「RPAオワコン」説に迫る 生成AI時代到来で業務自動化はどう変わったか【まとめ読み】:業務自動化に関するアンケート調査 2024
生成AIが登場し、RPAの失速が囁かれる中、業務自動化の取り組みに変化は見られるのか。キーマンズネット調査を基にした記事7本から見えた「業務自動化の現在地」とは。
業務効率の向上や人的ミスの削減などを目的として、多くの企業が取り組む業務自動化。「ChatGPT」をはじめとする生成AIツールを導入する企業が増える中で、これまでRPA(Robotic Process Automation)を中心に進んできた業務自動化にどのような影響が出ているのか。
キーマンズネットでは、毎年実施している調査の最新版「業務自動化に関するアンケート調査 2024」(期間:2024年8月6〜30日、有効回答数:359件)の結果をひもとき、これまで7本の記事を公開してきた。
RPAはオワコン? 「自動化ツール」としてのChatGPTの満足度
今回は、以下の7本の記事のポイントをまとめて紹介し、業務自動化の現在地をつかんでもらえるようにした。最近聞かれるRPAオワコン説は本当なのか。自動化ツールとして利用した場合のChatGPTの満足度とは。
これまで公開した記事一覧
- 第1回 なぜRPAを入れても“手作業”はなくならないのか? 「コストじゃない理由」
- 第2回 RPAで自動化する業務、どう決めている? 洗い出しフェーズで見直すべきこと
- 第3回 生成AI活用の年に企業が使う自動化ツールは進化したのか?
- 第4回 「ChatGPTを自動化ツールとして使ってみた」 企業のホンネ
- 第5回 ここで差がつく業務自動化 RPA実態調査で分かった「生成AI」の効果
- 第6回 RPAオワコン説は本当か? “利用やめた勢”が挙げた「コスト以外」の理由
- 第7回 「忙しすぎ情シス」をさらに追い込む? RPAプロジェクトを進める情シスの悲鳴
第1回 なぜRPAを入れても“手作業”はなくならないのか? 「コストじゃない理由」
第1回では、業務自動化における課題を中心に、業務自動化の取り組みに関する状況を明らかにした。
この回では、業務自動化に取り組む企業の多くが「部署を横断する取り組みに拡大できない」「全社にスケールしない」という課題を抱えていることが分かった。
課題の深刻さ順に1〜3位を選ぶ設問で、回答者が1位に選んだ割合が最も高かったのが「スキルのある人材が不足しているため、業務自動化プロジェクトが拡大できない」だった。
ツールの利用やプロジェクトが思うようにスケールしない場合の要因として、コストはよく挙がる項目だが、業務自動化の取り組みが拡大できないことに悩む回答者は、コスト不足よりも、自動化ツールが従業員に利用されないことや、どの業務を自動化すべきかが判断できないこと、システムが分散しているため十分な効果が出ていないことを「深刻な悩み」として選ぶ割合が高かった。
比較的予算に余裕がある5001人以上の大企業も「スキルのある人材が不足しているため、業務自動化プロジェクトが拡大できない」を最も大きな課題として選んでいることから、多くの企業にとって「スキルのある人材の不足」は大きな課題で、業務自動化がスケーできない要因だと考えられているようだ。
第2回 RPAで自動化する業務、どう決めている? 洗い出しフェーズで見直すべきこと
第2回では、業務自動化を実施する対象業務を多くの企業がどのような手段で決めているかが明らかになった。
自動化の対象となる業務の選定は多くの読者が重視しているようだ。第5回で明らかになったように、「自動化ツールの効果を左右する要因として、最も関与度が高いもの」を尋ねた質問に対して、「対象業務選定の的確さ」を挙げる回答者は全体の約4分の1に上った。
では、実際どのように選んでいるのかと言うと、最も多くの票が集まったのは「現場の従業員にヒアリング」(64.2%)という手法だった。
収集した業務データを分析して、業務プロセスの詰まりを発見する「プロセスマイニングツール」を利用している割合15.0%にとどまった。
業務を実際に実施している現場からのヒアリングは重要だが、全社単位での自動化に取り組む場合には、客観的なデータによる「不効率の可視化」によって、人間では見つけづらい、部署や部門をまたぐ業務プロセスに潜む「詰まり」をあぶり出すことができる。
第1回では「スキルのある人材の不足しているため、業務自動化プロジェクトが拡大できない」が多くの企業から最も深刻な課題として挙がっていたが、プロセスマイニングを利用するために必要な業務データの収集や分析にも高度なスキルが求められる。第2回は第1回で明らかになった「スキルの問題」を具体的に明らかにする回となった。
第3回 生成AI活用の年に企業が使う自動化ツールは進化したのか?
