に何を指すのか。藤田氏によれば、これは普段の業務で顧客とやりとりしている「接点の履歴」となるデータであり、大きく2つに分類される。

 一つは、案件や契約にかかわるデータだ。すでに受注している企業の契約状況や、過去の受注・失注履歴、案件・商談履歴、請求書、提案書、契約書などが該当する。これらのデータは、営業支援システム(SFA)や顧客管理システム(CRM)、基幹システムなどにより、すでに多くの企業で管理基盤が確立されており、比較的データベース化を進めやすい領域だ。

 もう一つは、コミュニケーションを記録した「接点データ」だ。「接点データには、名刺情報や取引先と社内のつながり、商談の同席者履歴、メールや電話の履歴、さらには、接待や会食での会話内容、案件を進める中で出会ったステークホルダーやキーマン情報などが含まれます。単なる案件の進捗ではなく、顧客とどのような関係性を築いているかを示す極めて重要なデータです」(藤田氏)

企業独自データとは(提供:Sansan)

 生成AIが営業戦略や受注傾向を分析する際は、この接点データが不可欠だが、実は蓄積が最も難しいデータでもある。

 営業担当者は日々、商談や移動、メール対応、提案資料作成など、多くの業務を抱えている。その中で、誰とどんな会話をしたか、同席したキーパーソンは誰だったかを細かくシステムに記録し続けるのは大きな負担となる。その結果、窓口担当者の情報だけが登録され、意思決定にかかわる重要な人物の情報が抜け落ちてしまう。あるいは、受注見込みが高い案件だけが記録され、日々の細かなコミュニケーション履歴が残らないといった事態が頻発する。

接点データの蓄積が難しい理由(提供:Sansan)

 実際、前出の調査でも、「AIがすぐに分析できる状態でデータが完璧に整っている」と回答した企業は22.2%にすぎない。「データベース化されていない」(5.6%)、「ほとんど整っていない」(13.8%)、「一部整っている」(57.3%)という回答を合わせると、約8割の企業がAI活用の前段となるデータ整備に課題を抱えているのだ。

データが不足したAIは一般論しか返さない

 それでは、企業独自データが不足している状態と、十分に参照できる状態とでは、AIの回答の質にどのような違いが生じるのだろうか。

 例えば、営業戦略を練るために「本年度の受注案件における受注再現性の高いパターンは?」とAIに質問したとしよう。企業独自のデータが不十分な場合、AIは公開情報を基にして「競合より価格優位性があります」「コスト重視の顧客に刺さりやすいです」といった回答を返すだろう。これらは間違いではないが、「そんなことは分かっている」と感じるような当たり障りのない内容だ。「受注率が高い企業の傾向は?」と聞いても、「自社サービスとの親和性が高い業種です」といった抽象的な回答にとどまる。

企業独自データが不十分な場合(提供:Sansan)

 一方、AIが企業独自データを参照できる場合、その回答内容は一気に具体性を帯びてくる。

 藤田氏は、「例えば、『受注案件における受注再現性の高いパターンは?』という質問に対して、単なる価格や業種の話ではなく、『営業部門だけでなく、情報システム部門のキーパーソンにも接触していた案件の受注率が高い(40件中28件、70%)』といった自社の活動実績に基づく具体的な分析結果を返せるようになります」と説明する。

 また、「受注率が高い企業の傾向は?」という質問に対しても、業種だけでなく、商談化までのリードタイムの短さや、役職者との接点数、社内でどれだけ広く関係性を持てているかといった点にまで踏み込んだ示唆が可能になる。AIが単に一般論を語る汎用ツールから、自社の営業活動を理解、分析し、より実践的な示唆を与えてくれる戦略的パートナーへと変わる。

企業独自データが十分にある場合(提供:Sansan)

企業独自データに不可欠な「構造化」と「鮮度」

 売り上げ拡大に直結する有用な示唆を得るためには企業独自データが不可欠だが、データを集めて蓄積すればよいというわけではない。生成AIが有効な示唆を返すためには、データが活用できる状態で維持されている必要がある。それに不可欠な要件が「構造化」と「鮮度」だ。

 構造化とは、データが整理され、AIが正しく理解できる状態になっていることを指す。情報がバラバラの形式で管理されていたり、部署ごとに管理方法が異なっていたりすると、AIは横断的な分析ができない。

 構造化で重要なのは「一意性」だ。これは同じ企業や人物の情報が重複せず、AIが同一のデータとして正しく認識できる状態を意味する。

 「例えば、『Sansan株式会社』『SANSAN(株)』『三三株式会社』のように同じ対象を指す場合でも表記が揺れていると、AIは別々の企業として認識してしまう可能性があります。表記揺れや重複を統一し、正しく識別できる状態にしておくことが求められます」(藤田氏)

データの一意性とは(提供:Sansan)

 「網羅性」も重要だ。これは社名や住所の他、業種、従業員規模、企業動向、リスク情報、企業キーワードなど、AIが分析、推論するための基礎となる属性項目が幅広く付与されている状態だ。こうした属性情報がそろっていれば、AIは企業の特徴や傾向をより正確に理解できるようになる。

 もう一つの要件である鮮度とは、データが正確かつ最新の状態で更新され続けることだ。どれほど大量のデータがあっても、古い情報や更新されていない情報では、正しい示唆を返すのは難しい。

 鮮度を構成する要素の一つは「最新性」だ。住所変更や社名変更、担当者の異動など、企業情報は刻々と変化する。システム側の情報が自動的に更新され、常に最新の状態に保たれていなければならない。

 また、入力ミスや誤記がなく、データが正しい値として管理されている「正確性」も必要だ。社名の誤記や古い住所情報、法人番号の欠損などがあると、誤った情報を前提に分析が進んでしまう恐れがある。

データの正確性とは(提供:Sansan)

 そして最後に「完全性」が求められる。これはAIが分析に必要なデータを欠損なく保持できている状態を指す。人が業務を行う場合は、重要項目が抜け落ちていても経験や推測で補えることがある。しかし、AIは与えられたデータを前提に分析を行うため、必要な情報が欠けていると、分析精度や示唆の質に直接的な悪影響が及んでしまう。

現場の負担なく“AIレディ”な基盤を構築し、売り上げ拡大へ

 構造化と鮮度を満たすデータ整備がAI活用において重要であることは明らかではあるものの、これを全て手作業で行うのは極めてハードルが高い。Sansanが2025年11月に実施した「企業のデータ管理に関する実態調査」によれば、表記揺れの修正や重複データの解消といったデータクレンジングに、担当者1人当たり月10時間程度の工数をかけており、システム統合やデータ基盤の整備を含めると平均投資額は約6.4億円に上る。

 日本企業では、部署ごとにシステムが分かれていたり、「Microsoft Excel」や紙の帳票による管理が残っていたりするケースが多く、データが分散しやすい。だからこそ、現場に過度な負担をかけずに、日々の業務の中で自然とデータが蓄積され、整理される仕組みを作ることが不可欠となる。

 この課題に対しては、ビジネスデータベース「Sansan」が有効だという。営業担当者が集めた名刺をスキャンするだけで顧客情報がデータ化され、独自のデータ技術と名寄せ機能で重複を防ぎながら非構造データが構造化される。

 「業種や売り上げ規模などの属性情報も独自のデータベースによって自動的に付与され続けるため、現場に負担をかけることなく“AIレディ”な接点データ基盤を構築できます。また、データ連携ソリューションを活用してSFAやCRMなどに散在する社内データを整理することで、AIの判断材料が増え、より質の高いアウトプットの生成を期待できます」(藤田氏)

Sansanの技術によるデータ連携(提供:Sansan)

 これからのAI投資のゴールは、日常業務の単なる効率化で終わらせず、売り上げ拡大や事業成長にまでつなげることとなる。そのためには、自社の顧客接点や商談履歴などの企業独自データが不可欠だ。このデータは単に蓄積するだけでなく、AIが正しく理解できるよう構造化され、常に鮮度が保たれた状態を維持しなければならない。今後は「どのAIを使うか」に加えて、「AIに何を学習/参照させるか」が企業競争力を左右する。

本稿は、2026年6月2日に開催されたカンファレンス「Al Market ExCon 2026」(主催:BizTech)のSansan講演「売り上げ拡大を支える生成AI活用の核心 〜成果を左右するデータ整備の考え方〜」における内容を基に、編集部で再構成した。

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