第3回では読者が最もよく使っている自動化ツールが明らかになった。結論から言うと、「RPA」(62.5%)が最多で、「Microsoft Excelのマクロ機能」(39.9%)、「生成AI(チャットbot以外)」(27.4%)といった他のツールを20ポイント以上引き離した。
回答者数や設問が全く同じではないことから参考程度だが、2023年に実施した前回調査に比べると、RPAの利用率は約10ポイント、Excelのマクロ機能は約20ポイント低下している。
2024年は「生成AI活用元年」とも言われる。今回から新しく追加した「生成AI(チャットbot以外)」は27.4%で、単独ではRPAに及ばないが、「生成AIを利用したチャットbot」(19.8%)と合わせると47.2%になり、Excelのマクロ機能を上回る。「生成AI以外のAI/機械学習」(14.6%)と合わせると61.8%と、RPAに迫る
なお、「生成AI(チャットbot以外)」の利用率は従業員数が大きな企業の方が高くなる。1001〜5000人の企業では33.9%、5001人以上の企業では41.6%が「利用している」と回答したのに対して、1000人以下の企業で同じ回答を選択した割合はいずれも10%代にとどまっている。
なお、自動化対象領域としては「データ分析」がトップだった。2023年の調査でもトップだったことから需要の高さが分かる。今後、AI技術がさらに進展することによって分析の精度やスピードの向上が見込めることから、自動化対象領域として今後も大きな可能性が予測される。
第4回 「ChatGPTを自動化ツールとして使ってみた」 企業のホンネ
第4回では、生成AIやAIを業務自動化ツールとして利用している企業の本音に迫った。
業務自動化ツールとして利用率が高かったのは、「ChatGPT」がトップで、「Microsoft Copilot」「Copilot for Microsoft 365」が続いた。利用した手応えとしては、過半数の回答者が「満足」と答えた。
「満足できない」と答えた企業からは、「特定の人が利用しており、社内への浸透が進んでいない」「期待する答えが返ってこない」といった声が寄せられた。
特に生成AIは新しい技術であることから、「どのAIモデルを利用すれば良いか判断がつかない」という課題に多くの票が集まり、「どのように(AIの効果を)評価すべきかは定まっていない」という企業も多くあった。
「早くも幻滅期に入った」と言われる生成AIだが、今回の調査からは、企業の取り組みはまだ初期段階にあり、どう評価すべきかという指標はこれから固めていくという企業が多くある様子が見られる。今後、利用段階が進む中で、生成AIやAIに対する評価が定まっていくのだろう。
第5回 ここで差がつく業務自動化 RPA実態調査で分かった「生成AI」の効果
第5回では、業務自動化の効果を企業がどのように評価しているかが明らかになった。
業務自動化ツールに対する評価の指標として、最も多くの回答が集まったのが「削減できた時間」だったが、「指標を設定しておらず、評価していない」にそれに次ぐ票が投じられた。これは「人件費の増減」よりも多い。
業務自動化の取り組みが「目標以上の成果を出した」企業と、「目標を下回った」企業を分けるものは何か。注目点は、「目標以上の成果を出した」企業の方が、ChatGPTをはじめとする生成AIツールを導入している率が高い傾向にあったことだ。
ただし、第4回で、生成AIツールには導入した企業の過半数が満足している半面、どう評価すべきかが定まっていない企業も多く見られたことから、「生成AIツールの導入による成果が高い」とは一概に言えないように思える。
現時点で、検討段階を終えて生成AIツールを導入している企業は、これまでの業務自動化で既に目標以上の成果を出している企業に多いということかもしれない。
生成AIによる業務自動化施策全体への影響については次回以降も見ていきたい。
第6回 RPAオワコン説は本当か? “利用しない勢”が挙げた「コスト以外」の理由
第6回では、最近聞かれる「RPAオワコン説」に迫った。
今回の調査によると、RPAを利用している読者の割合は若干減り、RPAの利用を取りやめた読者の割合は若干増えている。
しかし、RPAを利用している企業の満足度は6割超と高い評価を受けており、特に大企業を中心にRPAの業務自動化戦略全体の中での重要度が高かったことから、RPAは「オワコン」とは言い切れないのではないか。
大企業と中堅・中小企業では利用率や利用方法に関しては大きな違いが出たが、「RPAロボットのスキルを持った人がいない」「運用費用」「ロボットが停止する」などは共通の課題となっているようだ。RPAに関してもスキルを持った人材の不足は深刻であることが分かる。
第7回 「忙しすぎ情シス」をさらに追い込む? RPAプロジェクトを進める情シスの悲鳴
第7回では、業務効率を改善するための取り組みである業務自動化プロジェクトが、多くの企業で推進役を任されがちな情報システム部門(情シス)の担当者の業務負担を増している実態が明らかになった。
調査からは、情報システム部門に所属する読者の約8割が、業務自動化に関する業務の負担について「重たい」と回答している。この内訳は「かなり重い」(9.0%)、「重い」(18.0%)、「どちらかと言うと重い」(52.4%)だ。
特に従業員数101〜5000人の企業では、業務自動化プロジェクトの推進役を「情報システム部門」との回答が約4割に上る。5001人以上の大企業では「DX推進部門」が約4割を占めているのと対照的だ。比較的少人数でさまざまな業務をこなす必要のある中堅・中小企業の情シスが、業務効率化のためのプロジェクトに圧迫されているという皮肉な状況が浮かび上がった。
ここまで、7本の記事のポイントを振り返った。生成AIやAIは単独での利用はもちろん、さまざまな自動化製品に組み込まれるようになっている。今回の調査でも、「生成AIやAIを製品に組み込んでいること」が、製品選定のきっかけや決め手になったと回答する企業が一定数あった。
生成AIやAIによって自動化対象業務の範囲を拡大したり、自然言語が利用できることでツールを習熟する時間の短縮が図れたりする半面、今後の利用拡大によって、業務自動化の在り方はさらに変わりそうだ。
一方で、生成AIやAIをしっかりと活用するためには高度なスキルが不可欠だ。比較的人材の採用や育成、アウトソーシングに予算をかけられる大企業も含めて「リスクのある人材の不足」が大きな課題となっている。
今後の調査ではこの辺りの問題を中心に、定点観測も含めて「業務自動化の現在地」を明らかにしたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 生成AI時代、RPA活用はどう変わる? 今、見直したい業務自動化の手段
生成AI搭載、あるいは生成AIとの連携をうたうRPA製品が増える今、製品選定のポイントは何か。また、生成AIが登場したことで「自社に最適の業務自動化の手段」の選び方はどう変わるのか? - 中堅・中小企業のRPAブームは一段落 「導入つまづきポイント」が調査で判明
ノークリサーチが中堅・中小企業を対象に実施した調査によると、RPAブームは一段落したとみられるという。中堅・中小企業のRPA導入、利用拡大を阻む「つまづきポイント」とは。 - パンク寸前の情シス、でもIT業務の外注サービス「6割が利用予定なし」はなぜ? 実態調査
情報システム部門の負荷を軽減したいと考えるときに、選択肢の一つとなるのが、業務の一部を切り出してIT系BPOサービスに委託することだ。しかし、キーマンズネットの調査によると、サービスの認知度が高い割に、回答者の多くが「利用予定なし」と答えた。その理由とは。 - RPAブームの行方を大規模調査から読み解く 導入率はどう変わった?
RPAブームから数年がたった今、企業におけるRPA活用率はどのように変化しているのか。大規模調査から読み解く。